大好きなお姉さまが悪役令嬢?!処刑回避のためにひきこもったら、隣国の王子に狙われているようです?

澤谷弥(さわたに わたる)

文字の大きさ
39 / 57

4:大好きなお姉さまが狙われているようです(5)

しおりを挟む
 シオンがさとうきびを堪能し終えると、来た道を戻り始めた。しかし、領主館へ向かう間も、シオンはセシリアの手をしっかりと握っている。

「おまえ、転びそうだしな。危ないから支えておいてやるよ」
「転びません」

 そう言い返した直後、セシリアがつまずいてしまったため、彼女の言葉は説得力を欠いた。それもあってシオンはセシリアの手を決して離さなかった。

「ところで、エレノアに好きな人とか婚約者とかっているのか?」

 突然シオンがそんな質問を投げかけ、セシリアは目を丸くした。

「そんなに驚くことか?」
「いえ、シオンさまはお姉さまに興味があるんですか?」
「おれじゃない。スタンのやつだ」

 スタンとはコンスタッドの愛称らしい。愛称で呼び合うほど、ふたりの仲は親しいのだろう。

「あのむっつりスケベやろう。エレノアがあのジェラルドと別れたことを知ったら、喜びやがって。今回の件だって、公爵側からの誘いだったけれど、いつ、こっちに顔を出そうかってスタンは考えていたんだ。そこに今回の事業の話が飛び込んできて……」

 興奮気味にまくし立てるシオンとは対照的に、セシリアは冷静だった。

 どうやらコンスタッドはエレノアに好意を寄せているらしい。それも、昨日ひと目見た瞬間からというわけではなく、ずっと前からのようだ。

「あ~、スタンっておれの叔父なんだよ。つまり、王弟ってやつ」
「そうなんですか?(なんなの? その裏設定。公爵で騎士団長で王弟って設定もりもりじゃない……そんなこと原作に書いてあった?)」

 セシリアの頭に浮かぶ謎の記憶にも、そんな情報はなかったらしい。驚きの感情が流れ込んできた。

「だから、まぁ、ちょくちょく社交の場とかでは、エレノアのことは見かけていたらしい。あの王太子にはもったいない女性だって言ってたな」

 コンスタッドがエレノアを高く評価していると知り、セシリアは素直に嬉しかった。

「しかも、自分では聞けないからって、おれを使ってセシリアからエレノアの情報を聞き出せって。やること、大人げないよな?」
「そうなんですね? でもシング公爵さまのような素敵な男性なら、嫌がる人はいないかと……?」

 と、そこまで言ってセシリアもはっとする。

 昨日は脳内お花畑で「なんてお似合いの二人!」なんて思っていたが、ロックウェル国の王弟で公爵で騎士団長となれば、彼はロックウェル国内の重要人物だ。エレノアがその彼と一緒になったら、エレノアはロックウェルに行かねばならないのではないだろうか。

「ん? どうかしたか?」

 急に黙り込んだセシリアを、シオンが心配そうに見つめた。

「もしかしておまえも、スタンのような男がいいのか?」
「ち、違います。セシリアが好きなのはお姉さまです」
「あ~おまえたち、仲が良いって公爵も言っていたな。まぁ、なんかうらやましいな」

 ぼそりと呟いたシオンの言葉が、セシリアの心に小さく引っかかった

「でも、シング公爵さま。騎士団長なのに、よくこちらに来られましたね?」

 それがセシリアの素直な気持ちだ。団長と言えば、毎日の訓練なり部下の統率なりなんなりと忙しいイメージがある。

「まぁ、やることはやってる。今回は、アッシュクロフの視察も兼ねてるから、仕事と言えば仕事だ。まぁ、王弟としての仕事か? あいつ、見た目と違って意外と自由に動けるんだよ」

 だからコンスタッドの部下らしい騎士たちが、護衛という名目でぞろぞろついてきているのだろう。

「それよりも、どうしてシオンさままで?」

 今の話を聞いたかぎりでは、コンスタッドはケアード公爵から提案された事業の件と、アッシュクロフの視察と、そういった目的があってここを訪れている。まだ十三歳のシオンがここに来た理由がわからない。しかも、コンスタッドの従者だと身分まで偽って。

「おれは……聖女に会いに来た」

 危うく変な声が出そうになり、セシリアはそれを呑み込んだ。

「ほら、賢者のばばぁがアッシュクロフに行ったのが精霊の導きだとか? 聖女の誕生の気配がするとか、なんとか言ってたんだよ」
「だからモリスがここにいて驚いたんですね?」
「そうだ。てっきり聖女と一緒にいるものだと思っていた。もしかして、まだ聖女に会えてないのか? 聖女が見つかっていないとか?」
「ど、ど、ど……どうでしょう?」

 イライザが聖女だということは、謎の記憶によってセシリアは知っていた。しかし、イライザが聖属性の力に目覚めたという話は聞こえてこない。いや、ここが国境近くの田舎だから、そういう話が届いていないだけかもしれない。

「せ、セシリアは、聖女さまについて何も知りません。モリスは、ここが気に入ったからここにいるだけです」
「ああ。それもあのばばぁらしいよな? 食べ物が美味いからだっけ? おれんとこにいたときも、食事が美味いから文句はない! って言っていたな」
「モリスはシオンさまがひとり立ちできるようになって、教えることはもうないって言ってましたよ?」
「そ、そうなのか? あのばばぁ……おれにはそんなこと、ひとことも言わなかったけどな」

 そう言いながらも頬がほんのりと赤くなっているのは、朝日のせいではないだろう。
 こうして彼と二人で散歩していると、彼への好感度が少しだけ上がった気がした。
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!

よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

いらない子のようなので、出ていきます。さようなら♪

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
 魔力がないと決めつけられ、乳母アズメロウと共に彼女の嫁ぎ先に捨てられたラミュレン。だが乳母の夫は、想像以上の嫌な奴だった。  乳母の息子であるリュミアンもまた、実母のことを知らず、父とその愛人のいる冷たい家庭で生きていた。  そんなに邪魔なら、お望み通りに消えましょう。   (小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています)  

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...