堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます

澤谷弥(さわたに わたる)

文字の大きさ
5 / 67
【第一部】堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます

5.話し合いをしました

しおりを挟む
 フランシア子爵家の談話室には総勢たるメンバーが揃っていた。両親の他に、一番上の兄ダニエル。そして、二番目の兄ドミニクと三番目の兄のフレディ。そのメンバーに囲まれているのが、エレオノーラ。

「それでダニエル。リガウン侯爵の話は本当か」

「今のところ、本当だと思われます。本日、次の休暇に挨拶に来たいということで予定の確認がありました。後日、正式に使いが来るものと思われます」

 ふむう、とフランシア子爵は唸った。願ってもいない話だった。本来であれば諸手を挙げたいところ。だが、娘は諜報部。

 このフランシア子爵家は代々第零騎士団を勤めあげる家系。父であるフランシア子爵は元諜報部部長、今はその座を長男ダニエルに譲っている。母であるフランシア子爵夫人は広報部に所属していた、過去形。二人の出会いは第零騎士団。次男のドミニクは母と同じく広報部門に所属し、三男のフレディは情報部門に所属している。
 本来であれば娘を第零騎士団に入団させる気はなかった。普通に結婚してもらいたかった。だが、この娘、なぜか昔から変装が得意であり、幼い頃から父親監修の元、変装しては父の仕事のためにいろんなところに潜入していた。今では、第零騎士団にはいなくてはならない存在にまでなっている。

「フレッド、リガウン卿について報告して欲しい」
 ダニエルの命によって、フレディはリガウンについて調べていた。情報部に所属しているので、この辺の調査はお手のもの。

「第一騎士団団長ジルベルト・リガウン。年は三十一。侯爵家の長男でありながらも、未婚。婚約者もいません。侯爵家の本宅を出て騎士団の官舎で暮らしています」

「あら、ちょっとその年で未婚で婚約者がいないっていうのはつらいわね。完全に逃したわね。しかも官舎住まいなんて、断然やる気がないわね」
 母が言った。

「元々結婚に興味が無いということも一部では囁かれていましたから」
 フレディは左手の人差し指で眼鏡を押し上げた。「ですが先日。彼の部下であるサニエラ副団長が、エレオノーラについて調べていたようです」

「そうなのか?」
 ダニエルの問いにフレディは頷く。

「その結婚に興味が無いリガウン卿が、なぜエレンに求婚したいとか言い出したのかも気になるところですが?」
 ドミニクが言う。その視線はしっかりとエレオノーラを見ている。
 そうですよねぇ、とエレオノーラは心の中で呟いた。

「エレン、経緯を説明しなさい」
 ダニエルから言われてしまった。「あのときの説明と同じでいい」

 胸を触られたとか、ちゅーしてしまったとか、それをこの家族の中で説明しなければならいのか、とエレオノーラは思った。そんなの普通だったらばこっ恥ずかしくて無理。だけどエレオノーラには仮面がある。その仮面さえつければ、その役になりきることができるのだ。
 エレオノーラは調査報告員という仮面をつけた。そして、先日ダニエルに説明した内容と同様のことを淡々と話した。

「事故ですね」
 話を聞いたフレディが眼鏡を押し上げながら言う。

「事故だが、リガウン卿にとってはただの事故ではないだろう。不幸な事故だ」
 父親が嘆いた。「可哀そうなリガウン卿」

「お父様、そこ、可愛そうなのは私ではないのですか」仮面を取り外したエレオノーラが言う。「一応、初めてのちゅーだったのに」
 両手で顔を覆った。

「エレン、初めてだったのか」

 ダニエルが腰を浮かした。「娼館にも潜入していたから、その辺はお手の物かと思っていたのだが」

「それはそれ、これはこれ。いつか出会える未来の旦那様のために、私は純潔を守っております」
 兄三人たちは吹き出した。そこ、面白いところでもなんでもないのだが。

「すまん、意外だっただけだ」
 取り繕うかのようにドミニクが言った。

「いっそのこと、その純潔をリガウン卿に捧げてしまったらどうかしら?」

「お母様」

「考えてもみなさい。我が家はしがない子爵家。その娘を娶りたいと侯爵家からの申し出ですよ。しかも相手は騎士団の団長。願ってもいない話ではないですか」

「しかし、仕事が」

「まったく、そうやって仕事仕事と言っていると、完全に婚期を逃しますよ。ましてあなたは社交界にも参加していない」

「していない、のではなく、できない、の間違いでは?」

「その辺の細かいところはどうでもよろしい。とにかく、すでに十八。本来であれば婚約者がいてもおかしくはない年頃。むしろ結婚してもおかしくはありません」

 母親の力説に、男性陣は四人とも腕を組み、うむぅと唸っている。ここにも結婚していない男が三人いるのだが。それには触れないらしい。まあ、婚約者がいるということで大目に見ているのだろう。

「我が第零騎士団も第一騎士団と任務はこなすことはあるからな。エレンのことを知っていてもらっても悪くはないかもしれないな」
 ダニエルは言う。

「ですが、リガウン団長は、責任を取るとおっしゃったのですよね?」
 エレオノーラが顎に手を当てた。何かを考えているようだ。

「そうだが?」
 ダニエルは語尾をあげる。

「つまり、リガウン団長は別に私のことを好きでもなんとでも思っているわけではなく、あの事故の責任を取りたいとおっしゃっているわけで」
 そこで、エレオノーラの視線は何かを探すかのように斜め上を見つめた。
「ということは、私はリガウン団長の妻、まだ結婚はしていないので、つまり婚約者、いや、まだ届け出もだしていないから恋人? を演じればよろしいということですよね?」

 というエレオノーラの発想に、他の五人は唸った。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

崖っぷち令嬢は冷血皇帝のお世話係〜侍女のはずが皇帝妃になるみたいです〜

束原ミヤコ
恋愛
ティディス・クリスティスは、没落寸前の貧乏な伯爵家の令嬢である。 家のために王宮で働く侍女に仕官したは良いけれど、緊張のせいでまともに話せず、面接で落とされそうになってしまう。 「家族のため、なんでもするからどうか働かせてください」と泣きついて、手に入れた仕事は――冷血皇帝と巷で噂されている、冷酷冷血名前を呼んだだけで子供が泣くと言われているレイシールド・ガルディアス皇帝陛下のお世話係だった。 皇帝レイシールドは気難しく、人を傍に置きたがらない。 今まで何人もの侍女が、レイシールドが恐ろしくて泣きながら辞めていったのだという。 ティディスは決意する。なんとしてでも、お仕事をやりとげて、没落から家を救わなければ……! 心根の優しいお世話係の令嬢と、無口で不器用な皇帝陛下の話です。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。 そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。 「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」 こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。 けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。 「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」 夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。 「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」 彼女には、まったく通用しなかった。 「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」 「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」 「い、いや。そうではなく……」 呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。 ──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ! と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。 ※他サイトにも掲載中。

【完結】異世界転移したら騎士団長と相思相愛になりました〜私の恋を父と兄が邪魔してくる〜

伽羅
恋愛
愛莉鈴(アリス)は幼馴染の健斗に片想いをしている。 ある朝、通学中の事故で道が塞がれた。 健斗はサボる口実が出来たと言って愛莉鈴を先に行かせる。 事故車で塞がれた道を電柱と塀の隙間から抜けようとすると妙な違和感が…。 気付いたら、まったく別の世界に佇んでいた。 そんな愛莉鈴を救ってくれた騎士団長を徐々に好きになっていくが、彼には想い人がいた。 やがて愛莉鈴には重大な秘密が判明して…。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

望まぬ結婚をさせられた私のもとに、死んだはずの護衛騎士が帰ってきました~不遇令嬢が世界一幸せな花嫁になるまで

越智屋ノマ
恋愛
「君を愛することはない」で始まった不遇な結婚――。 国王の命令でクラーヴァル公爵家へと嫁いだ伯爵令嬢ヴィオラ。しかし夫のルシウスに愛されることはなく、毎日つらい仕打ちを受けていた。 孤独に耐えるヴィオラにとって唯一の救いは、護衛騎士エデン・アーヴィスと過ごした日々の思い出だった。エデンは強くて誠実で、いつもヴィオラを守ってくれた……でも、彼はもういない。この国を襲った『災禍の竜』と相打ちになって、3年前に戦死してしまったのだから。 ある日、参加した夜会の席でヴィオラは窮地に立たされる。その夜会は夫の愛人が主催するもので、夫と結託してヴィオラを陥れようとしていたのだ。誰に救いを求めることもできず、絶体絶命の彼女を救ったのは――? (……私の体が、勝手に動いている!?) 「地獄で悔いろ、下郎が。このエデン・アーヴィスの目の黒いうちは、ヴィオラ様に指一本触れさせはしない!」 死んだはずのエデンの魂が、ヴィオラの体に乗り移っていた!?  ――これは、望まぬ結婚をさせられた伯爵令嬢ヴィオラと、死んだはずの護衛騎士エデンのふしぎな恋の物語。理不尽な夫になんて、もう絶対に負けません!!

【完結】死の4番隊隊長の花嫁候補に選ばれました~鈍感女は溺愛になかなか気付かない~

白井ライス
恋愛
時は血で血を洗う戦乱の世の中。 国の戦闘部隊“黒炎の龍”に入隊が叶わなかった主人公アイリーン・シュバイツァー。 幼馴染みで喧嘩仲間でもあったショーン・マクレイリーがかの有名な特効部隊でもある4番隊隊長に就任したことを知る。 いよいよ、隣国との戦争が間近に迫ったある日、アイリーンはショーンから決闘を申し込まれる。 これは脳筋女と恋に不器用な魔術師が結ばれるお話。

処理中です...