堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます

澤谷弥(さわたに わたる)

文字の大きさ
46 / 67
【第二部】堅物騎士団長と新婚の変装令嬢は今日もその役を演じます

15.任務完了です

しおりを挟む
 コツコツという足音が、二人に近づく。
「ところで」
 フレドリックが口を開いた。
「こっちの女はどうしたんだ?」

 フレドリックが言うこっちの女とは間違いなくエレオノーラのことなのだが。

 後ろの男二人は顔を見合わせ。
「フレディさんが以前レストランで会っていた女ですよ? この女もそうなんですよね?」

「この女。私は知らないな。だが」
 フレドリックは床に右ひざをついて、エレオノーラの顔を覗き込むために、彼女の顎に手をかけた。「上玉だな」

「お褒めにいただきまして光栄です」
 エレオノーラは顎に伸ばされていた手をつかみ、フレドリックの顔面めがけて頭突きをした。突然の出来事に、フレドリックは避けることもできず、見事、顔面で彼女の頭を受け止めてしまった。間違いなく痛かったのだろう。彼は顔を両手で押さえる。

「この女。取り押さえろ」
 フレドリックが顔を押さえていうものだから、威厳もへったくれもない。後ろに控えていた男どもがエレオノーラに向かってくる。その前に。
 エレオノーラはドレスから伸びる長い足を振り回し、フレドリックの側頭めがけてその蹴りを入れた。ドレスの裾はふわりと舞い上がる。タイトなスカートよりも動きやすい。
 フレドリックは避けることもできず、吹っ飛んだ。エレオノーラの蹴りも威力が増している。それもこれもリガウン侯爵のおかげ。

「女!」
 二人がやってくる。

「今のうち、逃げて」
 エレオノーラが視線を送り、マリアに向かって言葉を放つ。彼女はすっと立ち上がり、出入り口目掛けて走り出す。男が一人、それに気付き、エレオノーラからマリアへと方向転換するが。
「あなたの相手は私ですよ」
 楽しそうにエレオノーラは笑い、それの背中に蹴りを入れた。スカートの裾に隠れて、足の軌道が見えないからか、相手からは突然足が出てきたように見える。背中を蹴られた男は、前のめりになって倒れ込む。
 残りは一人。最後の悪あがきか、エレオノーラに向かって拳を向けてきた。思っていたよりもそれが速く感じるのは、経験者か。エレオノーラは身体を低くしてそれを避け、相手の懐に入り込む。あまりパンチは得意ではないので、そのまま頭突きで相手の顎を狙う。男は顔を押さえてよろけたため、そのみぞおち向かって蹴りを繰り出す。
 三人の男が床とお友達になっていた。

「お前、何者だ」
 床から起き上がることができないフレドリックが言った。

「私? 私ですか?」
 あるときは娼館の娼婦、あるときは高級レストランの料理人。そして今回は酒場の店員でした。だけど、その正体は。
「ドラギラ国第零騎士団諜報部レオン」
 そこでドレスに手をかけると、それを脱ぎ捨てた。下に着ていたのは騎士団の服。ちょっとやってみたかった早着替え。そして、それ用に準備していた早脱ぎ用のドレス。この辺の知識も古の記憶から。

「ドラギラ国の騎士団だと?」

「はい、あなたを拘束します。フレドリック・ホワイト子爵」
 廊下からバタバタと複数の足音が聞こえてきた。ドアは乱暴に開く。
 バーデールの騎士たちだった。

「なぜ、こんなに? 今日は王宮でパーティがあるから、警備が薄れると思っていたのだが」

「ええ。そう思わせるための作戦ですからね」
 バーデールの騎士団たちの後ろから姿を現したのはドラギラ国の騎士団の服に身を包むドミニク。腕を組んで、そう言った。それからジルベルト。ジルベルトもどこかで着替えたのだろう。髪型もいつもの通りだ。

 床に這いつくばっていた男三人は、バーデールの騎士たちによって、引きずられるようにして連行されていった。引きずられていったのは、エレオノーラの蹴りが効いているのか歩くことができないからだ。

「ご協力、感謝いたします」

 バーデールの騎士の一人が、ジルベルトに向かって礼を言う。着ている騎士服で彼が一番偉いと判断したのだろう。その流れでいくと、バーデールのその騎士も、多分、この中では一番偉い人。

「無事、任務完了ですね」
 エレオノーラは、ほっと顔を緩める。

「任務完了なのはいいんだけどさ。ちょっと聞きたいことがあるんだよね」
 腕を組んで、ドミニクが威圧的にエレオノーラを見下ろした。
「あのさ、さっきの男。僕に似てなくない?」

「さすがドミニクです。お気付きになりましたね?」

「気付くも何も。見ればわかるよね? どういうことか説明してもらおうか?」
 ドミニクが一歩エレオノーラに詰め寄る。

「見ればわかるのであれば、説明は不要ですよね?」
 エレオノーラは一歩下がる。そして顔を背けた。

「見ればわかっても、説明して欲しい時もあるんだよ?」
 ドミニクが一歩詰め寄る。エレオノーラは一歩下がろうとしたが、背中に当たる何かを感じた。まさかのジルベルト。

「あの、ジル様。そこをどいていただけると助かるのですが」

「私も状況がわからないので、説明を聞きたいのだが」

 ドミニクから逃げられても、ジルベルトからは逃げられない。と、本能的に察した。

「わかりました」
 エレオノーラは観念して、視線を足元に向けた。
「ですが」
 思い出したかのように顔を上げる。
「マリアさんはご無事でしょうか? 先に彼女の無事を確認させてください」
 時間稼ぎ、ともいう。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

崖っぷち令嬢は冷血皇帝のお世話係〜侍女のはずが皇帝妃になるみたいです〜

束原ミヤコ
恋愛
ティディス・クリスティスは、没落寸前の貧乏な伯爵家の令嬢である。 家のために王宮で働く侍女に仕官したは良いけれど、緊張のせいでまともに話せず、面接で落とされそうになってしまう。 「家族のため、なんでもするからどうか働かせてください」と泣きついて、手に入れた仕事は――冷血皇帝と巷で噂されている、冷酷冷血名前を呼んだだけで子供が泣くと言われているレイシールド・ガルディアス皇帝陛下のお世話係だった。 皇帝レイシールドは気難しく、人を傍に置きたがらない。 今まで何人もの侍女が、レイシールドが恐ろしくて泣きながら辞めていったのだという。 ティディスは決意する。なんとしてでも、お仕事をやりとげて、没落から家を救わなければ……! 心根の優しいお世話係の令嬢と、無口で不器用な皇帝陛下の話です。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。 そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。 「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」 こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。 けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。 「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」 夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。 「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」 彼女には、まったく通用しなかった。 「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」 「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」 「い、いや。そうではなく……」 呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。 ──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ! と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。 ※他サイトにも掲載中。

【完結】異世界転移したら騎士団長と相思相愛になりました〜私の恋を父と兄が邪魔してくる〜

伽羅
恋愛
愛莉鈴(アリス)は幼馴染の健斗に片想いをしている。 ある朝、通学中の事故で道が塞がれた。 健斗はサボる口実が出来たと言って愛莉鈴を先に行かせる。 事故車で塞がれた道を電柱と塀の隙間から抜けようとすると妙な違和感が…。 気付いたら、まったく別の世界に佇んでいた。 そんな愛莉鈴を救ってくれた騎士団長を徐々に好きになっていくが、彼には想い人がいた。 やがて愛莉鈴には重大な秘密が判明して…。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

望まぬ結婚をさせられた私のもとに、死んだはずの護衛騎士が帰ってきました~不遇令嬢が世界一幸せな花嫁になるまで

越智屋ノマ
恋愛
「君を愛することはない」で始まった不遇な結婚――。 国王の命令でクラーヴァル公爵家へと嫁いだ伯爵令嬢ヴィオラ。しかし夫のルシウスに愛されることはなく、毎日つらい仕打ちを受けていた。 孤独に耐えるヴィオラにとって唯一の救いは、護衛騎士エデン・アーヴィスと過ごした日々の思い出だった。エデンは強くて誠実で、いつもヴィオラを守ってくれた……でも、彼はもういない。この国を襲った『災禍の竜』と相打ちになって、3年前に戦死してしまったのだから。 ある日、参加した夜会の席でヴィオラは窮地に立たされる。その夜会は夫の愛人が主催するもので、夫と結託してヴィオラを陥れようとしていたのだ。誰に救いを求めることもできず、絶体絶命の彼女を救ったのは――? (……私の体が、勝手に動いている!?) 「地獄で悔いろ、下郎が。このエデン・アーヴィスの目の黒いうちは、ヴィオラ様に指一本触れさせはしない!」 死んだはずのエデンの魂が、ヴィオラの体に乗り移っていた!?  ――これは、望まぬ結婚をさせられた伯爵令嬢ヴィオラと、死んだはずの護衛騎士エデンのふしぎな恋の物語。理不尽な夫になんて、もう絶対に負けません!!

【完結】死の4番隊隊長の花嫁候補に選ばれました~鈍感女は溺愛になかなか気付かない~

白井ライス
恋愛
時は血で血を洗う戦乱の世の中。 国の戦闘部隊“黒炎の龍”に入隊が叶わなかった主人公アイリーン・シュバイツァー。 幼馴染みで喧嘩仲間でもあったショーン・マクレイリーがかの有名な特効部隊でもある4番隊隊長に就任したことを知る。 いよいよ、隣国との戦争が間近に迫ったある日、アイリーンはショーンから決闘を申し込まれる。 これは脳筋女と恋に不器用な魔術師が結ばれるお話。

処理中です...