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【第一部】堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
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「久しぶりじゃないか、マリー」
金色の髪を撫でつけている男が、カウンターで一人グラスを傾けていた彼女を目ざとく見つけて言い寄ってきた。「今日もステキだね、マリー」
マリーと呼ばれた女性は、赤いドレスに赤いルージュが似合う妖艶な美女。その赤いドレスも胸元が大きく開いて、太ももにまでスリットが入っているものだから、この男にとってはたまらない。
「久しぶりね、アンディ」
「最近、姿を見せないから心配していたんだよ」
アンディが酒の入ったグラスを口につけた。
「だって、あの盗賊団の件があったでしょう。私たちも目をつけられたら、と思って、自粛していたのよ」
マリーは、オレンジ色の液体を一口飲む。氷がカランと音を立てた。
「でも、相変わらずいい女だね。マリーは」
アンディはそっとマリーの腰に手を回した。男の広い胸板が、マリーの頭に押し付けられる。
「相変わらず、あなたは手が早いのね。これではのんびりとこれを味わうことができないじゃないの」
マリーはグラスをかかげ、男を見上げた。
「だったら、俺を味わってみるか?」
その男の唇に、彼女は右手の人差し指を当てた。
「そうやって先を急ぐような人は嫌いよ」
「つれないな。でも、それが君の魅力的なところでもある。場所を変えよう。仕事の話がしたい」
「ベッドの中で?」
「それもいいかもしれないな」
男の答えに、マリーは艶やかに笑んだ。
マリーは、男と一緒にこの酒場の二階にある部屋へと移動した。他の人に聞かれたくない時に使うような部屋。また、他の人に見られたくないような行為をする時にも使われているらしい部屋だ。
男が上着を脱いでベッドの端に腰かけると、ベッドがゆっくりと沈んだ。
「飲む?」
マリーがグラスを差し出した。カランと氷の音がする。
「悪いね」
男は疑いもせずに、それを右手で受け取った。彼女も自分の分の飲み物の準備をすると、それを手にして、アンディの隣に腰を落ち着ける。二人分の重さで、ベッドはまた沈んだ。
「マリー。盗賊団の件には、あの騎士団が絡んでいるって聞いたかい?」
アンディはそこで、マリーからもらったグラスに口をつけた。
「ええ。ちょうど盗賊団たちが密売をしかけたときに、乗り込んできたらしいわね」
「ものすごくいいタイミングだ。盗賊団は一人残らず捕まったらしい。どこから、情報が漏れたんだろうか」
「さあ、盗聴でもされていたのかしら? それともスパイがいたとか?」
首を傾けるという幼い仕草が、意外にもマリーに似合う。
「スパイ、か」
男は呟き、左手をマリーの背中に回した。
「何か、心当たりがあるの?」
「いや。無い。スパイならあの事件後、いなくなった奴がそうなんだろうな。だが、あれ以降、仲間たちには会っていないしな。それよりも、せめて何か騎士団の弱みを握ることができれば、事は安全に進むと思うのだが」
「弱みねぇ」
一口、飲んだ。そして少し考え込む。
「何か、心当たりがあるのか?」
「いえ、弱みになるかどうかはわからないけれど。面白い噂を聞いたのよ」
何かを思い出したかのように、マリーふふっと笑った。それだけ面白い噂なのだろう。また一口、グラスの中身を口に含んだ。
「面白い噂? それはどんな噂だい?」
「あの騎士団の団長が、とうとう婚約したらしいわよ」
「騎士団の団長って、あの第一のか? 堅物で有名な」
右手のグラスが揺れた。カランと氷の音がした。それだけ興奮したのだろう。
「そう。堅物で有名な、ね」
「だったら決まりじゃないか。いざとなったら、その婚約者を狙う。立派な弱みだ。相手が誰か、わかるか?」
「今はまだわからないわ。面白い噂程度の話だから。調べておきましょうか」
「ああ、頼む」
そこで一口、アンディはグラスの中身を飲んだ。いい案が浮かんだと思っているようだ。「どうせ、どこかのご令嬢だろう。護衛が薄くなったところをさらえばいいんだ」
「そうね、その手があったわね。アンディ、あなた、冴えているじゃない」
男を熱っぽい視線で見上げ、マリーは小悪魔のような笑みを浮かべる。
褒められて気が高まったのだろう。そこからアンディはグラスの中の液体を一気に飲み干した。そして、空になったグラスを枕元にあるテーブルの上に置くと、マリーの両肩に手を添えた。
マリーもゆっくりと、手にしていたグラスに口をつけた。ゆっくりと、その液体を飲み干す。上下する喉元を、男が食い入るように見つめている。
だが、マリーは何事もゆっくりと。男を焦らすかのように、ゆっくりと。
ふと、男の身体がマリーの方に倒れてきた。やっと薬が効いてきたようだ。
マリーは手早く男の衣服を脱がせ、男をベッドの中へと引きずり込む。不本意ではあるが、胸元にキスマークでも残しておいてあげよう。それから、メモ用紙に「素敵な夜をありがとう」と書いた。もう一度唇に真っ赤なルージュをつけると、そのメモの脇にキスマークを落とした。
後始末を終えたマリーは、その部屋を出て行った。パタン、と扉が閉まる乾いた音が響いた。
金色の髪を撫でつけている男が、カウンターで一人グラスを傾けていた彼女を目ざとく見つけて言い寄ってきた。「今日もステキだね、マリー」
マリーと呼ばれた女性は、赤いドレスに赤いルージュが似合う妖艶な美女。その赤いドレスも胸元が大きく開いて、太ももにまでスリットが入っているものだから、この男にとってはたまらない。
「久しぶりね、アンディ」
「最近、姿を見せないから心配していたんだよ」
アンディが酒の入ったグラスを口につけた。
「だって、あの盗賊団の件があったでしょう。私たちも目をつけられたら、と思って、自粛していたのよ」
マリーは、オレンジ色の液体を一口飲む。氷がカランと音を立てた。
「でも、相変わらずいい女だね。マリーは」
アンディはそっとマリーの腰に手を回した。男の広い胸板が、マリーの頭に押し付けられる。
「相変わらず、あなたは手が早いのね。これではのんびりとこれを味わうことができないじゃないの」
マリーはグラスをかかげ、男を見上げた。
「だったら、俺を味わってみるか?」
その男の唇に、彼女は右手の人差し指を当てた。
「そうやって先を急ぐような人は嫌いよ」
「つれないな。でも、それが君の魅力的なところでもある。場所を変えよう。仕事の話がしたい」
「ベッドの中で?」
「それもいいかもしれないな」
男の答えに、マリーは艶やかに笑んだ。
マリーは、男と一緒にこの酒場の二階にある部屋へと移動した。他の人に聞かれたくない時に使うような部屋。また、他の人に見られたくないような行為をする時にも使われているらしい部屋だ。
男が上着を脱いでベッドの端に腰かけると、ベッドがゆっくりと沈んだ。
「飲む?」
マリーがグラスを差し出した。カランと氷の音がする。
「悪いね」
男は疑いもせずに、それを右手で受け取った。彼女も自分の分の飲み物の準備をすると、それを手にして、アンディの隣に腰を落ち着ける。二人分の重さで、ベッドはまた沈んだ。
「マリー。盗賊団の件には、あの騎士団が絡んでいるって聞いたかい?」
アンディはそこで、マリーからもらったグラスに口をつけた。
「ええ。ちょうど盗賊団たちが密売をしかけたときに、乗り込んできたらしいわね」
「ものすごくいいタイミングだ。盗賊団は一人残らず捕まったらしい。どこから、情報が漏れたんだろうか」
「さあ、盗聴でもされていたのかしら? それともスパイがいたとか?」
首を傾けるという幼い仕草が、意外にもマリーに似合う。
「スパイ、か」
男は呟き、左手をマリーの背中に回した。
「何か、心当たりがあるの?」
「いや。無い。スパイならあの事件後、いなくなった奴がそうなんだろうな。だが、あれ以降、仲間たちには会っていないしな。それよりも、せめて何か騎士団の弱みを握ることができれば、事は安全に進むと思うのだが」
「弱みねぇ」
一口、飲んだ。そして少し考え込む。
「何か、心当たりがあるのか?」
「いえ、弱みになるかどうかはわからないけれど。面白い噂を聞いたのよ」
何かを思い出したかのように、マリーふふっと笑った。それだけ面白い噂なのだろう。また一口、グラスの中身を口に含んだ。
「面白い噂? それはどんな噂だい?」
「あの騎士団の団長が、とうとう婚約したらしいわよ」
「騎士団の団長って、あの第一のか? 堅物で有名な」
右手のグラスが揺れた。カランと氷の音がした。それだけ興奮したのだろう。
「そう。堅物で有名な、ね」
「だったら決まりじゃないか。いざとなったら、その婚約者を狙う。立派な弱みだ。相手が誰か、わかるか?」
「今はまだわからないわ。面白い噂程度の話だから。調べておきましょうか」
「ああ、頼む」
そこで一口、アンディはグラスの中身を飲んだ。いい案が浮かんだと思っているようだ。「どうせ、どこかのご令嬢だろう。護衛が薄くなったところをさらえばいいんだ」
「そうね、その手があったわね。アンディ、あなた、冴えているじゃない」
男を熱っぽい視線で見上げ、マリーは小悪魔のような笑みを浮かべる。
褒められて気が高まったのだろう。そこからアンディはグラスの中の液体を一気に飲み干した。そして、空になったグラスを枕元にあるテーブルの上に置くと、マリーの両肩に手を添えた。
マリーもゆっくりと、手にしていたグラスに口をつけた。ゆっくりと、その液体を飲み干す。上下する喉元を、男が食い入るように見つめている。
だが、マリーは何事もゆっくりと。男を焦らすかのように、ゆっくりと。
ふと、男の身体がマリーの方に倒れてきた。やっと薬が効いてきたようだ。
マリーは手早く男の衣服を脱がせ、男をベッドの中へと引きずり込む。不本意ではあるが、胸元にキスマークでも残しておいてあげよう。それから、メモ用紙に「素敵な夜をありがとう」と書いた。もう一度唇に真っ赤なルージュをつけると、そのメモの脇にキスマークを落とした。
後始末を終えたマリーは、その部屋を出て行った。パタン、と扉が閉まる乾いた音が響いた。
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