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本編
だんだんと罠にはまる(4)
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それもこれもモニカが悪い。彼女が可愛すぎて、いい匂いすぎて、そうやってカリッドを刺激してくるのが悪い。
「団長、とりあえずタオルをお持ちしましたが。火傷などは、されていませんか?」
モニカは手にしていたタオルの一枚をカリッドに手渡すと、もう一枚は自分で手にしたまま、そのお茶の零れたところを拭き始める。床に膝をつき、顔の前に流れてきた髪の毛が邪魔なのか、それを耳にかけるような仕草をしてから、タオルでソファとカリッドの濡れたガウンの裾を拭き上げるのだが。
(ま、まずい……)
カリッドのヤツが目を覚ましてしまう。それの原因もそうやって濡れたところを拭いてくれるモニカのその姿だ。ちょうどカリッドの視線のいい位置に、彼女のガウンの合わせ目があって、そして豊かな二つの山の麓が見え隠れしているのだ。しかも身につけている下着が黒とか、黒とか、黒とか。なぜ黒なんだ、というカリッドの脳内はすでに混乱し始めている。
「団長。大丈夫ですか? もしかして、火傷してしまいました? すぐに冷やした方がいいですよね」
カリッドは違う意味で火傷しそうだった。
「こちらの方は濡れていませんか? 大丈夫ですか?」
モニカはタオルでカリッドの太ももの上を拭こうとしている。今、そのようなところを彼女に触れられたら、いろんな意味で非常にまずい。
「大丈夫だ」
カリッドはモニカの手首を掴んだ。それ以上、触れるな、という意味をこめて。だけど、それはそれで失敗してしまった。驚いたモニカがカリッドを見上げてくるのだ。
ぷっつん、とカリッドの理性を辛うじて保っていた糸が切れた。空いている手で彼女の頭の後ろに触れ、自分の顔へと押し付ける。
最初の口づけよりは長い時間。柔らかくて、甘くて、唇が触れているだけなのにとろけそうになる感覚。
「……んふっ」
モニカの声で、カリッドは自分のしでかしたことに気付いた。彼女の頭を固定していた手をゆるゆると放す。
「す、すまない」
「もしかして。先ほど、その、私が団長と呼んでしまった回数もカウントされているんですか? それは、不可抗力ですよ。お茶をこぼす人が悪いんです。ただでさえ呼び慣れていないのに」
カリッドはモニカの言っている意味をすぐさまに理解することができなかった。だが、今の口づけは、彼女が「カリッドのことを団長と呼んでしまったことに対するペナルティ」と思っている、ということを理解した。
「モニカ。いつも言っているだろう。どんな状況においても冷静にものごとを判断しろ、と。俺がお茶をこぼしたくらいで、俺のことを団長と呼んでしまったら、君が俺の偽物の恋人であると周囲に知られてしまう」
「え。もしかして、団長がお茶をこぼしたのって。わざとなんですか?」
「そうだ(いや、違う)」
「えー。ちょ、ちょっと酷いです。心配して損しました。もう、自分で拭いてくださいよ」
モニカは手にしていたタオルをぽいっとカリッドに投げつけた。
「だが、君が俺のことを団長と呼んだことはカウントしておこう。だが、今ので、君が何回呼んだかわからなくなってしまったから、とりあえず合計十回でいいな」
「なんなんですか、そのとりあえずって」
でも、十回以上は団長と呼んでいるような気がするモニカだが、モニカ自身も数えるのが面倒くさくなりつつある。しかも二回も口づけをしたら、三回も四回も同じような気がしてきた。
というのは、母親が「子供はね。二人生んだたら、三人も四人も手のかかり具合って同じなのよね」とよく言っていて、そんなモニカは六人兄弟なのだ。つまり、モニカの母理論によると、二と三と四は六と同じということになる。
「悪いが、また風呂に入ってくる」
「はいはい」
モニカはあきれて、ひらひらと手を振った。恋人役も楽じゃない。
「団長、とりあえずタオルをお持ちしましたが。火傷などは、されていませんか?」
モニカは手にしていたタオルの一枚をカリッドに手渡すと、もう一枚は自分で手にしたまま、そのお茶の零れたところを拭き始める。床に膝をつき、顔の前に流れてきた髪の毛が邪魔なのか、それを耳にかけるような仕草をしてから、タオルでソファとカリッドの濡れたガウンの裾を拭き上げるのだが。
(ま、まずい……)
カリッドのヤツが目を覚ましてしまう。それの原因もそうやって濡れたところを拭いてくれるモニカのその姿だ。ちょうどカリッドの視線のいい位置に、彼女のガウンの合わせ目があって、そして豊かな二つの山の麓が見え隠れしているのだ。しかも身につけている下着が黒とか、黒とか、黒とか。なぜ黒なんだ、というカリッドの脳内はすでに混乱し始めている。
「団長。大丈夫ですか? もしかして、火傷してしまいました? すぐに冷やした方がいいですよね」
カリッドは違う意味で火傷しそうだった。
「こちらの方は濡れていませんか? 大丈夫ですか?」
モニカはタオルでカリッドの太ももの上を拭こうとしている。今、そのようなところを彼女に触れられたら、いろんな意味で非常にまずい。
「大丈夫だ」
カリッドはモニカの手首を掴んだ。それ以上、触れるな、という意味をこめて。だけど、それはそれで失敗してしまった。驚いたモニカがカリッドを見上げてくるのだ。
ぷっつん、とカリッドの理性を辛うじて保っていた糸が切れた。空いている手で彼女の頭の後ろに触れ、自分の顔へと押し付ける。
最初の口づけよりは長い時間。柔らかくて、甘くて、唇が触れているだけなのにとろけそうになる感覚。
「……んふっ」
モニカの声で、カリッドは自分のしでかしたことに気付いた。彼女の頭を固定していた手をゆるゆると放す。
「す、すまない」
「もしかして。先ほど、その、私が団長と呼んでしまった回数もカウントされているんですか? それは、不可抗力ですよ。お茶をこぼす人が悪いんです。ただでさえ呼び慣れていないのに」
カリッドはモニカの言っている意味をすぐさまに理解することができなかった。だが、今の口づけは、彼女が「カリッドのことを団長と呼んでしまったことに対するペナルティ」と思っている、ということを理解した。
「モニカ。いつも言っているだろう。どんな状況においても冷静にものごとを判断しろ、と。俺がお茶をこぼしたくらいで、俺のことを団長と呼んでしまったら、君が俺の偽物の恋人であると周囲に知られてしまう」
「え。もしかして、団長がお茶をこぼしたのって。わざとなんですか?」
「そうだ(いや、違う)」
「えー。ちょ、ちょっと酷いです。心配して損しました。もう、自分で拭いてくださいよ」
モニカは手にしていたタオルをぽいっとカリッドに投げつけた。
「だが、君が俺のことを団長と呼んだことはカウントしておこう。だが、今ので、君が何回呼んだかわからなくなってしまったから、とりあえず合計十回でいいな」
「なんなんですか、そのとりあえずって」
でも、十回以上は団長と呼んでいるような気がするモニカだが、モニカ自身も数えるのが面倒くさくなりつつある。しかも二回も口づけをしたら、三回も四回も同じような気がしてきた。
というのは、母親が「子供はね。二人生んだたら、三人も四人も手のかかり具合って同じなのよね」とよく言っていて、そんなモニカは六人兄弟なのだ。つまり、モニカの母理論によると、二と三と四は六と同じということになる。
「悪いが、また風呂に入ってくる」
「はいはい」
モニカはあきれて、ひらひらと手を振った。恋人役も楽じゃない。
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