このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに

澤谷弥(さわたに わたる)

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第三章:お仕事はきっちりとこなします(8)

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 クライブとマリアンヌの黒い髪は、こうやって見ると似ているような気がする。

「……いえ。まぁ、親子に見えなくもないかなと。閣下とマリーの髪の色が同じですから」
「なるほど。では、それもあいつに自慢するとしよう」
「まぁ、あれですね。閣下は髪だけでなく、その腹の底も真っ黒ってことですね」

 イリヤの言葉にクライブは「お前は、面白いことを言うな」と笑った。

「あの。こういったことを聞いていいのかわからないのですが……」
「なんだ?」

 イリヤはクライブが母と何を話したのかが気になっていた。けして二人の仲を疑うとか、そういったことではなくて、あの二人の会話の内容が気になったのだ。

「母とはどのようなお話を?」
「ああ、そのことか」

 彼の表情がやわらぐ。となれば、やはり後ろめたいことは話していないのだろう。

「私の悪口、とかではないですよね?」
「相変わらず、お前は面白いことを言うな」

 クライブが、ふっと鼻で笑うと、マリアンヌが身体をピクッと震わせた。

「危ない……目を覚ます、ところだったか?」
「寝たばかりだから大丈夫だと思いますけど。もっと、こう。身体に密着させるように抱っこすると、よく寝ます」
「なるほど」

 イリヤの言葉に従い、彼がマリアンヌを抱き直す。マリアンヌの頭はぴたっとクライブの胸元にくっついた。

「それで……ああ、イリヤの母親との話か。まぁ、イリヤの悪口ではないから安心しろ」
「どんな話を?」
「なんだ、気になるのか?」

 気になるか気にならないかで言ったら、もちろん気になる。何しろ、自分の母親が夫と内緒話をしていたのだ。絶対にイリヤの昔の話とか、そういったことを伝えているにちがいない。

「そりゃあ、気になりますよ」
「ま、簡単に言えば。魔法について聞いていただけだ。何もイリヤが心配するような話はしていない。子どもの頃に木に登っておりられなくなって、大泣きした話とかな」
「……って、そういう話を人のいないところでしないでください!」

 真っ赤になったイリヤは、ふんと顔を背けた。

「ん、ぎゃぁ~」

 突然、マリアンヌが泣き出した。クライブの腕の中にいた彼女だが、目をつむりながら手をバタバタと動かし、その手はクライブの眼鏡を見事につかむ。

「あっ」

 また彼の眼鏡は吹っ飛んだ。慌ててイリヤが眼鏡を拾って手渡そうとしたが、彼の腕の中にはマリアンヌがいる。

「とりあえず、私のほうでおかけしますね。あ、でも、眼鏡がなくても見えるんでしたっけ? お預かりしていたほうがよろしいでしょうか?」
「いや、かけてくれ」
「だけど、またマリアンヌが」
「むしろマリアンヌをまかせたい。ここまで泣かれると、オレではだめだろう」

 暴れるマリアンヌの身体を落とさないようにと、なんとか抱いているクライブであるが、彼の言うとおり、この状態のマリアンヌを彼が宥められるとは思えない。

 彼の正面に立って眼鏡をかける。

「だぁ?」

 イリヤの存在に気づいたのか、マリアンヌはかわいらしい声をあげた。

「はいはい、マリー。もうちょっとでおうちに着きますからね」

 クライブからマリアンヌを預かり、しっかりと抱きしめる。

「現金なやつだな」

 眼鏡を押し上げながら、クライブが言った。
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