俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ

澤谷弥(さわたに わたる)

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本編

そして罠にはめられた結果(2)

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「モニカ」

「は、はい」
 思わずすっと立ち上がるモニカ。がしっと父親は娘を抱きしめた。

「おめでとう。お前がそう思えるような男と出会えたことに、心から祝福を送る」

「え、えー」

 あれほど結婚しなくていいと言っていた父親なのに、この心変わりはなんなのか。しかも、相手はモニカに向かって一度は「無理」と言った男。
 風向きは完全にカリッドにとっては追い風であり、モニカにとっては逆風だった。

「モニカ」
 すっとカリッドも立ち上がる。するとモニカの父親が娘を解放した。

「モニカ、どうか俺と結婚して欲しい」

 きゃーと黄色い声の主は前王妃。前国王はぱちぱちと拍手をし始めるし、モニカの父親もまた然り。モニカにとっては完全に包囲された形で、逃げることなどできるわけがない。ここで、いいえと答えてしまったら。
 周囲をぐるりと見回したモニカは、もう一度カリッドの顔を見つめる。
 自分を女性としてここまで扱ってくれた男性は彼が初めてだ。だけど、昔のことがどこか心の中に引っかかっていて。それでも今のカリッドには惹かれているわけで。

「もし、私がここでお断りをしたら?」
 そう確認せずにはいられない。
「モニカに断られたら? 俺は、一生結婚しない。モニカ以外の女性と一緒になりたいとは思わない」

 きゃー、とまた黄色い声があがった。その声の主は両手を胸の前で重ねて、息子の行く末を見守っているようだ。
 完全にモニカは逃げ場を失った。

「あ、はい」
 とつい頷いている自分がいることにモニカは気付いた。
「ほ、本当か」
 嬉しさのあまりカリッドはモニカをぎゅっと抱きしめた。双方の親がいるにも関わらず。

「あら、良かったわねぇ」
 という母親の言葉で、二人きりの世界から引き戻されるカリッド。

「そういうことで、父上、母上。俺の見合いは、その、無かったことでいいんですよね」

「ええ。構わないわ。どちらにしろ、見合いの相手もモニカだったし」
 おほほほと高笑いしている前王妃は楽しくて仕方ないらしい。カリッドとモニカは驚いて顔を見合わせた。

 つまり、いい加減カリッドを結婚させたかった彼の両親は、再び彼の相手を探し始めた。どこかに彼の相手がいないかな、と思っていろんな人の協力を得て、それっぽい女性を探そうとしていたところ。女性不信をこじらせているカリッドが受け入れられるような女性は、やはりリヴァージュの民の長の娘しか心当たりがなく、過去の件もあったが、二人が大人になった今なら大丈夫だ、多分と、仄かに双方の両親が動いていた、ということだ。

 ところが。
 優秀な使用人であるイアンからどうやらカリッドには思っている人がいるようだという情報を得た。だが長年女性不信をこじらせていたカリッドが、思っている女性に対して行動に移すようなことができるわけもなく、仕方なく今回のお見合いという話を持ちだしてみたところ。なんとかへたれなカリッドもやっとその女性に気持ちを伝えられた、ということで。
 その相手があのリヴァージュの民の長の娘であれば、彼の相手としても相応しく何の問題もない。つまり、見合いしようがしまいが、結果は同じだったということだ。
 だが、この辺の詳細はカリッドの両親とイアンだけが知る事実であって、カリッドとモニカの耳に届くことはなかった。

「あ、そういえば。あの、マルセルの魔導弓は?」

 モニカにとって、一番重要なことを思い出した。今回の特別任務の特別報酬。

「な、何? マルセルの魔導弓、だと?」
 それに反応したのはモニカの父親。
「あ、はい。その、リディからマルセルの魔導弓をいただける約束になっていたので」

「そうか、プロポーズをするときに指輪を渡すのではなく、マルセルの魔導弓を渡すとは、さすがリディ坊。我が娘のことをよくわかっている」
 豪快にモニカの父親が笑い始めた。
 
 この状況で「特別報酬です」とモニカも言い出すこともできず、こうやってカリッドがマルセルの魔導弓でモニカにプロポーズをした、という話が広まっていくのである。


【完】

=================
最後までお付き合いありがとうございました。
番外編読みたいとか。そんな優しい方おりましたら、是非とも感想欄へどうぞ……。
考えてはいます。多分。
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