堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます

澤谷弥(さわたに わたる)

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【第二部】堅物騎士団長と新婚の変装令嬢は今日もその役を演じます

4.恥ずかしいです

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 ジルベルトの休暇が明けた。ものすごく仕事に行きたくなさそうで、屋敷を出るときに三回ほど振り向いていた。その姿に母親から「女々しいわね。さっさと行きなさい」と一括されてから、やっと王宮に向かったという始末。

「あの、お義母さま。私もそろそろ呼び出されておりまして」
 グリフィン公爵の件が落ち着いたからか、エレオノーラにも召集がかかった。ということは、潜入調査の依頼の可能性が高い。

「まあ。あなたもなの? 昨日の今日で身体の方は大丈夫なのかしら?」
 と変な心配をされてしまった。
「あ、はい。皆さん、忘れていると思うのですが。私も一応、騎士ですので。それなりに体力はあります」

「あら、そうなのね」
 となぜか義母は嬉しそうだった。
 エレオノーラは久しぶりの騎士服に身を包み、行ってまいりますと頭を下げてリガウン家の屋敷を後にした。義母はちょっとエレオノーラの顔が違うような気もしたけれど、それを気にせずに「行ってらっしゃい」と明るく声をかけた。屋敷から王宮までの移動は馬車が一般的であるが、エレオノーラはその変則的な勤務であるため、馬を使っていた。このリガウン家に来た時に、愛馬も一緒に連れてきていた。厩は屋敷の裏側にあるため、そこでジルベルトの愛馬のマックスと一緒に世話をしてもらっている。
 エレオノーラの愛馬はすでにいつでも乗れるようにと外に繋がれていた。エレオノーラは久しぶりに馬に乗って、王宮へと向かった。

 第零騎士団の方に姿を現すのは一月以上振り。退団騒ぎ以降では初になる。そんな彼女の姿を目ざとく見つけたのは兄のダニエル。周りに誰もいないことをいいことに声をかけてきた。むしろ、彼女の仕事部屋は、ダニエルと彼女のみでもある。
「久しぶりだな、元気にしていたか」

「はい、おかげさまで」

「お前の腕前も鈍っていないようで安心したぞ」

「そうですか?」

「今のその姿は誰もエレオノーラ・リガウンとは思わないだろう。どこからどう見てもレオンだ」

「そう言ってもらえて安心しました。私もこちらの格好は久しぶりですから。部長、お茶でも煎れましょうか」

「ああ、頼む。お前とは久しぶりにいろいろ話をしたいと思っていたところだ」

「それは、エレオノーラとして聞けば良い話ですか?」

 ダニエルは頷き、笑いながらソファにゆったりと座った。
 エレオノーラはお茶を淹れるとダニエルの前に置き、自分はその向かい側に座った。

「まずは。先日の結婚式、とても良かった。本当におめでとう」

「ありがとうございます」
 そこでなぜかダニエルが口元に手を当て、静かに笑い出す。エレオノーラは不思議そうに首を右に倒した。

「いや、すまん。あれ、リガウン団長が、いきなり休みを取っただろ?」
 それにコクコクと二回頷くエレオノーラ。

「リガウン団長がな、とうとう暴れてだな。それを見かねた総帥が休みを認めた」

「そうだったんですか?」
 エレオノーラにとっては初耳だった。だが、義母がそれらしいことを揶揄していたようにも思う。それが事実だった、ということか。

 ああ、と頷くダニエルは笑っている。

「グリフィン公爵の件で、第零も第一も、何日も帰れない日が続いていてな。それで、とうとうリガウン団長が、もう辞めてやる、とか騒ぎ出した」
 またそこで口元を押さえた。
「サニエラ副団長がしきりになだめていたが、あのリガウン団長がそれで納得するわけがないだろう? あまりにもの暴れっぷりに、ショーン団長も駆け付けてだな。その隙に総帥を呼んできた」
 ダニエルはぷっと吹き出した。
「まあ、総帥も気にはしていたんだろうな。近々、三日続けて休みを取ってもいい、と言ったら、リガウン団長はショーン団長を振りきって、明日また来ると言って帰った」
 そこでダニエルは大笑いした。
「よっぽどお前に会いたかったんだな。サニエラ副団長が言うには、新妻に一月以上も会えていないようだから、今日は見逃してあげてください、だそうだ。辞められるよりはマシです、と」
 ダニエルは笑いすぎて、目尻に涙を浮かべていた。
 だがエレオノーラにとっては笑えない話だった。笑えない話というよりはむしろ恥ずかしい。
「あのときは、ショーン団長がお前を自宅待機にさせていたことを後悔していたな」

「むしろ、私がその場にいた方が、私が私であるとばれてしまうのでまずかったのではないですか?」

「まぁ、そうかもしれないな」
 ひとしきり大笑いして満足したのか、ダニエルはカップを手にした。

「この後、ショーン団長に呼ばれている」

「はい」

「間違いなく潜入調査だと思われる」

「はい」

「もう、大丈夫だな?」

「もちろんです。どんな役でもこなしてみせます」

「それを聞いて安心した。だが、団長に会う前に首元のそれをなんとかしろ」

「はい?」

「鏡で確認しておけ」
 と言われたので、手鏡で確認したら。首元に鬱血痕がある。エレオノーラはそこを手で押さえた。もしかしたら、義母にも気づかれていたのかもしれない。

「結婚したから特に問題はないのだが。リガウン団長にはオレから注意しておく。潜入調査に支障が出るような場所にはしないように、と」

「なんかそれ、ものすごく恥ずかしいのですが」

「だったら、自分で伝えるか?」

「いえ、ダニエル部長からお願いします」

 エレオノーラは変装用のメイクセットで、ダニエルから指摘されたものを消した。
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