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本編
たんたんと罠にはめる(5)
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カリッドが宿泊しているだろう宿についたのだが、見るからにお高そうな宿である。彼の方が三日前から休暇を取得しているため、彼女がここに来るまでずっとこのお高い宿にお泊りをしていたようだ。
「モニカ殿」
なかなかその建物の中に入れず、茫然と立ち尽くしていたモニカに声をかけてきた人物がいる。
「あれ、イアンさん。どうかされましたか?」
「どうかされましたか、ではなく、モニカ殿を迎えに参りました。時間になっても来ない、とカリッド様がそわそわされておりましたので」
「もしかして、迷子になってると思われたんですかね」
あはははと笑って誤魔化した。まさか、この高めなお宿の敷居を怖くてまたげないとか、口が裂けても言えない。
「お荷物、預かります」
「あ、いえ、大丈夫です」
「こういうときは、素直に預けてください」
「あ、はい。ありがとうございます。それよりも、イアンさんもご一緒なんですね」
「ええ、私はカリッド団長の事務官ですから」
そこでイアンはくいっと眼鏡を右手の人差し指で押し上げる。
「大変なんですね、事務官というお仕事も。上官の休暇についていかなきゃならないなんて」
どうやらモニカは何も知らないらしい。カリッドという男のことを。
モニカはイアンに案内され、そのちょっと足を踏み入れにくいお高そうな宿へと入ることに成功した。
イアンが受付で何か言葉を交わし、そしてまたモニカはイアンの案内によって部屋へと移動する。
その部屋も最上階で、見るからにお高そうな部屋である。
イアンが豪勢な扉をノックすると、中から耳に馴染んだ声が聞こえてきた。
「失礼します」
イアンに促され、部屋へと入ったモニカだが、やはりこの部屋もお高そうである、ということだけはわかった。
「モニカ、遅いから心配したじゃないか」
モニカの顔を見るなり、カリッドが激しい顔つきで言ってきた。
「あ、はい。すいません」
こういうときのカリッドには素直に謝るに限る。それは、この一年、彼の部下として仕えたことによる経験から。
「では、私はこれで失礼します。隣の部屋におりますので、何かありましたらお声がけください、モニカ様」
イアンはそう言うと、この豪華な部屋から出て行った。その背中を寂しそうに見送るモニカに気付いたのか、カリッドはそっと彼女の後ろに立った。
「モニカ」
「ひっ……な、なんですか、団長。驚かさないでください」
急に名を呼ばれたモニカは右手を垂直にあげ、その手の平を下に向け、そして左手は肘から垂直に曲げて自分の方に手の平を向けてしまうという情けない恰好をしてしまった。
「そんなに、イアンが気になるのか?」
「はひっ?」
「いや、君が熱心にイアンを見つめていたから」
「いえ、違います。休暇の日まで団長のお守りとは、大変だな、と思っただけです」
「お守り……」
あながち嘘ではないため、カリッドも反論はできない。
「あいやー、それにしてもいいお部屋ですね。怖くて、その辺に座れないです」
モニカは室内をきょろきょろと見渡した。
「モニカ。ここに座れ。荷物は、預かる」
あまりにもモニカが立ち尽くしながらきょろきょろとしていたためか、カリッドが無理やりモニカの荷物を持って、奥の部屋へと消えて行った。
奥の部屋。あの部屋には何があるのか。
いや、この部屋に寝台が無いのだから、恐らくあの部屋に寝台があるのだろう。こうやって表の部屋から見えないような作りになっている時点で、やはり高級なお宿だ。
モニカは座れと言われたので、その座れと言われた場所にちょこんと座ってみた。ソファがふかふかしていて、座った途端沈みそうになってしまった。
「モニカ殿」
なかなかその建物の中に入れず、茫然と立ち尽くしていたモニカに声をかけてきた人物がいる。
「あれ、イアンさん。どうかされましたか?」
「どうかされましたか、ではなく、モニカ殿を迎えに参りました。時間になっても来ない、とカリッド様がそわそわされておりましたので」
「もしかして、迷子になってると思われたんですかね」
あはははと笑って誤魔化した。まさか、この高めなお宿の敷居を怖くてまたげないとか、口が裂けても言えない。
「お荷物、預かります」
「あ、いえ、大丈夫です」
「こういうときは、素直に預けてください」
「あ、はい。ありがとうございます。それよりも、イアンさんもご一緒なんですね」
「ええ、私はカリッド団長の事務官ですから」
そこでイアンはくいっと眼鏡を右手の人差し指で押し上げる。
「大変なんですね、事務官というお仕事も。上官の休暇についていかなきゃならないなんて」
どうやらモニカは何も知らないらしい。カリッドという男のことを。
モニカはイアンに案内され、そのちょっと足を踏み入れにくいお高そうな宿へと入ることに成功した。
イアンが受付で何か言葉を交わし、そしてまたモニカはイアンの案内によって部屋へと移動する。
その部屋も最上階で、見るからにお高そうな部屋である。
イアンが豪勢な扉をノックすると、中から耳に馴染んだ声が聞こえてきた。
「失礼します」
イアンに促され、部屋へと入ったモニカだが、やはりこの部屋もお高そうである、ということだけはわかった。
「モニカ、遅いから心配したじゃないか」
モニカの顔を見るなり、カリッドが激しい顔つきで言ってきた。
「あ、はい。すいません」
こういうときのカリッドには素直に謝るに限る。それは、この一年、彼の部下として仕えたことによる経験から。
「では、私はこれで失礼します。隣の部屋におりますので、何かありましたらお声がけください、モニカ様」
イアンはそう言うと、この豪華な部屋から出て行った。その背中を寂しそうに見送るモニカに気付いたのか、カリッドはそっと彼女の後ろに立った。
「モニカ」
「ひっ……な、なんですか、団長。驚かさないでください」
急に名を呼ばれたモニカは右手を垂直にあげ、その手の平を下に向け、そして左手は肘から垂直に曲げて自分の方に手の平を向けてしまうという情けない恰好をしてしまった。
「そんなに、イアンが気になるのか?」
「はひっ?」
「いや、君が熱心にイアンを見つめていたから」
「いえ、違います。休暇の日まで団長のお守りとは、大変だな、と思っただけです」
「お守り……」
あながち嘘ではないため、カリッドも反論はできない。
「あいやー、それにしてもいいお部屋ですね。怖くて、その辺に座れないです」
モニカは室内をきょろきょろと見渡した。
「モニカ。ここに座れ。荷物は、預かる」
あまりにもモニカが立ち尽くしながらきょろきょろとしていたためか、カリッドが無理やりモニカの荷物を持って、奥の部屋へと消えて行った。
奥の部屋。あの部屋には何があるのか。
いや、この部屋に寝台が無いのだから、恐らくあの部屋に寝台があるのだろう。こうやって表の部屋から見えないような作りになっている時点で、やはり高級なお宿だ。
モニカは座れと言われたので、その座れと言われた場所にちょこんと座ってみた。ソファがふかふかしていて、座った途端沈みそうになってしまった。
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