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【第二部】堅物騎士団長と新婚の変装令嬢は今日もその役を演じます
10.視察です
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バーデールの三日目の朝。王都周辺の視察だ。クラレンスには子供が三人いる。それもあってか、子供のための施設の視察が多い。
今日は、東の外れにある子供の遊び場の視察だった。
屋外の施設。木で作られたアスレチック。昇ったり、滑ったり、ぶら下がったり。子供が子供のうちにつけておくべき必要な能力を、この遊びを通して鍛えることができる。
これは面白い、とジルベルトは思った。子供の頃からこうやって自然と身体を鍛えることは、将来の騎士を育てることにつながるのではないか、と。さて、これをどのようにして自国へ広めるか。
自分の三歩前を歩くクラレンスとエレオノーラを見つめながら、そんなことを考えていた。
クラレンスは屋外で記念樹の植林をしていた。隣国の国王がわざわざそれをすることに意味があるらしい。何しろ、三人の子の父親ということと、子煩悩ということで、近隣諸国からもそれらに関しては評判になっている。いまだに、女性が子供と関わるよりも男性が子供と関わることがまだ少ないこの国では、隣国の国王の子供との関わり方というのは興味をそそられる内容らしい。また、それを手本にしたいという気持ちもあるらしい。
植樹が終わればその施設を見回る。どう見てもサクラだと思われるような子供たちが、奇声というか雄たけびというかをあげながら遊んでいる。その子と一緒にいる親たちにクラレンスは声をかけることが任務の目的の一つでもあった。
そしてすかさずそれを通訳するのが、エレオノーラの仕事だった。
お子さんは何人ですか? お名前は?
そう言った些細な声掛けであるのに、声をかけられた者は嬉しそうに答えてくれる。
ジルベルトも護衛をしながら、いつかは自分もエレオノーラとの間に子供を授かったら、彼女はこのような温かい顔を子供にも向けるのだろうか、とか。彼の妄想は止まることをしらないらしい。
他の親子を通して、いつか近い自分たちの未来をみていた。護衛の最中にも関わらず、なぜか心が穏やかになるのはなぜなのか。
そこに、ヨタヨタと歩くことを覚えたばかりの子供が、不安定に歩いていた。子供というのは、見るからにバランスが悪く、見ている方が冷や冷やとしてしまう。そのバランスの悪い子は、クラレンスとエレオノーラの方に近づいていき、そして見事にこけた。こけた先にはエレオノーラの足。それにヒシッとしがみついている。
彼女は膝を曲げて、その子と視線を合わせた。
「抱いてあげなさい」とクラレンスから声が降ってきた。驚いてクラレンスを見上げ、そしてその子を見ると、ニコッと笑ってくれた。
エレオノーラは恐る恐る手を伸ばして、その子を抱き上げた。
「子供というのは、その相手が自分にとって敵であるかそうでないかを見分ける力があるらしい。この子が君に近づいたということは、この子にとって君が敵ではないと認識されたからだ」
クラレンスがエレオノーラの抱いた子の頭を撫でると、歓声が上がった。
「おうさまー。ぼくもー」
とか言い出す子供たちも現れ、クラレンスの周辺の者は冷や冷やしたが、当の本人はまったく気にしていないらしい。
エレオノーラは抱いている子供を母親に返した。母親は大変恐縮していたが、「可愛らしいお子さんですね」とバーデールの言葉で声をかけると、その母親は笑顔で応えてくれた。
どうやら母親という者は、自分が褒められるよりも子供が褒められた方が嬉しいらしい。
いつかそんな気持ちが自分にもわかる日がくるのだろうか、と後ろにいるジルベルトに視線を向けたかったが、それはこらえた。自分は今、ジルベルトの妻ではなく、ただの通訳のセレナなのだから。
案の定、帰りの馬車ではドミニクが深いため息をついた。
「まったく、子供を抱き上げた時は冷や冷やしたよ」
「ごめんなさい」
「まあ。陛下からの指示だっていうからよかったけど。ああいう勝手なことをされると、護衛している側も対応に困るから、控えて欲しいね」
この馬車にはエレオノーラとドミニクの二人きり。
「そういえば。ジルさんの顔を見たかい?」
エレオノーラの兄たちは、ジルベルトのことをジルさんと呼ぶようになっていた。それはジルベルトからの頼みでもあった。ダニエルなんかは、恐れ多いとか言っていたが、義理の兄弟になったのだから、というジルベルトからの申し出によるものである。
変な感じがするが、ジルベルトがこのドミニクたちの義理の弟になるわけだ。とくにフレディは、こんな大きな弟は可愛くない、とか言って眼鏡を押し上げていた。それに対して真面目に「すまない」と謝っていたジルベルトの姿を思い出すと、今でも笑いがこみあげてくる。
「ジルさんさ。絶対今日の視察を通して、エレンとの子供について考えているよね」
「そう、ですかね?」
「間違いないよ。まあ、結婚しているんだから子供についてもこっちからとやかく言うことはできないと思っているんだけど」
「けど?」
「騎士団も人手不足なんだよね」
「そうなんですか?」
「そうそう。特に第零なんて、特殊過ぎて人がいない」
「それは、そうですね」
「だからさ。今、エレンに抜けられると、非常に困るんだよね」
「はい」
「兄さんがさ、ウェンディとの結婚をためらっている原因の一つだよね」
「え。そうなんですか?」
「そうだよ。特に女性騎士は貴重だからね。結婚しても続けている人なんて、ほんの一握り。その一握りも、子供を授かったらやめてしまうからね。まあ、騎士の代わりはいても母親の代わりはいないからね。だけど、その騎士の代わりがいないっていうのが問題なんだよね」
ドミニクは腕を組んだ。
「広報部として騎士団の祝い事とかも扱っているけど。やっぱり、おめでたい話はおめでとうって心から言いたいね」
「そうですね」
ドミニクの話を聞いてエレオノーラは考えてしまった。ジルベルトとの間に子供を授かったら、自分は騎士団を辞めなければならないだろうか。また、難しい問題が浮上したと思うエレオノーラだった。
今日は、東の外れにある子供の遊び場の視察だった。
屋外の施設。木で作られたアスレチック。昇ったり、滑ったり、ぶら下がったり。子供が子供のうちにつけておくべき必要な能力を、この遊びを通して鍛えることができる。
これは面白い、とジルベルトは思った。子供の頃からこうやって自然と身体を鍛えることは、将来の騎士を育てることにつながるのではないか、と。さて、これをどのようにして自国へ広めるか。
自分の三歩前を歩くクラレンスとエレオノーラを見つめながら、そんなことを考えていた。
クラレンスは屋外で記念樹の植林をしていた。隣国の国王がわざわざそれをすることに意味があるらしい。何しろ、三人の子の父親ということと、子煩悩ということで、近隣諸国からもそれらに関しては評判になっている。いまだに、女性が子供と関わるよりも男性が子供と関わることがまだ少ないこの国では、隣国の国王の子供との関わり方というのは興味をそそられる内容らしい。また、それを手本にしたいという気持ちもあるらしい。
植樹が終わればその施設を見回る。どう見てもサクラだと思われるような子供たちが、奇声というか雄たけびというかをあげながら遊んでいる。その子と一緒にいる親たちにクラレンスは声をかけることが任務の目的の一つでもあった。
そしてすかさずそれを通訳するのが、エレオノーラの仕事だった。
お子さんは何人ですか? お名前は?
そう言った些細な声掛けであるのに、声をかけられた者は嬉しそうに答えてくれる。
ジルベルトも護衛をしながら、いつかは自分もエレオノーラとの間に子供を授かったら、彼女はこのような温かい顔を子供にも向けるのだろうか、とか。彼の妄想は止まることをしらないらしい。
他の親子を通して、いつか近い自分たちの未来をみていた。護衛の最中にも関わらず、なぜか心が穏やかになるのはなぜなのか。
そこに、ヨタヨタと歩くことを覚えたばかりの子供が、不安定に歩いていた。子供というのは、見るからにバランスが悪く、見ている方が冷や冷やとしてしまう。そのバランスの悪い子は、クラレンスとエレオノーラの方に近づいていき、そして見事にこけた。こけた先にはエレオノーラの足。それにヒシッとしがみついている。
彼女は膝を曲げて、その子と視線を合わせた。
「抱いてあげなさい」とクラレンスから声が降ってきた。驚いてクラレンスを見上げ、そしてその子を見ると、ニコッと笑ってくれた。
エレオノーラは恐る恐る手を伸ばして、その子を抱き上げた。
「子供というのは、その相手が自分にとって敵であるかそうでないかを見分ける力があるらしい。この子が君に近づいたということは、この子にとって君が敵ではないと認識されたからだ」
クラレンスがエレオノーラの抱いた子の頭を撫でると、歓声が上がった。
「おうさまー。ぼくもー」
とか言い出す子供たちも現れ、クラレンスの周辺の者は冷や冷やしたが、当の本人はまったく気にしていないらしい。
エレオノーラは抱いている子供を母親に返した。母親は大変恐縮していたが、「可愛らしいお子さんですね」とバーデールの言葉で声をかけると、その母親は笑顔で応えてくれた。
どうやら母親という者は、自分が褒められるよりも子供が褒められた方が嬉しいらしい。
いつかそんな気持ちが自分にもわかる日がくるのだろうか、と後ろにいるジルベルトに視線を向けたかったが、それはこらえた。自分は今、ジルベルトの妻ではなく、ただの通訳のセレナなのだから。
案の定、帰りの馬車ではドミニクが深いため息をついた。
「まったく、子供を抱き上げた時は冷や冷やしたよ」
「ごめんなさい」
「まあ。陛下からの指示だっていうからよかったけど。ああいう勝手なことをされると、護衛している側も対応に困るから、控えて欲しいね」
この馬車にはエレオノーラとドミニクの二人きり。
「そういえば。ジルさんの顔を見たかい?」
エレオノーラの兄たちは、ジルベルトのことをジルさんと呼ぶようになっていた。それはジルベルトからの頼みでもあった。ダニエルなんかは、恐れ多いとか言っていたが、義理の兄弟になったのだから、というジルベルトからの申し出によるものである。
変な感じがするが、ジルベルトがこのドミニクたちの義理の弟になるわけだ。とくにフレディは、こんな大きな弟は可愛くない、とか言って眼鏡を押し上げていた。それに対して真面目に「すまない」と謝っていたジルベルトの姿を思い出すと、今でも笑いがこみあげてくる。
「ジルさんさ。絶対今日の視察を通して、エレンとの子供について考えているよね」
「そう、ですかね?」
「間違いないよ。まあ、結婚しているんだから子供についてもこっちからとやかく言うことはできないと思っているんだけど」
「けど?」
「騎士団も人手不足なんだよね」
「そうなんですか?」
「そうそう。特に第零なんて、特殊過ぎて人がいない」
「それは、そうですね」
「だからさ。今、エレンに抜けられると、非常に困るんだよね」
「はい」
「兄さんがさ、ウェンディとの結婚をためらっている原因の一つだよね」
「え。そうなんですか?」
「そうだよ。特に女性騎士は貴重だからね。結婚しても続けている人なんて、ほんの一握り。その一握りも、子供を授かったらやめてしまうからね。まあ、騎士の代わりはいても母親の代わりはいないからね。だけど、その騎士の代わりがいないっていうのが問題なんだよね」
ドミニクは腕を組んだ。
「広報部として騎士団の祝い事とかも扱っているけど。やっぱり、おめでたい話はおめでとうって心から言いたいね」
「そうですね」
ドミニクの話を聞いてエレオノーラは考えてしまった。ジルベルトとの間に子供を授かったら、自分は騎士団を辞めなければならないだろうか。また、難しい問題が浮上したと思うエレオノーラだった。
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