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【第二部】堅物騎士団長と新婚の変装令嬢は今日もその役を演じます
9.お食事にいきましょう
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バーデールに着いたその日の夜は簡単な身内のみでの食事。次の日は主に会議。夜は関係者を集めての会食。そして三日目以降は王都周辺の視察。というスケジュールになっているらしい。基本的に通訳のエレオノーラとドミニクは、クラレンス陛下につきっきりだ。交代でどちらかがついている。
護衛の方は、五人でローテーションを組んでいるらしい。ジルベルトが近くにいるときもあるし、いないときもある。基本的には陛下付きの護衛騎士がメインでついているらしいのだが。その辺のことはよくわからない。
ただ、慣れない通訳は大変だった。ドミニクがいて、お互いがお互いをフォローできるからいいものの、一人では無理だったかもしれない。ドミニクをつけてくれたショーン団長には感謝しなければいけないかも、とエレオノーラは思っていた。
ただ、その通訳の中でも会食での通訳は最悪だった。何しろ、目の前にご馳走が並んでいるのに食べられない。食事のタイミングを見計らって、クラレンス陛下に声をかける。しかもこの陛下、美味しそうに食べるものだから、エレオノーラにとっては拷問だった。何度お腹が鳴りそうになったことか。早く終わってくれ、という願いしかなかった。
その願いが叶って、やっと会食が終了した。
部屋に戻ろうとしたエレオノーラは、侍女に呼び止められた。彼女はこっそりとお菓子を渡してくれた。ありがとう、と受け取り、その場で口の中に放り込んでみた。どうやら、バーデールのお菓子らしい。優しい甘味が口の中に広がると共に、その侍女の温かさが心の中に広がった。
見知らぬ土地であるからこそ、こういった人の優しさが嬉しい。
今日のお勤めは会食時の通訳まで。それが終われば今日の業務は終了。
エレオノーラは着替えると、隣のドミニクの部屋へと向かった。廊下に誰もいないことを確認して。
コンコンコンとドアをノックし、兄の返事を聞いてからドアを開けた。
「ご飯を食べに行きませんか?」
「ああ、そうだな。ってお前誰だよ」
読書家のドミニクは、案の定、本を読んでいた。しかもバーデール語で書かれた本。だが、突如と現れた妹の姿を見て、思わずそうつっこみをいれてしまった。
「うふふ。魅惑の美女になってみました」
エレオノーラは一つにまとめていた髪をおろした。その髪はふわふわとゆるやかなウェーブを保っていたため、それをゆるくハーフアップにした。女史イメージのきっちりとしたブラウスの足首まで隠れるスカートも脱ぎ捨て、身体の上半身のラインを強調し、下はふわっとしたスカートのドレス。
「エレン。残念ながらそれは僕の好みじゃないな」
「ドムお兄さま、誰もお兄さまの好みについては聞いておりません。これは、潜入調査ですよ」
「え、その恰好で? どこに?」
「だから、ご飯を食べるのが潜入調査なのです」
「え?」
ドミニクは左側の唇を引きつらせ、いかにも嫌だという顔をしている。「普通にご飯を食べようよ」
「私もそうしたいのはやまやまなのですが、こちらの潜入調査はショーン団長からの命令になっています」
「僕も潜入するの? 僕、広報部だよ」
「はい、もちろんです。団長命令ですから。ダニエル部長からの命令ではありませんよ。それでしたら断っても問題ありません。しかし、ショーン団長からの命令ですから、お兄さまに拒否権はございません。というわけでして、お兄様も変装してください。そして、騎士団の仕事だと思えば、自然と口調も変わるはずです」
そう言う、自称魅惑の美女の笑みはとても恐ろしかった。
エレオノーラの手によって無理やり着替えをさせられて、無理やり髪型を変えられて、無理やり外に連れ出されたドミニクは、自称、魅惑の美女と腕を組んで歩く羽目になった。
多分、ドミニクよりも上の年齢層の男性から見たら、彼女は魅惑の美女なのだろう。だが、残念なことにドミニクから見たら、魅惑の美女ではない。つまり、好みではないということ。ここは、ジルベルトの意見も聞いてみたいところではあるが、この恰好をジルベルトに見られるのもいかがなものか。
「ここ、なのか?」
建物を目の前にして、ドミニクは一度立ち止まる。隣のエレオノーラも立ち止まる。
「見るからに高そうなんだけど」
「それは建物の高さのことを言っておりますか? ちなみに、レストランは五階になります」
「いや、値段の方」
「そちらは大丈夫です。安心してください。経費で落ちますから。先ほども、あのようなご馳走を目の前にして食べられなかったではないですか。だから、です」
「潜入調査じゃないのか」
「潜入調査です。このような高級レストランでご馳走をいただくのが潜入調査です」
そこまで強調されると、潜入捜査ではないように思えてくるのは何故だろう。
「ちなみに、フレディの名前で予約してあります」
「可哀そうなフレディ。名前だけ使われるなんて」
そのレストランの中に一歩踏み入れると、自称魅惑の美女は魅惑の美女らしい振舞をし始めた。ドミニクも騎士団の仕事だと思えばいつもの広報部としての振舞が可能となる。
「こちらへどうぞ」
店員に案内されたのは窓際のテーブル席。街の明かりがポツポツと下に見える。
食前酒が運ばれてきたので、二人は見つめ合ってそれを飲んだ。二人はあえてバーデールの言葉ではなく、母国の言葉で話をした。何を話しているのかなんて、周囲にはわからない。わかるのは、ただ二人が楽しそうである、ということ。
そして、その二人を鋭く見つめる視線があった。
護衛の方は、五人でローテーションを組んでいるらしい。ジルベルトが近くにいるときもあるし、いないときもある。基本的には陛下付きの護衛騎士がメインでついているらしいのだが。その辺のことはよくわからない。
ただ、慣れない通訳は大変だった。ドミニクがいて、お互いがお互いをフォローできるからいいものの、一人では無理だったかもしれない。ドミニクをつけてくれたショーン団長には感謝しなければいけないかも、とエレオノーラは思っていた。
ただ、その通訳の中でも会食での通訳は最悪だった。何しろ、目の前にご馳走が並んでいるのに食べられない。食事のタイミングを見計らって、クラレンス陛下に声をかける。しかもこの陛下、美味しそうに食べるものだから、エレオノーラにとっては拷問だった。何度お腹が鳴りそうになったことか。早く終わってくれ、という願いしかなかった。
その願いが叶って、やっと会食が終了した。
部屋に戻ろうとしたエレオノーラは、侍女に呼び止められた。彼女はこっそりとお菓子を渡してくれた。ありがとう、と受け取り、その場で口の中に放り込んでみた。どうやら、バーデールのお菓子らしい。優しい甘味が口の中に広がると共に、その侍女の温かさが心の中に広がった。
見知らぬ土地であるからこそ、こういった人の優しさが嬉しい。
今日のお勤めは会食時の通訳まで。それが終われば今日の業務は終了。
エレオノーラは着替えると、隣のドミニクの部屋へと向かった。廊下に誰もいないことを確認して。
コンコンコンとドアをノックし、兄の返事を聞いてからドアを開けた。
「ご飯を食べに行きませんか?」
「ああ、そうだな。ってお前誰だよ」
読書家のドミニクは、案の定、本を読んでいた。しかもバーデール語で書かれた本。だが、突如と現れた妹の姿を見て、思わずそうつっこみをいれてしまった。
「うふふ。魅惑の美女になってみました」
エレオノーラは一つにまとめていた髪をおろした。その髪はふわふわとゆるやかなウェーブを保っていたため、それをゆるくハーフアップにした。女史イメージのきっちりとしたブラウスの足首まで隠れるスカートも脱ぎ捨て、身体の上半身のラインを強調し、下はふわっとしたスカートのドレス。
「エレン。残念ながらそれは僕の好みじゃないな」
「ドムお兄さま、誰もお兄さまの好みについては聞いておりません。これは、潜入調査ですよ」
「え、その恰好で? どこに?」
「だから、ご飯を食べるのが潜入調査なのです」
「え?」
ドミニクは左側の唇を引きつらせ、いかにも嫌だという顔をしている。「普通にご飯を食べようよ」
「私もそうしたいのはやまやまなのですが、こちらの潜入調査はショーン団長からの命令になっています」
「僕も潜入するの? 僕、広報部だよ」
「はい、もちろんです。団長命令ですから。ダニエル部長からの命令ではありませんよ。それでしたら断っても問題ありません。しかし、ショーン団長からの命令ですから、お兄さまに拒否権はございません。というわけでして、お兄様も変装してください。そして、騎士団の仕事だと思えば、自然と口調も変わるはずです」
そう言う、自称魅惑の美女の笑みはとても恐ろしかった。
エレオノーラの手によって無理やり着替えをさせられて、無理やり髪型を変えられて、無理やり外に連れ出されたドミニクは、自称、魅惑の美女と腕を組んで歩く羽目になった。
多分、ドミニクよりも上の年齢層の男性から見たら、彼女は魅惑の美女なのだろう。だが、残念なことにドミニクから見たら、魅惑の美女ではない。つまり、好みではないということ。ここは、ジルベルトの意見も聞いてみたいところではあるが、この恰好をジルベルトに見られるのもいかがなものか。
「ここ、なのか?」
建物を目の前にして、ドミニクは一度立ち止まる。隣のエレオノーラも立ち止まる。
「見るからに高そうなんだけど」
「それは建物の高さのことを言っておりますか? ちなみに、レストランは五階になります」
「いや、値段の方」
「そちらは大丈夫です。安心してください。経費で落ちますから。先ほども、あのようなご馳走を目の前にして食べられなかったではないですか。だから、です」
「潜入調査じゃないのか」
「潜入調査です。このような高級レストランでご馳走をいただくのが潜入調査です」
そこまで強調されると、潜入捜査ではないように思えてくるのは何故だろう。
「ちなみに、フレディの名前で予約してあります」
「可哀そうなフレディ。名前だけ使われるなんて」
そのレストランの中に一歩踏み入れると、自称魅惑の美女は魅惑の美女らしい振舞をし始めた。ドミニクも騎士団の仕事だと思えばいつもの広報部としての振舞が可能となる。
「こちらへどうぞ」
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そして、その二人を鋭く見つめる視線があった。
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