聖女の任期終了後、婚活を始めてみたら六歳の可愛い男児が立候補してきた!

澤谷弥(さわたに わたる)

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「あ、すみません。メルリラさん。こちら、僕の養父であるイドリス公爵、フェイビアンです」
「養父、イドリス公爵……って、フェイ。あなた、公爵様だったの? しかも子持ち?」

 私の声に、フェイビアンは深くうなだれた。

「というわけで、邪魔者は消えますので、あとはお二人でどうぞ。あ、そうそう、メルリラさん。勘違いしていると思うので、言っておきますが。僕はメルリラさんと家族になりたいと言っただけで、結婚したいとは言ってませんので」

 ――騙された!

 いや、違う。私が勝手に勘違いしただけだ。
 でも、あの状況で家族になりたいと言われたら、求婚だって思うじゃない。
 年の差もばっちり確認されたし。って、それはもしかして、親子としての年の差だったのだろうか。

 いや、でも――。

「ハリソン様!」

 二人きりにしないでと思って助けを呼んだが、ハリソンの姿はもう見えなかった。子どもはすばしっこい。

 困って目の前に立つフェイビアンを見上げると、また目が合った。

「座っても……いいだろうか?」
「あ、はい……」
「まぁ、あれ、だ。その……ハリソンが世話になった」
「い、いえ……」
「ハリソンは姉の子だ。姉夫婦が北部へ視察に向かったときに、魔獣の群れに襲われて、それで姉夫婦は命を失った」

 聖女の力だって万能ではない。魔獣を防ぐための結界を定期的に張ってはいるが、その結界にほころびがあれば、魔獣が襲ってくる。フェイビアンの姉夫婦は、その結界のほころびから入り込んだ魔獣に襲われてしまったのだ。

「だから、残されたハリソンを俺が引き取った。俺が聖騎士になろうと思ったのもそれがきっかけだ」

 いきなりフェイビアンの身の上話が始まった。

「あれ? フェイはもしかして……聖力があったのに、隠していたタイプ?」

 たまにいる。聖力が出現しても、神殿に入りたくないからという理由で隠す人が。特に、彼のようにお貴族様だとその傾向が強い。私やサアラのように身分が低い者としては、貴族の仲間入りができるから、それだけでうま味があるのだが。

 それでも結婚についてこれほど障害があるのは盲点だった。すべては今までの慣例のせいだ。

「そうだ。それで、その……おまえの婚活はうまくいっていないのか?」
「そうですねぇ? 元聖女っていうだけで、傷もの扱いですよ。失礼だと思いません?」
「傷もの……なのか?」
「そんなわけないでしょう? 今までの慣例がそうさせているんです。聖女は聖騎士のものだって。お務めが終わったら、幸せな結婚を夢見ていたのに、私の希望は全部パァですよ」

 こうやって彼に愚痴を言うのは半年ぶりだ。悪い気はしない。
 だが、一度口にしてしまったら、箍が外れたかのようにどどっと次から次へと愚痴が出てくる。それはすべて婚活失敗談。

「悪かったな。俺のせいで」

 元聖女が結婚できないのは、専属聖騎士が側にいすぎたせいだ。いや、それでも私たちは適度な距離を保っていた。

 聖力回復のために身体を重ねることもなかったし、粘膜接触とされる口づけすらしていない。

 何よりも私の聖力回復方法は、寝ること。文字通りに眠ること。
 フェイビアンは、私の聖力が回復するまで手を繋いでくれた。それは私が眠りこけてしまった後も。フェイビアンも私と手を繋いだまま眠ることもあった。そうやって繋いだところから互いに聖力を高め合うのだ。

「そうですよ。悪かったと思っているなら、責任を取ってくれませんかね?」
「いや、だが……俺と結婚すればすぐに母親になってしまう」

 彼は間違いなくハリソンのことを言っている。

「でも、ハリソン様は言っていましたよね? ハリソン様の存在がフェイの気持ちを邪魔するなら、息子を辞めるって……それでもいいんですか?」
「それは、困る。だが、しかし――」

 意外とフェイビアンは優柔不断だった。もしかして、魔獣がいるときといないとき、いや魔獣に関する内容とそうでないときでは、人格が変わるのだろうか。

「私は、ハリソン様から家族になってほしいと言われ、それを承諾しております。って、意味、わかりますぅ?」

 サアラのように語尾を伸ばして、上目遣いで問いかけてみると、フェイビアンは観念したように唸る。

「わかった……ここは腹をくくるところだな」

 さぁっと心地よい風が庭の花を揺らし、彼の低音の声も風に乗る。
 冷酷な彼だと思っていたのに、姉夫婦の息子を引き取っていた。それに今だって、黙って私の愚痴を聞いてくれた。

 魔獣討伐においての相性は最悪だった。いや、互いの命に関わる場所だからこそ、厳しくなっていたのだ。魔獣によって家族を失った経験がある彼だからこそ、なおのこと。
 だけど、それ以外は意外とうまくいっていたと思う。言い合いは多かった。それもあって周囲からは仲の悪い二人と思われていた。

 言い合いができるのも彼を信頼しているからだと気づいたのは、聖女を辞めてからだった。
 近くにいるときには気づかなかったのに、離れてからわかることはたくさんあった。

 私は、フェイビアンに好意を寄せていたのだ。
 それに気づいた私は、彼の言葉に対して「はい」とうつむいて答えていた。

【完】
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みんなの感想(6件)

くーちゃん
2025.08.30 くーちゃん
ネタバレ含む
2025.08.30 澤谷弥(さわたに わたる)

ご感想ありがとうございます。
6歳児が活躍してくれました!!

解除
こいぬ
2025.05.31 こいぬ
ネタバレ含む
2025.05.31 澤谷弥(さわたに わたる)

ご感想ありがとうございます。

こちらの作品にまで、嬉しいです。
これも長編にしたいネタなので、今、大事に温めてます。

解除
ulalume
2025.04.30 ulalume
ネタバレ含む
2025.05.01 澤谷弥(さわたに わたる)

ご感想ありがとうございます。

思い付きの勢いだけのお話に、ここまで思っていただけて嬉しいです。
R18にするかどうか、今はそれが一番の悩みかもしれません……(笑)

解除

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