大好きなお姉さまが悪役令嬢?!処刑回避のためにひきこもったら、隣国の王子に狙われているようです?

澤谷弥(さわたに わたる)

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4:大好きなお姉さまが狙われているようです(6)

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 朝食を終えた後も、エレノアは父親とコンスタッドの三人で、さとうきび事業の今後の計画について話し合っていた。一方、モリスはまだ起きてこない。

 セシリアは普段、本を読んだり、アニーと教会や工場へ行ったり、新しい砂糖菓子を考えたりして過ごしている。

 しかし今日は、昼過ぎからコンスタッドとシオンを連れて工場へ向かう予定のため、新しい砂糖菓子のアイデアを練って時間をつぶしていた。

 考える場所はどこでもいい。天気の良い日は、庭の東屋ガゼボで温かいコーヒー牛乳と『さとう氷』を楽しみながらアイデアを膨らませることもある。

 今も東屋でお菓子を考えているのだが、目の前にはシオンがいた。彼もまた、大人の会議から外された仲間の一人。

「それでおまえは何をやっているんだ?」

 テーブルの上に肘を置き、頬杖をついてさもつまらなさそうにセシリアが広げた帳面を眺めている。

「新しいお菓子を考えているんです! 砂糖を使ったお菓子、美味しいですよね?」
「あぁ……この『さとう氷』というお菓子は美味い。これ、ロックウェルでも売れそうだな。母上とか……好きかもしれない……」
「でしたら、帰りにお土産に持っていってください。でも、まだ作ったばかりのお試し品なので、早めに食べてくださいね」
「ああ、わかった。おれも、おまえが作ったお菓子を食べて、腹を壊したとかは言いたくないしな」

 そこでシオンが『さとう氷』を口の中に放り込む。

「でもさ。こうやって手軽に食べられるのっていいよな? 遠征のときとか重宝されるんじゃないのか? でも、あれか。日持ちはしないのか?」

 誰に言うでもなく呟くシオンの言葉を、セシリアがすかさず拾った。
 そこでセシリアの中に謎の記憶が流れ込んでくる。

「あっ……」

 今、フェルトンの街で作っている砂糖はグラニュー糖だ。グラニュー糖を固めれば角砂糖ができるし、結晶を大きくすれば氷砂糖も作れる。

 氷砂糖なら、飴のようになめて楽しむこともできるし、角砂糖のように簡単に溶ける心配もない。ただ、水気には弱いことに変わりはないが。

 感極まったセシリアは、琥珀色の目を大きく見開き、口を「あ」の形にしたまま固まってしまう。
 そんな彼女を、シオンが心配そうに見つめた。

「お、おい。大丈夫か? セシリア? 何かあったのか?」
「あ、ありました! シオンさまのおかげです。新しい砂糖を思いついたんです」
「新しい砂糖?」
「はい。シオンさまがおっしゃったように、遠征にも持っていけて、手軽に食べられて、日持ちする砂糖です。そもそも砂糖は長期間保存しても変質しません。今は粉状ですけど、持ち運びやすいように固めればいいんですよね?」

 一気にまくし立てるセシリアに、シオンは唖然とする。

「すごい、すごいです、シオンさま!」

 セシリアは興奮のあまりシオンの手を両手で握りしめ、感謝と熱意を伝えるが、対照的にシオンは冷静だった。いや、むしろ引いていた。

「セシリア~」

 エレノアの声が風に乗って届いた瞬間、セシリアは我に返った。

「あなたたちが東屋にいると聞いて。仕事も一段落したから、一緒にお茶でもしようかと思ったのだけど……」
「邪魔をしたかな?」

 エレノアの言葉を遮るように、コンスタッドが口を挟んだ。

「いいえ、ちょうどよかったです! お姉さまに聞いてほしいことがあったんです!」

 セシリアの興奮した様子に、エレノアは少したじろいだ。

「どうしたのかしら? セシリアは」

 助けを求めるようにエレノアはシオンに視線を向けるが、シオンも黙って首を横に振る。

「お姉さま。セシリアの隣に座ってください。あ、シング公爵さまはお姉さまから離れて、こちらに」

 セシリアはシオンと向かい合って座っていたが、ちょうどその間にエレノアとコンスタッドが向かい合うように座らせる。

 アニーが黙ってお茶の用意をし、追加でお菓子も並べた。

「お姉さま。聞いてください」
「もう、先ほどからどうしたの? 何をそんなに興奮しているのかしら?」
「だって、シオンさま。すごいんですよ。砂糖を遠征のときに持っていき、手軽に食べられるようにしたいって」
「ほほう?」

 興味を引かれたのはコンスタッドだった。目を細めてニヤリと笑いながらシオンを見つめる。
 その視線に気づいたシオンは、頑なにコンスタッドの方を向かず、視線を逸らし続ける。

「だからセシリアは考えました」
「セシリア、しっ。お客様の前ですよ」
「エレノア嬢。いじゃないか。私と君の仲だし」

 コンスタッドの意味深な言葉に、セシリアはまるで意に介さず。

「わかったわ、セシリア。話を続けてちょうだい」
「はい、お姉さま。砂糖の結晶を大きくして、氷砂糖を作りましょう!」
「氷砂糖? ってこれのこと?」

 エレノアが指で示したのはテーブルの上に並べてある『さとう氷』だ。

「違います。これは食感を楽しむためにゼラチンを使っているので日持ちがしません。だけど砂糖そのままであれば、長期保存が可能です。粉の砂糖をぎゅっと固めた固形の砂糖を作るんです」

 エレノアは手にしたカップを口元まで運んで、そこで止めた。まるで紅茶の香りを堪能しているようにも見える。

「なるほどね……」
「砂糖は長期保存に向いている? ただの甘い調味料というだけでなく?」

 コンスタッドが割って入る。

「えぇ、そうです……先ほどは生産性と利益の話を優先させてしまったため、砂糖の基本的な性質についての説明が漏れていましたが」

 エレノアはカップを傾け、紅茶を一口飲んだ。だが彼女の言葉には少し含みがあった。実は砂糖の性質について、コンスタッドにすべてを明かすつもりはまだなかったのだ。

「砂糖は水分量が少ないので、雑菌が活動できないのです。そのため防腐効果が期待できます」
「なるほど。そうであれば、シオンが言ったように遠征などでは重宝する食材だ」
「ジャムを作るときにも砂糖を入れて糖度を高めることで、長持ちさせることができます。他にも果物や野菜を砂糖漬けにすれば、保存食にできると考えています」

 凛とした眼差しでコンスタッドに説明するエレノアの姿は洗練されており、セシリアは見とれてドキドキしてしまった。

「今はまだ、砂糖を作った食品はいろいろと試作段階ですが、セシリアが言ったように砂糖そのものを固めたものであれば、対応はできるかと」
「いやぁ、君たち姉妹は素晴らしい。その知識量と発想力。いったいどうやってそれらを身につけたのか、非常に興味深い。やはりケアード公爵の教育だろうか?」

 コンスタッドが感心したように声を漏らす。

「ヒントをくれたのはシオンさまです」
「だってさ、シオン。よかったな」

 ニヤリと笑うコンスタッドとは対照的に、シオンはどこか不機嫌そうに黙っていた。
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