堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます

澤谷弥(さわたに わたる)

文字の大きさ
4 / 67
【第一部】堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます

4.調査されました

しおりを挟む
 第一騎士団団長ジルベルト・リガウン。年は三十一になったところ。リガウン侯爵家の長男。
 婚期を逃したと言えば逃したかもしれないし、結婚する気がないと言えば無かったとも言える。片っ端からやってくる縁談を、仕事を理由に断っていたらこんな状態になってしまった。
 しかも、結婚はまだか、結婚はしないのかというリガウン侯爵と侯爵夫人からの攻撃に耐えきれず、騎士団の官舎に移り住んでしまう。さらに社交界が開かれても護衛という任務につき、それを欠席する口実にしてしまう始末。より一層、出会いから遠のいているジルベルト。

 屋敷にいるなら、調査を執事に頼むことができるのに、ここは官舎で執事のトムがいない。こういうときに限って、官舎に住んでいることを後悔した。仕方ないから第一副団長のサニエルに調査を頼むことにした。

「悪いがこのフランシア子爵家のエレオノーラ嬢について調べて欲しい」

「どうかされましたか? このご令嬢が何か?」

 サニエラは調査理由を尋ねたが、「少々気になるだけだ」という答えでジルベルトは誤魔化した。
 だからといって、それで誤魔化されるほどサニエラも単純ではない。どんな気になり方かが気になるところだったので、それは調査報告をするタイミングで探りを入れようと思っていた。サニエラの眼鏡がキラリと光る。副団長の方が、二枚くらい上手である。

 それから数日後。本当に数日後。むしろ三日後。
「団長。先日頼まれていた調査の結果を報告いたします」と、数枚の用紙を手にしたサニエラが団長室へとやって来た。ジルベルトは二度見した。用紙が数枚。数十枚ではなく。

「エレオノ―ラ・フランシア嬢ですが。年は今年十八になったところ。昨年、学院を卒業されているようですが、どうやら学院に通っていたわけではなく、自宅で試験を受けて卒業されたようです。特に外国語について、非常に高い成績を残しておりました。また社交界についてはデビューしたものの、病弱であるという理由から一切参加しておりません。従いまして、エレオノ―ラ嬢の素顔を誰も覚えていない、もしくは知らない、ということになります」

「いや。彼女は第零騎士団の所属のはずだが」

「ああ、団長が知りたいのはやはりそちらの方でしたか。以上が、彼女の表向きの調査結果です。第零騎士団の方は裏向きの調査結果になります」

 ジルベルトは執務席の机の上に右肘をつき、その手の甲の上に顎を乗せた。

「エレオノ―ラ・フランシア、第零騎士団諜報部潜入班所属。騎士団ではレオンと名乗っているようです。諜報部門としての情報収集能力は非常に優れている、という評価を得ています。しかし、その任務が特殊である故、常にあちらの騎士団の建物の方に常駐しているわけではないようです。また、入団試験にも男装して現れ、誰もそれがエレオノ―ラ嬢であったことを見破ることができなかった、というのは第零騎士団の伝説となっています。従いまして、第零騎士団の中でも彼女の素顔を知っている者はほとんどいない、ということになります。先日の盗賊団の密売摘発の件ですが、あれもエレオノ―ラ嬢の潜入調査のおかげであるという報告を受けておりますが、その報告をしたのも諜報部長のダニエル・フランシア、つまりエレオノ―ラ嬢の兄であるため、あの摘発任務の功労者でありながらも、あの場にいた誰もが彼女の素顔は見ていない、ということのようです」

 サニエラの話を聞きながら、ジルベルトは自分の左手をじっと見つめてしまった。ふいに触れてしまったあの感触が、今でも思い出すことができる。ぐっと、その手を握りしめた。

「つまり、誰もエレオノ―ラ嬢の素顔は知らない、と?」

「そのようですね。まあ、任務が特殊であるが故、その素顔を晒さないのでしょう。我々も、先日の盗賊団摘発で一緒に任務をこなしたはずですが、少なくとも私はエレオノ―ラ嬢に気付いておりません。実は、本当にあそこにいたのか、と疑っている者の一人です」

 だが、ジルベルトはあそこに確かにエレオノ―ラがいたことを知っている。あの酒場の男性店員に扮していた娘、それがエレオノ―ラ嬢だった。見た目は間違いなく男性店員。いくつか言葉を交わしたが、声も男性店員。ただ、ぶつかって押し倒してしまったとき、彼女は瞬間的にその表情を変え、「あ」という可愛らしい声を漏らしたのだ。きっと、あれが彼女の素なのだろう、とジルベルトは思っている。

「それで、団長。何のためにエレオノ―ラ嬢についての調査を命じたのですか?」

「彼女のおかげで、我々第一が盗賊団を摘発できたからな。何か礼を、と思ったのだが」

「まあ、間違いなく受け取らないでしょうね」

 そこでサニエルは眼鏡を右手の中指で押し上げた。

「報告書はこちらに」
 数枚の用紙を執務席の上に置いた。

「ああ、ありがとう」

「それでは、失礼します」
 団長室を出て行こうとするサニエラは、背中から「エレオノーラ嬢は、花は好きだろうか」というジルベルトの呟きが聞こえた、ような気がした。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

崖っぷち令嬢は冷血皇帝のお世話係〜侍女のはずが皇帝妃になるみたいです〜

束原ミヤコ
恋愛
ティディス・クリスティスは、没落寸前の貧乏な伯爵家の令嬢である。 家のために王宮で働く侍女に仕官したは良いけれど、緊張のせいでまともに話せず、面接で落とされそうになってしまう。 「家族のため、なんでもするからどうか働かせてください」と泣きついて、手に入れた仕事は――冷血皇帝と巷で噂されている、冷酷冷血名前を呼んだだけで子供が泣くと言われているレイシールド・ガルディアス皇帝陛下のお世話係だった。 皇帝レイシールドは気難しく、人を傍に置きたがらない。 今まで何人もの侍女が、レイシールドが恐ろしくて泣きながら辞めていったのだという。 ティディスは決意する。なんとしてでも、お仕事をやりとげて、没落から家を救わなければ……! 心根の優しいお世話係の令嬢と、無口で不器用な皇帝陛下の話です。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。 そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。 「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」 こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。 けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。 「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」 夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。 「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」 彼女には、まったく通用しなかった。 「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」 「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」 「い、いや。そうではなく……」 呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。 ──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ! と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。 ※他サイトにも掲載中。

【完結】異世界転移したら騎士団長と相思相愛になりました〜私の恋を父と兄が邪魔してくる〜

伽羅
恋愛
愛莉鈴(アリス)は幼馴染の健斗に片想いをしている。 ある朝、通学中の事故で道が塞がれた。 健斗はサボる口実が出来たと言って愛莉鈴を先に行かせる。 事故車で塞がれた道を電柱と塀の隙間から抜けようとすると妙な違和感が…。 気付いたら、まったく別の世界に佇んでいた。 そんな愛莉鈴を救ってくれた騎士団長を徐々に好きになっていくが、彼には想い人がいた。 やがて愛莉鈴には重大な秘密が判明して…。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

望まぬ結婚をさせられた私のもとに、死んだはずの護衛騎士が帰ってきました~不遇令嬢が世界一幸せな花嫁になるまで

越智屋ノマ
恋愛
「君を愛することはない」で始まった不遇な結婚――。 国王の命令でクラーヴァル公爵家へと嫁いだ伯爵令嬢ヴィオラ。しかし夫のルシウスに愛されることはなく、毎日つらい仕打ちを受けていた。 孤独に耐えるヴィオラにとって唯一の救いは、護衛騎士エデン・アーヴィスと過ごした日々の思い出だった。エデンは強くて誠実で、いつもヴィオラを守ってくれた……でも、彼はもういない。この国を襲った『災禍の竜』と相打ちになって、3年前に戦死してしまったのだから。 ある日、参加した夜会の席でヴィオラは窮地に立たされる。その夜会は夫の愛人が主催するもので、夫と結託してヴィオラを陥れようとしていたのだ。誰に救いを求めることもできず、絶体絶命の彼女を救ったのは――? (……私の体が、勝手に動いている!?) 「地獄で悔いろ、下郎が。このエデン・アーヴィスの目の黒いうちは、ヴィオラ様に指一本触れさせはしない!」 死んだはずのエデンの魂が、ヴィオラの体に乗り移っていた!?  ――これは、望まぬ結婚をさせられた伯爵令嬢ヴィオラと、死んだはずの護衛騎士エデンのふしぎな恋の物語。理不尽な夫になんて、もう絶対に負けません!!

【完結】死の4番隊隊長の花嫁候補に選ばれました~鈍感女は溺愛になかなか気付かない~

白井ライス
恋愛
時は血で血を洗う戦乱の世の中。 国の戦闘部隊“黒炎の龍”に入隊が叶わなかった主人公アイリーン・シュバイツァー。 幼馴染みで喧嘩仲間でもあったショーン・マクレイリーがかの有名な特効部隊でもある4番隊隊長に就任したことを知る。 いよいよ、隣国との戦争が間近に迫ったある日、アイリーンはショーンから決闘を申し込まれる。 これは脳筋女と恋に不器用な魔術師が結ばれるお話。

処理中です...