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プロローグ
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「エレノア・ケアード。この場をもって、君との婚約を破棄させてもらう」
アッシュクロフ王立魔法学園の大ホールでは、華々しく卒業パーティーが開かれていた。
それなのに、王太子ジェラルドの声が高らかに響く。その内容は、卒業パーティーにふさわしいとは思えないものだ。
姉のエレノアの卒業を祝うために、両親と一緒にこの場にいたセシリアは、何が起こったのかと目をぱちくりとさせた。手を繋いでいる母親でさえも、呆然としている。
ホール内は、楽団の音楽もやみしんと静まり返る。
太陽のような緋色のドレスに身をつつむエレノアは、琥珀色の目を大きく見開き、ジェラルドを真っすぐに見据える。
キリッとした紺碧の瞳、すっと通った鼻筋に、艶やかな唇。絹糸のようなさらりとした金色の髪を引き立てているのは、彼が身にまとう金モールの濃紺のジャケットだろう。一国の王太子として見目麗しい姿だ。
それに対してエレノアだって負けてはいない。仮にも王太子の婚約者なのだ。庭園に咲き誇るような勿忘草色の髪はすっきりと結い上げられ、清純さを醸し出している。ぱっちりとした二重の瞳に、ふっくらとした唇も愛らしい。
だというのに、その目だけは鋭くジェラルドを睨みつけていた。
彼女の唇はゆっくりと開く。
「承知いたしました」
スカートの裾をつまみ、淑女の礼をする。あまりにも凜としており、その場にいた誰もが、ほぅとため息をついたほど。
その姿を目にしたとき、セシリアの脳内には誰のものかわからぬ記憶が流れ込んできた。
――エレノアは聖女イライザを殺そうとした。
――エレノアを処刑しろ! 首をはねろ!
押し寄せる群衆。処刑台に上がるエレノアの後ろ姿。
その後、エレノアがどうなったかをセシリアは知っている。
(あ、これはネットで限定配信されたアニメのロマンスファンタジー小説『孤独な王子は救済の聖女によって癒される』略して『こどいや』の世界……って、この記憶は何?)
セシリアは、母親と繋いでいた手にきゅっと力を込めた。母親もちらりとセシリアに視線を向けたものの、不安そうにエレノアを見守っている。
(わたしはセシリア・ケアード、七歳。ケアード公爵の次女。悪役令嬢のエレノア・ケアードの年の離れた妹。このままでは、お姉様は斬首刑に……)
流れ込んできた記憶の処理に追いついていないが、気がつけばセシリアは母親と繋いでいた手を放して、エレノアへと近づいていた。
「お姉さま」
子ども特有の甘えた声だ。誰が見てもその子がエレノアの血縁者であるとわかる見目だった。勿忘草色の髪の毛は、垂れたうさぎの耳のように結ばれ、琥珀色の目は丸くはっきりとしていて愛嬌がある。
「王太子殿下とのお話は終わりましたか? セシリア、人がいっぱいで疲れてしまいました。はやく、おうちに帰りたいです」
ホール内に響くセシリアの声に、両親の慌てる姿がみてとれた。父親なんぞ、額に青筋をたててこちらに走ってきそうな勢いだが、それをゆるりと首を振って制したのはエレノアだ。
「そうね。大事なお話は終わりましたから、今日はもう、帰りましょう」
エレノアは手を伸ばして、セシリアの小さな手をしっかりと握りしめる。
「ジェラルド王太子殿下。手続きに必要な書類については、ケアード公爵邸にお送りください」
もう一度、エレノアが優雅に腰を折ったため、セシリアもそれに倣う。
「わたくしがこの場にいないほうが、みなさまも楽しめるでしょう。せっかくのパーティーですもの、最後までお楽しみください。それではごきげんよう」
その場を去るエレノアの背に、ジェラルドは「待て、まだ話の続きが……」と言いかけていたが、それらは近衛騎士らによってとめられた。
アッシュクロフ王立魔法学園の大ホールでは、華々しく卒業パーティーが開かれていた。
それなのに、王太子ジェラルドの声が高らかに響く。その内容は、卒業パーティーにふさわしいとは思えないものだ。
姉のエレノアの卒業を祝うために、両親と一緒にこの場にいたセシリアは、何が起こったのかと目をぱちくりとさせた。手を繋いでいる母親でさえも、呆然としている。
ホール内は、楽団の音楽もやみしんと静まり返る。
太陽のような緋色のドレスに身をつつむエレノアは、琥珀色の目を大きく見開き、ジェラルドを真っすぐに見据える。
キリッとした紺碧の瞳、すっと通った鼻筋に、艶やかな唇。絹糸のようなさらりとした金色の髪を引き立てているのは、彼が身にまとう金モールの濃紺のジャケットだろう。一国の王太子として見目麗しい姿だ。
それに対してエレノアだって負けてはいない。仮にも王太子の婚約者なのだ。庭園に咲き誇るような勿忘草色の髪はすっきりと結い上げられ、清純さを醸し出している。ぱっちりとした二重の瞳に、ふっくらとした唇も愛らしい。
だというのに、その目だけは鋭くジェラルドを睨みつけていた。
彼女の唇はゆっくりと開く。
「承知いたしました」
スカートの裾をつまみ、淑女の礼をする。あまりにも凜としており、その場にいた誰もが、ほぅとため息をついたほど。
その姿を目にしたとき、セシリアの脳内には誰のものかわからぬ記憶が流れ込んできた。
――エレノアは聖女イライザを殺そうとした。
――エレノアを処刑しろ! 首をはねろ!
押し寄せる群衆。処刑台に上がるエレノアの後ろ姿。
その後、エレノアがどうなったかをセシリアは知っている。
(あ、これはネットで限定配信されたアニメのロマンスファンタジー小説『孤独な王子は救済の聖女によって癒される』略して『こどいや』の世界……って、この記憶は何?)
セシリアは、母親と繋いでいた手にきゅっと力を込めた。母親もちらりとセシリアに視線を向けたものの、不安そうにエレノアを見守っている。
(わたしはセシリア・ケアード、七歳。ケアード公爵の次女。悪役令嬢のエレノア・ケアードの年の離れた妹。このままでは、お姉様は斬首刑に……)
流れ込んできた記憶の処理に追いついていないが、気がつけばセシリアは母親と繋いでいた手を放して、エレノアへと近づいていた。
「お姉さま」
子ども特有の甘えた声だ。誰が見てもその子がエレノアの血縁者であるとわかる見目だった。勿忘草色の髪の毛は、垂れたうさぎの耳のように結ばれ、琥珀色の目は丸くはっきりとしていて愛嬌がある。
「王太子殿下とのお話は終わりましたか? セシリア、人がいっぱいで疲れてしまいました。はやく、おうちに帰りたいです」
ホール内に響くセシリアの声に、両親の慌てる姿がみてとれた。父親なんぞ、額に青筋をたててこちらに走ってきそうな勢いだが、それをゆるりと首を振って制したのはエレノアだ。
「そうね。大事なお話は終わりましたから、今日はもう、帰りましょう」
エレノアは手を伸ばして、セシリアの小さな手をしっかりと握りしめる。
「ジェラルド王太子殿下。手続きに必要な書類については、ケアード公爵邸にお送りください」
もう一度、エレノアが優雅に腰を折ったため、セシリアもそれに倣う。
「わたくしがこの場にいないほうが、みなさまも楽しめるでしょう。せっかくのパーティーですもの、最後までお楽しみください。それではごきげんよう」
その場を去るエレノアの背に、ジェラルドは「待て、まだ話の続きが……」と言いかけていたが、それらは近衛騎士らによってとめられた。
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