俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ

澤谷弥(さわたに わたる)

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本編

だんだんと罠にはまる(5)

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 再びカリッドがヤツを静めてから部屋に戻ると、モニカはソファに寄り掛かりながらうとうととしていた。不規則にその頭が揺れ、カクンと大きく揺れたかと思うと慌てて反対方向に揺れるそれが、壊れかけの玩具のようで面白い。

「モニカ」
 カリッドは優しく声をかけた。彼女と時間を共に過ごしたのはほんの数時間ではあるが、カリッドもヤツを制御する術というものを身につけ始めた。つまり、慣れてきたということだ。彼女に翻弄されるのは、何も今に始まったことでは無いではないか、と自分に言い聞かせ、今までの過去のことを思い出すと、冷静になれたものだった。

「モニカ」

 もう一度声をかけると、彼女の頭が激しく動いた。そしてその名を呼んだ主を探すかのように大きく首をまわす。

「あ、だんちょー。あがったんですね」

 寝起きだからか、モニカの呂律が回っていない。
 落ち着け、俺、とカリッドは心の中で唱えてから。

「モニカ、そんなところで寝ては風邪をひいてしまう。寝台で寝ろ」

「あ、はい。すいません。なんか、ちょっと気が抜けたら眠くなっちゃって」

 しょぼしょぼとする目をこすりながら、モニカは立ち上がった。

「でも、団長。このお部屋、寝台が一つしかなくて、どこで寝たらいいかわからないんです」
 奥の部屋へと向かう途中で、モニカが言う。カリッドは思わずゴクリと喉を鳴らしてしまう。

「とにかく、寝台できちんと毛布をかぶって寝ろ」

「はい」
 広い寝台にそろりと腰をおろし、そしてゆっくりと足をあげるモニカのその姿はカリッドの目にとっては毒だった。それでもモニカはよほど眠かったのだろう。毛布でくるりと自らを包むと、すぐに規則正しい寝息を立ててしまった。

 はあ、とカリッドは息を吐いた。彼女が眠ってしまったら、何もできない。いや、何もしてはならない。イアンには無理やりはダメだと釘を刺されたから。
 カリッドは眠る彼女の顔をよく見える位置に、腰をおろした。ギシリと寝台が沈む。

 確かモニカは今年で二十二になったところだ。彼女だって結婚をしてもおかしくはない年齢であるのに、騎士としての職務のためか、いまだに独身。そして、この恋人役を頼んだ時に、付き合っているような異性もいないというようなことを言っていた。
 これはチャンスと思っていいのか。
 このようにして眠っている姿は、年齢より幼く見える。この黒い髪と白い肌はリヴァージュの民の特徴だ。だが、狩りをするためか次第にその肌は日に焼けると言われている。狩りをしない女性は、こうやって白い肌を保てるのだとか。もしかしたら、幼い頃のモニカもこんがりと日に焼けていたのかもしれない。騎士となって六年経っている今、その焼けた色も抜けてしまったのだろう。

 カリッドは右手で彼女の顔にかかっている髪を払った。絹の糸のような手触りのその髪は、払うとするりと寝台の上に広がった。

「ん……っ」

 ピクリとモニカの瞼が動き、カリッドの心臓はまた一際高く跳ねあがった。起こしてしまったかという焦りと、起きてしまったらどうしようというという戸惑いと。
 ゆっくりとモニカの瞼が開かれる。

「ん、ノーマン、どうしたの? 眠れないの?」

 ふとモニカの腕が伸びてきて、それがカリッドの首の後ろに回される。彼女が口にした「ノーマン」という男の名前が気になっていたからか、何が起きたのかを理解できないカリッドは、彼女のその腕に従ってしまった。そしてモニカは腕を引き寄せて、カリッドの頭を胸の方へと抱き寄せた。
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