堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます

澤谷弥(さわたに わたる)

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【第一部】堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます

20.パーティです

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「ジルベルト様よね」

「リガウン侯爵家のジルベルトか?」

「珍しいな。今日は警備担当ではないのか?」

「一緒にいるのはどこのご令嬢だ?」

 ジルベルトの腕に自分の腕を絡ませて、入口から会場へと踏み入れると、そんな声が耳に届いてくる。ジルベルトの婚約者、という仮面をつけているにも関わらず、エレオノーラはより一層絡めている腕に力をいれてしまった。ジルベルトも彼女のそれに気付いたのだろう。彼女の顔を見て、優しい笑みを浮かべてくれる。

「あの堅物が笑っているぞ」

「でもお似合いよね」

 何をしても注目を浴びるらしい。困ったものだ。ジルベルトは飲み物を受け取ると、一つをエレオノーラに手渡した。

「ジルベルト」
 声をかけてきた男がいる。

「伯父のエガートン侯爵だ」
 ジルベルトはエレオノーラの耳元で囁いた。ジルベルトの母親の兄にあたるらしい。エレオノーラもエガートン侯爵の名前は何度か耳にしたことはある。潜入調査で見かけたことはあるが、このような公の場で目にするのは初めてだ。

「婚約したと聞いてな。今日は会えるのを楽しみにしていたぞ」

「ご報告が遅くなりまして、申し訳ございません」

「いやいや、そういう堅苦しい挨拶は抜きだ。あれからは話を聞いていたからな。あきらめていた孫に望みが出てきた、と。屋敷に遊びに行ったときに泣いて喜んでいたぞ? それで、そちらのお嬢さんが?」

「はい」
 ジルベルトに促され、エレオノーラは挨拶をする。「エレオノーラ・フランシアです」

「ほほう。話しには聞いていたが、本当にジルベルトとお似合いだな。よかったな、ジルベルト」
 エガートン侯爵はジルベルトの肩を小突いた。

「そう言っていただけて、光栄です」
 エレオノーラは上品に笑んだ。その笑みに、エガートン侯爵も満足に微笑み返した。

「では、また後ほど」
 言うと、彼はまた別な人物に声をかけていた。どうやら、ジルベルトと違ってとても社交的な人柄のようだ。

 楽団の音楽が鳴り響いた。エレオノーラはピタリとジルベルトに寄り添う。重々しい扉が開いて、王族が入場してきた。
 国王、王妃、第一王子、第一王女、第二王女と華やかさに溢れている。国王が何かしら言葉を発すると、会場がわーっと盛り上がる。堅苦しい挨拶が嫌いな人だから、あとはご自由にという流れだろう。
 エレオノーラはジルベルトに促されて、場所を移動した。どうやらジルベルトが知り合いを見つけたようだ。と思ったらダニエルだった。

「ダニエル殿」
「リガウン卿はお会いするのは初めてですね。私の婚約者のウェンディ・マクドネルです」
 ダニエルの隣に寄り添っていた女性が、礼をする。

「ウェンディ、エレンをお願いしてもいいだろうか。私は少し、リガウン卿と話がある」

「はい、ダニエル様」
 にこやかに微笑む彼女は、今のエレオノーラよりも幼く見える。ウェンディの返事に満足したダニエルは、少し離れた場所でジルベルトと何やら話し始めた。

「エレン、婚約おめでとう」

「ありがとうございます。こうしてウェンディとこの場でお会いすると、不思議な感じがしますね」

「ええ、あなたは本当にこのような場所には出席されなかったから。ジルベルト様はとても素敵な方ね」

「うふふふ」
 と、エレオノーラからは嬉しい笑みがこぼれる。

「ただ、少し」
 ウェンディが言葉を続ける。「今日の恰好はやりすぎじゃないかしら? ジルベルト様に似合うようにと選んだとは思うけれど、あなた本来の可愛らしさが台無しよ?」

「いいのです。フランシア家のエレオノーラではなく、ジルベルト様の婚約者としてのエレオノーラですから」

「また、そういうことを言って」
 ウェンディが給仕を呼び、飲み物を手にした。「たまには、仕事を忘れて純粋に楽しんだらどうなのかしら?」

「私は、十分楽しんでおりますよ?」

 実はウェンディも第零騎士団の諜報部。エレオノーラの裏の顔は知らないけれど、諜報部の潜入班であることは知っている。

「ウェンディ、エレン。待たせて悪かった」

 ダニエルが戻ってきた。続いてジルベルトも姿を現した。
「エレン」
 ジルベルトが手を差し出したので、エレオノーラはそれをとり、ダンスの輪の中へと消えていく。

「ねえ、ダン」
 ウェンディはダニエルの耳元で囁く。「あの二人は、本当の婚約者? それとも囮?」

「ウェンディ。残念ながらオレはその回答を持ち合わせていないのだよ」
 言い、ダニエルは婚約者の腰を抱き寄せた。「オレたちも一曲、踊ろうか」

 さて、輪の中に消えたジルベルトとエレオノーラは、踊っていた。とりあえず一曲は踊ってきなさい、と母親から言われたジルベルトは義務を果たすかのようにエレオノーラをダンスに誘ったのだ。エレオノーラと踊ることに不満は無い。むしろ、踊ることでエレオノーラの存在を周囲に知られることが不満だった。

「ジル様、とてもダンスがお上手ですね」

「あなたに恥をかかせないように、と、密かに練習をしていた」

「まあ。そんなジル様も見てみたかったです」

「エレンは、その。ダンスも上手いな」

「潜入調査の賜物ですね」

「つまり、エレンは他の人と踊ったことがある、と?」

「え、ええ。まあ。はい。任務上」

「任務で?」

「はい」

「任務以外では?」

「今日が初めてです」

「そうか」

 なぜかジルベルトは嬉しそうだった。
 曲が途切れたところで、その輪から抜けた。ジルベルトは本当に一曲で終わらせるつもりだ。彼女の手を引いて歩くと、何かしら視線が絡みついてくる。

「ジルベルト殿」
 名を呼ばれた。こんな場所で親し気に名を呼んでくる者は限られている。

「これは、グリフィン公爵。ご無沙汰しております」

「貴殿が婚約したと聞いてな。思わず声をかけてしまった。そちらの女性が貴殿の婚約者か?」

「ええ」
 照れたような笑みをジルベルトは浮かべ、エレオノーラは静かに挨拶をした。
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