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「あ、すみません。メルリラさん。こちら、僕の養父であるイドリス公爵、フェイビアンです」
「養父、イドリス公爵……って、フェイ。あなた、公爵様だったの? しかも子持ち?」
私の声に、フェイビアンは深くうなだれた。
「というわけで、邪魔者は消えますので、あとはお二人でどうぞ。あ、そうそう、メルリラさん。勘違いしていると思うので、言っておきますが。僕はメルリラさんと家族になりたいと言っただけで、結婚したいとは言ってませんので」
――騙された!
いや、違う。私が勝手に勘違いしただけだ。
でも、あの状況で家族になりたいと言われたら、求婚だって思うじゃない。
年の差もばっちり確認されたし。って、それはもしかして、親子としての年の差だったのだろうか。
いや、でも――。
「ハリソン様!」
二人きりにしないでと思って助けを呼んだが、ハリソンの姿はもう見えなかった。子どもはすばしっこい。
困って目の前に立つフェイビアンを見上げると、また目が合った。
「座っても……いいだろうか?」
「あ、はい……」
「まぁ、あれ、だ。その……ハリソンが世話になった」
「い、いえ……」
「ハリソンは姉の子だ。姉夫婦が北部へ視察に向かったときに、魔獣の群れに襲われて、それで姉夫婦は命を失った」
聖女の力だって万能ではない。魔獣を防ぐための結界を定期的に張ってはいるが、その結界にほころびがあれば、魔獣が襲ってくる。フェイビアンの姉夫婦は、その結界のほころびから入り込んだ魔獣に襲われてしまったのだ。
「だから、残されたハリソンを俺が引き取った。俺が聖騎士になろうと思ったのもそれがきっかけだ」
いきなりフェイビアンの身の上話が始まった。
「あれ? フェイはもしかして……聖力があったのに、隠していたタイプ?」
たまにいる。聖力が出現しても、神殿に入りたくないからという理由で隠す人が。特に、彼のようにお貴族様だとその傾向が強い。私やサアラのように身分が低い者としては、貴族の仲間入りができるから、それだけでうま味があるのだが。
それでも結婚についてこれほど障害があるのは盲点だった。すべては今までの慣例のせいだ。
「そうだ。それで、その……おまえの婚活はうまくいっていないのか?」
「そうですねぇ? 元聖女っていうだけで、傷もの扱いですよ。失礼だと思いません?」
「傷もの……なのか?」
「そんなわけないでしょう? 今までの慣例がそうさせているんです。聖女は聖騎士のものだって。お務めが終わったら、幸せな結婚を夢見ていたのに、私の希望は全部パァですよ」
こうやって彼に愚痴を言うのは半年ぶりだ。悪い気はしない。
だが、一度口にしてしまったら、箍が外れたかのようにどどっと次から次へと愚痴が出てくる。それはすべて婚活失敗談。
「悪かったな。俺のせいで」
元聖女が結婚できないのは、専属聖騎士が側にいすぎたせいだ。いや、それでも私たちは適度な距離を保っていた。
聖力回復のために身体を重ねることもなかったし、粘膜接触とされる口づけすらしていない。
何よりも私の聖力回復方法は、寝ること。文字通りに眠ること。
フェイビアンは、私の聖力が回復するまで手を繋いでくれた。それは私が眠りこけてしまった後も。フェイビアンも私と手を繋いだまま眠ることもあった。そうやって繋いだところから互いに聖力を高め合うのだ。
「そうですよ。悪かったと思っているなら、責任を取ってくれませんかね?」
「いや、だが……俺と結婚すればすぐに母親になってしまう」
彼は間違いなくハリソンのことを言っている。
「でも、ハリソン様は言っていましたよね? ハリソン様の存在がフェイの気持ちを邪魔するなら、息子を辞めるって……それでもいいんですか?」
「それは、困る。だが、しかし――」
意外とフェイビアンは優柔不断だった。もしかして、魔獣がいるときといないとき、いや魔獣に関する内容とそうでないときでは、人格が変わるのだろうか。
「私は、ハリソン様から家族になってほしいと言われ、それを承諾しております。って、意味、わかりますぅ?」
サアラのように語尾を伸ばして、上目遣いで問いかけてみると、フェイビアンは観念したように唸る。
「わかった……ここは腹をくくるところだな」
さぁっと心地よい風が庭の花を揺らし、彼の低音の声も風に乗る。
冷酷な彼だと思っていたのに、姉夫婦の息子を引き取っていた。それに今だって、黙って私の愚痴を聞いてくれた。
魔獣討伐においての相性は最悪だった。いや、互いの命に関わる場所だからこそ、厳しくなっていたのだ。魔獣によって家族を失った経験がある彼だからこそ、なおのこと。
だけど、それ以外は意外とうまくいっていたと思う。言い合いは多かった。それもあって周囲からは仲の悪い二人と思われていた。
言い合いができるのも彼を信頼しているからだと気づいたのは、聖女を辞めてからだった。
近くにいるときには気づかなかったのに、離れてからわかることはたくさんあった。
私は、フェイビアンに好意を寄せていたのだ。
それに気づいた私は、彼の言葉に対して「はい」とうつむいて答えていた。
【完】
「養父、イドリス公爵……って、フェイ。あなた、公爵様だったの? しかも子持ち?」
私の声に、フェイビアンは深くうなだれた。
「というわけで、邪魔者は消えますので、あとはお二人でどうぞ。あ、そうそう、メルリラさん。勘違いしていると思うので、言っておきますが。僕はメルリラさんと家族になりたいと言っただけで、結婚したいとは言ってませんので」
――騙された!
いや、違う。私が勝手に勘違いしただけだ。
でも、あの状況で家族になりたいと言われたら、求婚だって思うじゃない。
年の差もばっちり確認されたし。って、それはもしかして、親子としての年の差だったのだろうか。
いや、でも――。
「ハリソン様!」
二人きりにしないでと思って助けを呼んだが、ハリソンの姿はもう見えなかった。子どもはすばしっこい。
困って目の前に立つフェイビアンを見上げると、また目が合った。
「座っても……いいだろうか?」
「あ、はい……」
「まぁ、あれ、だ。その……ハリソンが世話になった」
「い、いえ……」
「ハリソンは姉の子だ。姉夫婦が北部へ視察に向かったときに、魔獣の群れに襲われて、それで姉夫婦は命を失った」
聖女の力だって万能ではない。魔獣を防ぐための結界を定期的に張ってはいるが、その結界にほころびがあれば、魔獣が襲ってくる。フェイビアンの姉夫婦は、その結界のほころびから入り込んだ魔獣に襲われてしまったのだ。
「だから、残されたハリソンを俺が引き取った。俺が聖騎士になろうと思ったのもそれがきっかけだ」
いきなりフェイビアンの身の上話が始まった。
「あれ? フェイはもしかして……聖力があったのに、隠していたタイプ?」
たまにいる。聖力が出現しても、神殿に入りたくないからという理由で隠す人が。特に、彼のようにお貴族様だとその傾向が強い。私やサアラのように身分が低い者としては、貴族の仲間入りができるから、それだけでうま味があるのだが。
それでも結婚についてこれほど障害があるのは盲点だった。すべては今までの慣例のせいだ。
「そうだ。それで、その……おまえの婚活はうまくいっていないのか?」
「そうですねぇ? 元聖女っていうだけで、傷もの扱いですよ。失礼だと思いません?」
「傷もの……なのか?」
「そんなわけないでしょう? 今までの慣例がそうさせているんです。聖女は聖騎士のものだって。お務めが終わったら、幸せな結婚を夢見ていたのに、私の希望は全部パァですよ」
こうやって彼に愚痴を言うのは半年ぶりだ。悪い気はしない。
だが、一度口にしてしまったら、箍が外れたかのようにどどっと次から次へと愚痴が出てくる。それはすべて婚活失敗談。
「悪かったな。俺のせいで」
元聖女が結婚できないのは、専属聖騎士が側にいすぎたせいだ。いや、それでも私たちは適度な距離を保っていた。
聖力回復のために身体を重ねることもなかったし、粘膜接触とされる口づけすらしていない。
何よりも私の聖力回復方法は、寝ること。文字通りに眠ること。
フェイビアンは、私の聖力が回復するまで手を繋いでくれた。それは私が眠りこけてしまった後も。フェイビアンも私と手を繋いだまま眠ることもあった。そうやって繋いだところから互いに聖力を高め合うのだ。
「そうですよ。悪かったと思っているなら、責任を取ってくれませんかね?」
「いや、だが……俺と結婚すればすぐに母親になってしまう」
彼は間違いなくハリソンのことを言っている。
「でも、ハリソン様は言っていましたよね? ハリソン様の存在がフェイの気持ちを邪魔するなら、息子を辞めるって……それでもいいんですか?」
「それは、困る。だが、しかし――」
意外とフェイビアンは優柔不断だった。もしかして、魔獣がいるときといないとき、いや魔獣に関する内容とそうでないときでは、人格が変わるのだろうか。
「私は、ハリソン様から家族になってほしいと言われ、それを承諾しております。って、意味、わかりますぅ?」
サアラのように語尾を伸ばして、上目遣いで問いかけてみると、フェイビアンは観念したように唸る。
「わかった……ここは腹をくくるところだな」
さぁっと心地よい風が庭の花を揺らし、彼の低音の声も風に乗る。
冷酷な彼だと思っていたのに、姉夫婦の息子を引き取っていた。それに今だって、黙って私の愚痴を聞いてくれた。
魔獣討伐においての相性は最悪だった。いや、互いの命に関わる場所だからこそ、厳しくなっていたのだ。魔獣によって家族を失った経験がある彼だからこそ、なおのこと。
だけど、それ以外は意外とうまくいっていたと思う。言い合いは多かった。それもあって周囲からは仲の悪い二人と思われていた。
言い合いができるのも彼を信頼しているからだと気づいたのは、聖女を辞めてからだった。
近くにいるときには気づかなかったのに、離れてからわかることはたくさんあった。
私は、フェイビアンに好意を寄せていたのだ。
それに気づいた私は、彼の言葉に対して「はい」とうつむいて答えていた。
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6歳児が活躍してくれました!!
ご感想ありがとうございます。
こちらの作品にまで、嬉しいです。
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ご感想ありがとうございます。
思い付きの勢いだけのお話に、ここまで思っていただけて嬉しいです。
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