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【第二部】堅物騎士団長と新婚の変装令嬢は今日もその役を演じます
14.捕らわれました
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エレオノーラが目的の行為を終え、会場へと戻ろうとしたときに「お嬢さん」と声をかけられた。まさか、この魅惑の美女でお嬢さんと声をかけられるとは思っていなかったため、無視していたら、「お嬢さん、お待ちください」と追いかけられてきた。
これは、遥かなる昔の記憶にある歌を思い起こさせるような成り行きであるが、別にネックレスを落としたわけではない。だからといって、これ以上無視するのも気が引ける。エレオノーラは立ち止まり、はい、と振り返った。
見事、みぞおちに一発、いれられた。
マジか。レディになんてことするんだよ、という心の中の声は、また遥かなる記憶によるものだ。
エレオノーラは意識を失った。ふりをした。
というのも、リガウン侯爵の元で修行に励んでいたエレオノーラは、前回のグリフィン公爵検挙の潜入調査時よりも、腹筋が鍛えられている。ダニエルが「腹筋が割れている」と言ったのも頷ける鍛えられ具合。みぞおちに一発いれられたくらいでは、びくともしない彼女の腹筋。一瞬、腹筋の硬さがばれたかな、と思ったエレオノーラではあるが、気を失ってくれたことに相手は満足したらしい。うん、気を失ったふりだから。
気を失った女性をどのように運ぶのかを気になるところであったが、さすがに肩に担いで運ばれるようなことはしなかった。それではいかにも人さらいだ。誰がどう見ても。
だから、横抱きのいわゆるお姫様抱っこというやつでどこかへと運ばれて行った。これなら、体調を崩したレディを介抱している紳士に見えるのだろう。どんどんと人目のつかない場所へと連れていかれる。そして、とある部屋へと入る。ちょっと埃っぽい。
「はい、マリアちゃん。お友達連れてきたよ」
どうやらその部屋には先客がいたようだ。マリアというドレス姿の女性は、両手両足をがっちりと縄で結ばれている。その彼女の隣に、エレオノーラも寝かせられた。そしてすかさず両足を縄で縛られ、両手も拘束された。ただ、この男が失敗したのはエレオノーラの両手を前で結んでしまったことが。仰向けに寝かせたから、仕方ないといったら仕方ないのだが。
「そろそろフレディが来るだろうから、それまで大人しく待っていてね。マリアちゃん」
エレオノーラを連れてきた男が、一度、部屋を出ていく。ドアがパタンとしまった。
エレオノーラはもぞもぞと動いた。
「気が付きましたか?」
声をかけられた。その声は凛としている。仰向けの姿勢から、横向きになった。声がした方に顔を向ける。
「あなたも、フレディに騙されてきたの?」
「フレディ?」
その名をエレオノーラは呟いた。
「あなた。あのときのフレディの食事の相手ね? 仕事仲間って言っていたけれど、違うじゃないの」
「あの」
「何よ」
「大変申し訳ないのですが、何か誤解をなさっているようです。そもそも、私はフレディという方に心当たりがございません。心当たりがあるとしましたら、私の兄と同じ名前ということくらいです」
「え? じゃあ、あなた。フレディの妹なの?」
「ですが、兄のフレディは隣国のドラギラにおります。私も、ドラギラから仕事でこちらにきておりますので」
「え、そうなの?」
わからないわ、というようにマリアは頭を振った。そして思い出したかのように「あなた。バーデールの言葉が上手ね」
「ええ、仕事と言いましても。通訳としてきておりましたから」
「そうなの。あ、ごめんなさい、私。マリアです」
「ご丁寧にありがとうございます。どうか私のことはレオンとお呼びください」
レオン、とマリアは口の中で呟いた。
「さて、マリアさん。この現状を少しでもいい方向にもっていきたいため、少し私の言う通りにしていただいてもよろしいでしょうか?」
「え、ええ」
見るからにレオンと名乗った女性は貴族様だと思う。それでもこの状況で泣かず、叫ばず、冷静に現状を見据えているところが、少し普通のお嬢様とは違うらしい。
「よいしょ」
両足を縛られているエレオノーラはヘッドスプリングで立ち上がった。その軽い身のこなしに、マリアもポカンと口を開けてしまう。それから、エレオノーラは歯を使って手を結んでいた縄を解いた。相手も油断していたのだろう。もしくは、手首に痕を残したくないという心遣いか。思ったよりも、縛り方は緩かった。手が自由になれば足の縄を解くのは簡単だ。そして、マリアのそれにも手をのばし、四肢を自由にする。
「マリアさん。相手は三人で間違いないですか? 先ほどの男性と、そのフレディという男性と、もう一人」
「ええ。もう一人は髭面だったと思う」
「では。その三人が来るまでしばらく待ちましょう。手は、背中に回して。足首はドレスの裾で隠してください」
そして膝を抱えた良い子のお座りの手は後ろバージョンの姿勢をとる。
「え、でも。今、逃げた方がいいのでは?」
「そうしたいのはやまやまですが。私たちが逃げたとしても、彼らを捕まえなければ、また新たな犠牲者が出てしまいます」
犠牲者、とマリアは小さく呟く。「この後、私はどうされる予定だったのでしょう?」
うーん、とエレオノーラは考えてから。
「まあ、一般的な話になりますが。娼館に売られますね。しかも売られる前に薬漬けにされるのがオチかと」
「なんで、私が?」
マリアは目を見開いた。驚きを隠せない様子。
「たまたまですよ。見目がよくて、それなりに遊んでそうで」
マリアは顔を伏せた。
エレオノーラは耳を澄ませた。
足音が三種類。カツカツ、コツコツ、コッコッ。どうやら三人の人物がこちらに向かってきているらしい。
「マリアさん、そのまま顔を伏せていてください。私が、合図をしたらそのまま立ち上がって入り口に向かって走って逃げてください」
ギギーと軋んだ音を立てて、ドアが開いた。
「マリー、待たせて悪かったね」
右手に何かを持ったフレドリックが、後ろに二人の男を従えて姿を現した。
これは、遥かなる昔の記憶にある歌を思い起こさせるような成り行きであるが、別にネックレスを落としたわけではない。だからといって、これ以上無視するのも気が引ける。エレオノーラは立ち止まり、はい、と振り返った。
見事、みぞおちに一発、いれられた。
マジか。レディになんてことするんだよ、という心の中の声は、また遥かなる記憶によるものだ。
エレオノーラは意識を失った。ふりをした。
というのも、リガウン侯爵の元で修行に励んでいたエレオノーラは、前回のグリフィン公爵検挙の潜入調査時よりも、腹筋が鍛えられている。ダニエルが「腹筋が割れている」と言ったのも頷ける鍛えられ具合。みぞおちに一発いれられたくらいでは、びくともしない彼女の腹筋。一瞬、腹筋の硬さがばれたかな、と思ったエレオノーラではあるが、気を失ってくれたことに相手は満足したらしい。うん、気を失ったふりだから。
気を失った女性をどのように運ぶのかを気になるところであったが、さすがに肩に担いで運ばれるようなことはしなかった。それではいかにも人さらいだ。誰がどう見ても。
だから、横抱きのいわゆるお姫様抱っこというやつでどこかへと運ばれて行った。これなら、体調を崩したレディを介抱している紳士に見えるのだろう。どんどんと人目のつかない場所へと連れていかれる。そして、とある部屋へと入る。ちょっと埃っぽい。
「はい、マリアちゃん。お友達連れてきたよ」
どうやらその部屋には先客がいたようだ。マリアというドレス姿の女性は、両手両足をがっちりと縄で結ばれている。その彼女の隣に、エレオノーラも寝かせられた。そしてすかさず両足を縄で縛られ、両手も拘束された。ただ、この男が失敗したのはエレオノーラの両手を前で結んでしまったことが。仰向けに寝かせたから、仕方ないといったら仕方ないのだが。
「そろそろフレディが来るだろうから、それまで大人しく待っていてね。マリアちゃん」
エレオノーラを連れてきた男が、一度、部屋を出ていく。ドアがパタンとしまった。
エレオノーラはもぞもぞと動いた。
「気が付きましたか?」
声をかけられた。その声は凛としている。仰向けの姿勢から、横向きになった。声がした方に顔を向ける。
「あなたも、フレディに騙されてきたの?」
「フレディ?」
その名をエレオノーラは呟いた。
「あなた。あのときのフレディの食事の相手ね? 仕事仲間って言っていたけれど、違うじゃないの」
「あの」
「何よ」
「大変申し訳ないのですが、何か誤解をなさっているようです。そもそも、私はフレディという方に心当たりがございません。心当たりがあるとしましたら、私の兄と同じ名前ということくらいです」
「え? じゃあ、あなた。フレディの妹なの?」
「ですが、兄のフレディは隣国のドラギラにおります。私も、ドラギラから仕事でこちらにきておりますので」
「え、そうなの?」
わからないわ、というようにマリアは頭を振った。そして思い出したかのように「あなた。バーデールの言葉が上手ね」
「ええ、仕事と言いましても。通訳としてきておりましたから」
「そうなの。あ、ごめんなさい、私。マリアです」
「ご丁寧にありがとうございます。どうか私のことはレオンとお呼びください」
レオン、とマリアは口の中で呟いた。
「さて、マリアさん。この現状を少しでもいい方向にもっていきたいため、少し私の言う通りにしていただいてもよろしいでしょうか?」
「え、ええ」
見るからにレオンと名乗った女性は貴族様だと思う。それでもこの状況で泣かず、叫ばず、冷静に現状を見据えているところが、少し普通のお嬢様とは違うらしい。
「よいしょ」
両足を縛られているエレオノーラはヘッドスプリングで立ち上がった。その軽い身のこなしに、マリアもポカンと口を開けてしまう。それから、エレオノーラは歯を使って手を結んでいた縄を解いた。相手も油断していたのだろう。もしくは、手首に痕を残したくないという心遣いか。思ったよりも、縛り方は緩かった。手が自由になれば足の縄を解くのは簡単だ。そして、マリアのそれにも手をのばし、四肢を自由にする。
「マリアさん。相手は三人で間違いないですか? 先ほどの男性と、そのフレディという男性と、もう一人」
「ええ。もう一人は髭面だったと思う」
「では。その三人が来るまでしばらく待ちましょう。手は、背中に回して。足首はドレスの裾で隠してください」
そして膝を抱えた良い子のお座りの手は後ろバージョンの姿勢をとる。
「え、でも。今、逃げた方がいいのでは?」
「そうしたいのはやまやまですが。私たちが逃げたとしても、彼らを捕まえなければ、また新たな犠牲者が出てしまいます」
犠牲者、とマリアは小さく呟く。「この後、私はどうされる予定だったのでしょう?」
うーん、とエレオノーラは考えてから。
「まあ、一般的な話になりますが。娼館に売られますね。しかも売られる前に薬漬けにされるのがオチかと」
「なんで、私が?」
マリアは目を見開いた。驚きを隠せない様子。
「たまたまですよ。見目がよくて、それなりに遊んでそうで」
マリアは顔を伏せた。
エレオノーラは耳を澄ませた。
足音が三種類。カツカツ、コツコツ、コッコッ。どうやら三人の人物がこちらに向かってきているらしい。
「マリアさん、そのまま顔を伏せていてください。私が、合図をしたらそのまま立ち上がって入り口に向かって走って逃げてください」
ギギーと軋んだ音を立てて、ドアが開いた。
「マリー、待たせて悪かったね」
右手に何かを持ったフレドリックが、後ろに二人の男を従えて姿を現した。
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