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本編
どんどんと罠が深まる(3)
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芝居が始まれば、モニカもその世界に引き込まれてしまう。今、自分がどこに座っているのかということを忘れてしまうほど。ときどきオペラグラスで役者の表情を見たり、そしてそれを外して舞台の全体を眺めたり、と、夢中になってその世界を堪能していた。
盛大な拍手が沸き起こり、舞台は幕を閉じる。
「はぁ……すごかったです……」
モニカは感嘆の声を漏らす。
「そうか。楽しんでもらえたのなら、誘った甲斐があったというものだな」
なぜかカリッドは笑いをこらえるような表情でそう言った。
「なんか、笑ってません?」
モニカがじーっとカリッドを見つめた。
「いや、そう、か?」
カリッドはそれを誤魔化すように、口元を手で押さえている。
「いや、絶対、笑ってますよね。その口元。その手を離してください」
モニカがカリッドの手首を掴みとると、そこからにやけた彼の口元が現れた。
「やっぱり、笑ってるじゃないですか」
「その。芝居に夢中になっている君の姿が、その、可愛らしくて、だな」
言い訳。いや、事実。
「可愛い?」
思わずモニカは聞き返してしまった。
「だ……リディは、私のことを、可愛いって、本気で思ってるんですか?」
ド直球な質問だった。この質問にどう答えるのが正解なのか。カリッドの頭の中は猛烈に回転していた。そう、間違えた配線を切断したら、この爆弾が爆発してしまうという気持ちくらいに。
間違えた答えを口にしたら、二度とモニカに触れることができなくなってしまうのではないか、と。
そして、こういうときに限って優秀な使用人であるイアンはいない。これは、試練なのだろうか。
「……思って、いる」
カリッドは嘘をつきたくなかった。自分の気持ちを隠したくなかった。もしかしたら、という期待も込めている。
モニカは思わず掴んでいた手を離してしまった。だが、今度は逆にカリッドにその腕を掴まれる。
「俺は、君のことを可愛いと思っているし、君と、もっとこういうことをしたいと思っている」
そこでカリッドは、己の唇でモニカのそれを塞いだ。もう、自分の気持ちをぶつけたのだから遠慮はしない。舌をいれ、舐り、絡め、己の唾液を注ぎ込む。朝よりも先ほどよりも長くて濃厚な口づけを交わし、カリッドはそっと身を引いた。
カリッドと視線を合わせたモニカは急に恥ずかしくなったのか、彼の胸元に顔を埋める。
「モ、モニカ……、どうか、したのか」
カリッドはそのモニカの態度に不安になった。もしかして、嫌われてしまったのではないか、と。
「……嬉しい、です……」
消え入るような声で聞こえてきたのはその言葉。
「モ、モニカ?」
「私のことをそう思ってくださったことが、嬉しいです」
「モニカ? すまないが、顔をあげて欲しい。君の顔を見たい」
「無理です」
「どうして?」
「嬉しいから」
嬉しすぎて、モニカの目からは涙が溢れていた。可愛いと言ってもらえたことが嬉しい。
女じゃない、可愛くない。幼い頃からそういう否定的な言葉ばかりをかけられていたモニカにとって、可愛いと言ってもらえたことは素直に嬉しい。
「嬉しい、というのは、その。まあ、え、と。あの」
カリッドは何か言いたいのだが、それがうまくまとまらない。だけど、一つだけ伝えるべきことがあると思っていた。
「モニカ。俺は、君のことが好きだ。どうか、俺の恋人になってほしい」
「え?」
涙に濡れた顔で、思わずカリッドを見上げてしまった。
「団長って、私のこと、好きなんですか?」
「好きでなかったら、あのような口づけはできない」
「え? 可愛いからとか、その結婚したくないから、だから恋人のふりをするとか、じゃなくて?」
「すまん。それは口実だ。恋人のふりではなく、本当は俺の恋人になってもらいたい」
驚いたモニカの涙は止まっていた。
「モニカ。もう一度きちんと言う。俺は、君のことが好きだ。どうか俺の恋人になってほしい」
「それは、新しいパワハラでしょうか」
と尋ねるモニカの目は笑っていた。
「断じて違う。これは俺の本心だ」
「任務ではない?」
「違う」
「団長は、その、私でよろしいのでしょうか?」
「君がいい。むしろ君しか良くない」
そこまで言われてしまったら、モニカも何か答えるべきだろうとは思うのだが。すぐには言葉が出てこない。
そもそもモニカもカリッドのことは嫌いではない。むしろ昨日から一緒にいて、なんとなく良いな、とは思えていた。
盛大な拍手が沸き起こり、舞台は幕を閉じる。
「はぁ……すごかったです……」
モニカは感嘆の声を漏らす。
「そうか。楽しんでもらえたのなら、誘った甲斐があったというものだな」
なぜかカリッドは笑いをこらえるような表情でそう言った。
「なんか、笑ってません?」
モニカがじーっとカリッドを見つめた。
「いや、そう、か?」
カリッドはそれを誤魔化すように、口元を手で押さえている。
「いや、絶対、笑ってますよね。その口元。その手を離してください」
モニカがカリッドの手首を掴みとると、そこからにやけた彼の口元が現れた。
「やっぱり、笑ってるじゃないですか」
「その。芝居に夢中になっている君の姿が、その、可愛らしくて、だな」
言い訳。いや、事実。
「可愛い?」
思わずモニカは聞き返してしまった。
「だ……リディは、私のことを、可愛いって、本気で思ってるんですか?」
ド直球な質問だった。この質問にどう答えるのが正解なのか。カリッドの頭の中は猛烈に回転していた。そう、間違えた配線を切断したら、この爆弾が爆発してしまうという気持ちくらいに。
間違えた答えを口にしたら、二度とモニカに触れることができなくなってしまうのではないか、と。
そして、こういうときに限って優秀な使用人であるイアンはいない。これは、試練なのだろうか。
「……思って、いる」
カリッドは嘘をつきたくなかった。自分の気持ちを隠したくなかった。もしかしたら、という期待も込めている。
モニカは思わず掴んでいた手を離してしまった。だが、今度は逆にカリッドにその腕を掴まれる。
「俺は、君のことを可愛いと思っているし、君と、もっとこういうことをしたいと思っている」
そこでカリッドは、己の唇でモニカのそれを塞いだ。もう、自分の気持ちをぶつけたのだから遠慮はしない。舌をいれ、舐り、絡め、己の唾液を注ぎ込む。朝よりも先ほどよりも長くて濃厚な口づけを交わし、カリッドはそっと身を引いた。
カリッドと視線を合わせたモニカは急に恥ずかしくなったのか、彼の胸元に顔を埋める。
「モ、モニカ……、どうか、したのか」
カリッドはそのモニカの態度に不安になった。もしかして、嫌われてしまったのではないか、と。
「……嬉しい、です……」
消え入るような声で聞こえてきたのはその言葉。
「モ、モニカ?」
「私のことをそう思ってくださったことが、嬉しいです」
「モニカ? すまないが、顔をあげて欲しい。君の顔を見たい」
「無理です」
「どうして?」
「嬉しいから」
嬉しすぎて、モニカの目からは涙が溢れていた。可愛いと言ってもらえたことが嬉しい。
女じゃない、可愛くない。幼い頃からそういう否定的な言葉ばかりをかけられていたモニカにとって、可愛いと言ってもらえたことは素直に嬉しい。
「嬉しい、というのは、その。まあ、え、と。あの」
カリッドは何か言いたいのだが、それがうまくまとまらない。だけど、一つだけ伝えるべきことがあると思っていた。
「モニカ。俺は、君のことが好きだ。どうか、俺の恋人になってほしい」
「え?」
涙に濡れた顔で、思わずカリッドを見上げてしまった。
「団長って、私のこと、好きなんですか?」
「好きでなかったら、あのような口づけはできない」
「え? 可愛いからとか、その結婚したくないから、だから恋人のふりをするとか、じゃなくて?」
「すまん。それは口実だ。恋人のふりではなく、本当は俺の恋人になってもらいたい」
驚いたモニカの涙は止まっていた。
「モニカ。もう一度きちんと言う。俺は、君のことが好きだ。どうか俺の恋人になってほしい」
「それは、新しいパワハラでしょうか」
と尋ねるモニカの目は笑っていた。
「断じて違う。これは俺の本心だ」
「任務ではない?」
「違う」
「団長は、その、私でよろしいのでしょうか?」
「君がいい。むしろ君しか良くない」
そこまで言われてしまったら、モニカも何か答えるべきだろうとは思うのだが。すぐには言葉が出てこない。
そもそもモニカもカリッドのことは嫌いではない。むしろ昨日から一緒にいて、なんとなく良いな、とは思えていた。
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