俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ

澤谷弥(さわたに わたる)

文字の大きさ
16 / 41
本編

だんだんと罠にはまる(6)

しおりを挟む
 カリッドのいうところの、ふんわふんわが彼の目の前にあった。むしろ、それに顔を押し付けられている。しかも、いい匂い。
 彼女がくるまっていた毛布が、カリッドの肩にもかけられる。だが、彼の足は寝台の外にあるという中途半端な状態だ。
 これは、無理やりではないと理解したカリッドは、こうやって彼女と一緒に寝ることを心に決めた。中途半端に外に出ていた足も、寝台の上にあげ、彼女と並んで横になる。腕の置き場に困った。そっと、モニカの背に回してみる。

「ノーマン、甘えん坊さんね」

 彼女の手が優しくカリッドの頭を撫でる。

(こ、これは……。気持ちがいいかもしれない……)

 モニカの魅力にドキドキと興奮させられてばかりいたカリッドであるが、こうやって頭を撫でられるのは心地が良い。相手がモニカであっても、ヤツが落ち着いているから不思議だった。
 カリッドはモニカと同じ毛布にくるまり、次第に重くなる瞼に従った。

 気が付くと、身体の自由を奪われていた。寝返りを打とうかと思ったけれどそれができないのだ。なんとか重い瞼を開けてみたが、目の前には何も無い。だが、身体をがっちりと拘束されている。後ろから腕がまわって、ぎっちりと抱きしめられている。しかも、臀部に何か硬いものが当たっているような感じがしないでもない。
 モニカはその拘束を解くために、もぞもぞと身体をよじってみた。だが、胸の前にある腕は重くて、解けそうにもない。仕方ないので向きを変えようと思った。なんとか身をよじって、左腹が下になっている状態から、右腹を下にする状態へ。

「……ひっ」

 わかってはいたが、目の前にはカリッドの顔が。しかもぐっすりと眠っている様子。だけど下腹部に触れる、何か硬い物。モニカは少し腰を引いた。それに触れてはならないような気がしたから。

「団長、団長。起きてください。朝ですよ」

 瞼がピクピクと動くもののそれが開く気配はない。

「団長、団長。朝ですよ」

 モニカが声をかけても、その声が届かないのか。仕方ないので、モニカは彼の眉間に向かって息を吹きかけてみることにした。ふーふーと勢いよく。そのたびに、彼の前髪がふわりと舞い上がる。
 なんか、面白くなってきたぞ。というのがモニカの心の声。息を吹きつけるたびに、彼の前髪がふわ、ふわっと、生きているかのように動くのだ。
 それに夢中になっていて、カリッドの瞼の動きには注意していなかった。

「それで、モニカ。君は朝から何をやっているのかな」
 さすがにあれだけ眉間に息を吹きかけられたら、カリッドも目を覚ますらしい。

「あ、団長。おはようございます。あの、私、起きたいので、この腕を解いてもらってもいいですかね。寝返りも打てないような状態なので」

「腕?」
 指摘されて、カリッドはあのまま自分がモニカを抱きしめながら眠ってしまったということに気付いた。ゆるゆると、その腕を解き、モニカを解放する。

「モニカ。だがな、君は昨日の約束をすっかりと忘れてしまったようだ」

「約束?」
 モニカがきょとんとカリッドを見つめる。

「俺を団長、と呼んだら口づけ、だ」
 カリッドは彼女を解放した手を、彼女の頭の後ろに添え、がっちりと固定したうえで唇を重ねる。
 深く、長く。だけどまだ、唇を合わせるだけのキス。名残惜しそうにカリッドはそれを離した。時間にして十数秒。彼にしては頑張った方である。

「もう、朝から何をするんですか。びっくりするじゃないですか」

「おはよう、の口づけだな。昨日、寝る前の口づけをする前に、君は眠ってしまっただろう」

「もしかして、恋人同士って、寝る前と朝起きた時と、その、口づけを交わすんですか?」

「そうだ(わからん)」

 そして、カリッドは気付いていた。彼女が着ているガウンが乱れて、その胸元がぱっかりと開いているということに。麓だけでなく、谷間まで見えている。しかも朝という自然現象も伴い、ヤツがすっかりと目覚めてしまった。

「あの、団長……。その、さっきから何か硬い物が当たってるんですけど。そろそろ、放してもらってもいいですかね?」

 どうやらモニカに気付かれていたらしい。

「自然現象だ。気にするな」
 と言い切ったカリッドが一番気にしていた。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

処理中です...