俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ

澤谷弥(さわたに わたる)

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本編

どんどんと罠が深まる(4)

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 だが、彼と恋人同士になったら気になることが一つ。

「あの、団長。その、私が恋人役から恋人になった場合。報酬のマルセルの魔導弓はどうなりますか?」

「やる。何も問題ない。俺は、好きな人と結婚したい。それが叶うのなら、君に魔導弓はやる」

「えと、その団長の結婚したい好きな人、というのは」

「モニカ。君だ」

 ここまで好き好きアピールをされても、嫌ではないことにモニカは気付いた。もちろんマルセルの魔導弓も魅力的ではあるが、それとは違う意味でカリッドの魅力に気づいてしまったのかもしれない。

「どうだろう。モニカ。俺の恋人になってほしい。君が嫌と言うのであれば、無理強いはしないし、俺もすっぱりと諦める」

 諦める。つまり、今までのような行為はもうしない、ということ。
 そう言われると寂しくなるから不思議だった。

「え、と。はい。よろしくお願いします」

「ほ、本当か?」
 こくんとモニカは小さく頷く。
「そ、そうか」
 嬉しさを隠せないカリッドの顔からは自然と笑みがこぼれてしまう。

「よし。続きは宿に戻ってからだ。とりあえず、食事に行こう」

「あ、はい」
 俺の恋人のフリをしてほしいとカリッドから頼まれたから「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたモニカだけれど、それは曲がりくねった彼からの愛の告白だった、というわけだ。そして、それに見事応えてしまったモニカ。

 何度も繋いだカリッドの手ではあるのに、恋人となった今では、その繋ぐ手が少し温かくも感じる。
 二人は仲良く手を繋いで、優秀な使用人であるイアンが手配したレストランで食事をする。それから、やはりイアンが手配した宝石店で、カリッドはモニカのためにネックレスを選ぶ。

「明日、これをつけて、俺の両親と会って欲しい」

 お高そうな宝石がついたネックレスであるが、その宝石の色がカリッドの瞳の色と同じであることに、モニカは気付いていない。だけど。
「ありがとうございます、嬉しいです」
 という気持ちは本音。

 やるべきことを終えて宿に戻った二人。カリッドとしてはモニカにあんなことやこんなことをしたいと思っていたはずなのに、こうやって『恋人』という関係になると、余裕ができたからなのか、落ち着いているのが不思議だった。
 二人で明日の流れを確認し、そして宿でゆっくりと夕食をとる。
 闇は深まり、その深まる闇を照らすかのような少し欠けた月がゆるりと昇ってくる頃。カリッドはまたイアンの部屋にいた。

「おめでとうございます、カリッド様」

「あ、ああ。俺、とうとうモニカに告白したんだ。よくやったと、自分で自分を褒めたい」

「ええ。私もカリッド様を褒めてあげたいです。恋人役とかそんなことを言わずに、最初から恋人になって欲しいと言えばよかったのにと思ってはいますが。ここでやっと告白できたカリッド様は、偉いです」
 いい子いい子と、子供をなだめるような口調でイアンに言われてしまったが、そんなことで腹を立てるような心の狭いカリッドではない。

「で、だ。今日こそはいいよな?」

 カリッドが言いたいことをイアンは察する。
「合意のうえであれば」

「先っちょくらいなら許されるか?」

「恋人同士になったのです。合意のうえであれば、先っちょだけでなく全てを受け入れてもらえるのではないでしょうか?」

「す、全て、だと?」
 カリッドが尋ねると、イアンはゆっくりと頷く。それを見たカリッドは乙女のように顔を真っ赤に染め上げた。
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