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【第二部】堅物騎士団長と新婚の変装令嬢は今日もその役を演じます
8.未成年はお断りです(1)
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そこに足を踏み入れたのは初めてだった。きらびやかな光が入り口を覆っていて、そこに入るのをためらっていた。だが、今日は何を思ったのか思い切ってその一歩を踏み出してみた。
やはり、中もきらびやかな世界だった。色とりどりのドレス、しかも身体のラインを強調するようなドレスを身に纏う女性たちが、鮮やかに笑顔を浮かべている。品のいいタキシードに身を包む男性たち。年齢層は、青年と呼ばれ始めるような年代から初老を過ぎた年代までと幅広い。ただ、彼らの共通点はきらびやか、ということ。
「こんばんは」
ドキリと心臓が鳴った。まさかこんな自分が声をかけられるとは思ってもいなかったからだ。
「あなた、初めてね?」
真っ赤なルージュと紫色のアイシャドウが、彼女の魅力を際立たせている。そして身体のラインをしっかりと見せつける、真っ赤なドレス。一般的な男性が見たら、八割は彼女に魅力を感じることだろう。残りの二割は好みの問題だ。
「はい」
彼は答えた。ちょっと緊張して、声が上ずってしまった。
「まあ、初々しいこと」
彼女がニッコリと笑うと、意外と幼く見えるのも不思議だった。「私が教えてあげるわよ」
彼女が右手の人差し指で顎に触れてきた。
「私はマリア。坊や、お名前は?」
「フレドリックです。ですが、マリアさんにはフレディと呼んでもらいたい」
「マリアさん、だなんて。私のことはマリーと呼んで。フレディ」
「はい、マリー」
そこでフレドリックはやっと笑顔を浮かべることができた。
「じゃあ、可愛いフレディにマリーお姉さんがいろいろと教えてあげるわね」
マリアがざっと店の説明をしてくれる。この華やかな店は酒もあり、女もあり、賭けもある、というこの王都の中でも華やかな酒場。マリアはこのお店の人かと思いきや、ただの常連さんだった。フレドリックがあまりにも初々しくて、可愛らしくて声をかけてきてくれたらしい。男性のわりには華奢な体つきではあるが、今回はそれが役に立ったようだ。
マリアと一緒に、初めての賭博に興じる。ルールもよくわからないが、マリアが丁寧に教えてくれる。
「僕、見た通り、あまりお金はもっていませんよ?」
フレドリックは不安になってそう言うが、私があなたを気に入っただけだから、お金のことは気にしないでと言う。
「あら、マリー」
また別な女性が、マリアに声をかけてきた。「今日は可愛い坊やを連れているんじゃないの?」
「ええ。フレディって言うの。私のボーイフレンドよ?」
「あら、マリー。あなた、ボーイフレンドはたくさんいるじゃない。その子、私に譲りなさいよ」
女は下卑た笑いをする。
「ダメよ。フレディはこんなにきれいな顔をしているんだもの。この子は私のもの」
マリアがフレドリックに抱きつく。フレドリックの肩に、彼女のその豊かな胸が当たる。想像したら、少し嬉しいような恥ずかしいような。みるみるうちにフレドリックの頬が赤くなり、耳まで赤く染まる。
「ちょっと、マリー。この子、照れてるわよ」
「そうよ。フレディったらとっても可愛いの。今までにいないタイプでしょ?」
「マリーが飽きたら、私に譲って」
そして女はまた笑う。
「いやよ。この子は私のもの。飽きるはずがないわ」
あっちへいきましょう、とマリアはフレドリックの手をとった。一目のつかない、ボックス席へと移動する。
「マリーはどうして僕に声をかけたの? マリーのような素敵な女性なら、選びたい放題じゃないのかな?」
「どうしてかしら?」
マリアは長い足を組んで、グラスを傾けた。「あなたの顔。綺麗だから、かしら?」
目を細めてフレドリックを見つめる。
「ねえ、一目ぼれって言ったら信じる?」
マリアは頭を傾けて、それをフレドリックの肩にのせた。
「私、綺麗な顔が好きなの。だけど、あなたの顔はもっと好き。一目見て、ビリっときたの。信じられる?」
「僕も、マリーの顔を見てビリっときた」
彼女の顔がのっている反対の手で、彼女の頬を触れた。触れた時、彼女の身体がピクリと可愛らしく反応した。
「フレディって、手も奇麗なのね」
「でも、マリーの綺麗さにはかなわない」
「あら、言うわね」
フレドリックもこの店に入った瞬間、マリアに目を奪われた。一目見た時から、彼女に惹かれたのだと思う。だから、彼女が声をかけてくれなかったら、自分から声をかけようと思っていた。だけど、偶然か必然か、彼女の方から声をかけてくれた。
想い、というものが通じたのだろうか。
「僕、もっとマリーのことが知りたいな」
フレドリックもグラスを傾けて、薄い茶色の液体を喉に流し込んだ。氷はカランと音を立てている。
「あら、かわいいことを言ってくれるじゃない。でも、嬉しい」
マリアが目を細めて笑うと、右目の下の泣きぼくろが際立つ。妖艶に見えて、どこか幼い。そのギャップの虜にもなりそうだ。
マリアは頭を戻して、フレドリックを見つめた。フレドリックも彼女を見つめている。
フレドリックは、グラスをテーブルの上に置くと、彼女の手をとった。その甲に唇を落とす。じっと彼女を見据えたまま。
「今日は、これで我慢するよ」
「もっと、いいのよ?」
マリアはどこか不満そうだ。
「いや、いい。これ以上は僕の抑えがきかないから。あなたを大事にしたい」
やはり、中もきらびやかな世界だった。色とりどりのドレス、しかも身体のラインを強調するようなドレスを身に纏う女性たちが、鮮やかに笑顔を浮かべている。品のいいタキシードに身を包む男性たち。年齢層は、青年と呼ばれ始めるような年代から初老を過ぎた年代までと幅広い。ただ、彼らの共通点はきらびやか、ということ。
「こんばんは」
ドキリと心臓が鳴った。まさかこんな自分が声をかけられるとは思ってもいなかったからだ。
「あなた、初めてね?」
真っ赤なルージュと紫色のアイシャドウが、彼女の魅力を際立たせている。そして身体のラインをしっかりと見せつける、真っ赤なドレス。一般的な男性が見たら、八割は彼女に魅力を感じることだろう。残りの二割は好みの問題だ。
「はい」
彼は答えた。ちょっと緊張して、声が上ずってしまった。
「まあ、初々しいこと」
彼女がニッコリと笑うと、意外と幼く見えるのも不思議だった。「私が教えてあげるわよ」
彼女が右手の人差し指で顎に触れてきた。
「私はマリア。坊や、お名前は?」
「フレドリックです。ですが、マリアさんにはフレディと呼んでもらいたい」
「マリアさん、だなんて。私のことはマリーと呼んで。フレディ」
「はい、マリー」
そこでフレドリックはやっと笑顔を浮かべることができた。
「じゃあ、可愛いフレディにマリーお姉さんがいろいろと教えてあげるわね」
マリアがざっと店の説明をしてくれる。この華やかな店は酒もあり、女もあり、賭けもある、というこの王都の中でも華やかな酒場。マリアはこのお店の人かと思いきや、ただの常連さんだった。フレドリックがあまりにも初々しくて、可愛らしくて声をかけてきてくれたらしい。男性のわりには華奢な体つきではあるが、今回はそれが役に立ったようだ。
マリアと一緒に、初めての賭博に興じる。ルールもよくわからないが、マリアが丁寧に教えてくれる。
「僕、見た通り、あまりお金はもっていませんよ?」
フレドリックは不安になってそう言うが、私があなたを気に入っただけだから、お金のことは気にしないでと言う。
「あら、マリー」
また別な女性が、マリアに声をかけてきた。「今日は可愛い坊やを連れているんじゃないの?」
「ええ。フレディって言うの。私のボーイフレンドよ?」
「あら、マリー。あなた、ボーイフレンドはたくさんいるじゃない。その子、私に譲りなさいよ」
女は下卑た笑いをする。
「ダメよ。フレディはこんなにきれいな顔をしているんだもの。この子は私のもの」
マリアがフレドリックに抱きつく。フレドリックの肩に、彼女のその豊かな胸が当たる。想像したら、少し嬉しいような恥ずかしいような。みるみるうちにフレドリックの頬が赤くなり、耳まで赤く染まる。
「ちょっと、マリー。この子、照れてるわよ」
「そうよ。フレディったらとっても可愛いの。今までにいないタイプでしょ?」
「マリーが飽きたら、私に譲って」
そして女はまた笑う。
「いやよ。この子は私のもの。飽きるはずがないわ」
あっちへいきましょう、とマリアはフレドリックの手をとった。一目のつかない、ボックス席へと移動する。
「マリーはどうして僕に声をかけたの? マリーのような素敵な女性なら、選びたい放題じゃないのかな?」
「どうしてかしら?」
マリアは長い足を組んで、グラスを傾けた。「あなたの顔。綺麗だから、かしら?」
目を細めてフレドリックを見つめる。
「ねえ、一目ぼれって言ったら信じる?」
マリアは頭を傾けて、それをフレドリックの肩にのせた。
「私、綺麗な顔が好きなの。だけど、あなたの顔はもっと好き。一目見て、ビリっときたの。信じられる?」
「僕も、マリーの顔を見てビリっときた」
彼女の顔がのっている反対の手で、彼女の頬を触れた。触れた時、彼女の身体がピクリと可愛らしく反応した。
「フレディって、手も奇麗なのね」
「でも、マリーの綺麗さにはかなわない」
「あら、言うわね」
フレドリックもこの店に入った瞬間、マリアに目を奪われた。一目見た時から、彼女に惹かれたのだと思う。だから、彼女が声をかけてくれなかったら、自分から声をかけようと思っていた。だけど、偶然か必然か、彼女の方から声をかけてくれた。
想い、というものが通じたのだろうか。
「僕、もっとマリーのことが知りたいな」
フレドリックもグラスを傾けて、薄い茶色の液体を喉に流し込んだ。氷はカランと音を立てている。
「あら、かわいいことを言ってくれるじゃない。でも、嬉しい」
マリアが目を細めて笑うと、右目の下の泣きぼくろが際立つ。妖艶に見えて、どこか幼い。そのギャップの虜にもなりそうだ。
マリアは頭を戻して、フレドリックを見つめた。フレドリックも彼女を見つめている。
フレドリックは、グラスをテーブルの上に置くと、彼女の手をとった。その甲に唇を落とす。じっと彼女を見据えたまま。
「今日は、これで我慢するよ」
「もっと、いいのよ?」
マリアはどこか不満そうだ。
「いや、いい。これ以上は僕の抑えがきかないから。あなたを大事にしたい」
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