堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます

澤谷弥(さわたに わたる)

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【第三部】堅物騎士団長に溺愛されている変装令嬢は今日もその役を演じます

13.子どもの時間です(3)

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 なんでここにいるんだっけ。とエレオノーラは思っていた。
 演劇部の卒業公演は無事終了、満員御礼の大盛況。短期留学生であるエレンは、そこで演劇部としての活動は終了となった。ときどき遊びに行く程度。ジェイミは役者ではなく、そのまま舞台監督としての才能を発揮している。クリスのサポートをしながら演劇部全体を取りまとめているらしい。

 それにしても、とエレオノーラはお茶を一口飲みながら思った。なぜ、彼が目の前にいる? ニッコリと笑顔を浮かべているその表情は、何かしら企んでいるようで怖い。

「あれ? そのお茶はエレンさんの口に合わなかったかな」

「いえ、とても美味しいです」

「そう。なら良かった」

 エレオノーラの向かい側に足を組んで優雅に座っているのは、間違いなく生徒会長のアレックス。まあ、ここが生徒会室であるため、それは仕方ないのだが。

「それで、私はなぜここにいるのでしょう?」
 残念ながらドロシーはいない。今、もっとも警戒すべき相手であるとずっと自分の中で思っていたアレックスと二人きりになっている。

「私が呼び出したから、かな?」

「え、ええ。まあ、そうですね。それで、どういったご用件でしょうか」

「君と二人きりで話がしたかった、というのではダメかな?」

 甘い。この男、甘すぎる。
 考えてみたら、騎士団連中に囲まれていたから、このようなタイプの男性には慣れていない。

「特に私は話すことが何もないのですが。それに会長には婚約者がいらっしゃると伺っておりますので、今、このように私と二人きりになるのはあまりよろしくないのかと思いますが?」

「大丈夫。彼女には言ってあるから」

 言ってある? どういう意味だ?

「君はバーデールでもいろいろ活躍しているみたいだね」

 だから、その笑顔が怖い。その怖い笑顔を浮かべながら、彼は懐から一枚の紙切れを取り出した。

「エレン・フランシス。バーデール王立学院騎士科の第二学年。ドラギラ騎士団との協力により、ホワイト子爵の悪事を暴き身柄拘束へと貢献する」
 もちろんアレックスは何かの報告書を読んでいるわけだが、それを聞いたときにエレオノーラは吹き出しそうになった。なんだ、その情報は。
「それが縁で、この学院に留学に来たみたいだな。だから、滞在先もあのリガウン侯爵家なのだろう?」

「そーですねー」
 返事をするこちらは、まるで棒読み。

「そんな君を見込んで一つ頼みたいことがある」
 悪巧みをしていたかのような彼の表情は一変した。

「卒業パーティで、私の婚約者であるベルニス・ノアイユの護衛についてくれないだろうか」

 ベルニス・ノアイユ。ノアイユ侯爵家の長女。王立学院第一学年。アレックスとの婚約が決まったのは、今から約一年前。他にも数人候補者はいたようではあるが、家柄、容姿、頭脳とこの三点セットを満たしたベルニスがなんとかアレックスの婚約者という座に輝いたらしい。

「ええ、私でよろしければ」
 護衛という単語がエレオノーラの思考をクリアにさせた。

「君ならそう言ってくれると思っていたよ。生徒会に引き込んだうえで彼女の護衛をさりげなく頼もうかと思ったけれど、その生徒会を断られたからね。でも、彼女の護衛という役だけであれば、君なら引き受けてくれると思った」

「ただ、そのベルニスさんの護衛はハリーさんとかではダメなのでしょうか。ハリーさんは生徒会役員のようですし。しかも騎士団への入団が決まっているとお聞きしております」
 ダニエル情報による。

「うん、そうだね。生徒会役員の中ではハリーが適任だ。だが、ベルニスがそれを望んでいない」

「どうして?」

「彼女は男性の護衛は嫌だと言っている。まあ、あれだ。男性が苦手なのだ」
 困ったものだね、とアレックスは肩をすくめた。
 きっと蝶よ花よと屋敷の中で大事に育てられた箱入り令嬢にとって、異性というのは慣れない相手なのだろう。

「まあ、護衛と言っても何もそんなに重々しいらしいものではない。ただ、卒業パーティのときに彼女の側にいてくれればいい。私も、常に彼女の側にいられるわけではないから」

「ちなみに、ベルニスさんの護衛というのであれば、男装も可能ですが」

「ああ、そうだった。君のあの男役は見事だった。だが、ベルニスはそれを望んでいないので、普通でお願いしたい」

 卒業パーティで普通、ということはドレス姿をご所望か。

「ちなみに、なぜベルニスさんは護衛を必要とされているのでしょうか」

「そうだね。護衛を君に頼む以上、理由は教えなければならないね」
 そしてアレックスはもう一枚、懐から紙切れを出した。綺麗に四つに折ってある紙を丁寧に開く。そして、それをエレオノーラに手渡した。

「私が見ても?」
 受け取りながら閲覧の許可を求める。アレックスはもちろん、と頷いた。
 彼女は黙ってそれを受け取り、黙ってそれの文字を追う。ベルニスとアレックスとの婚約解消を迫る内容。それをしなければ、何かしら報復をする、と。

「脅迫状、ですね」

「そうだね。どうやら私と彼女の婚約を良く思っていない人たちがいるらしい」

「もう少し会長とベルニスさんのお話をうかがってもよろしいでしょうか?」

「もう少し、というのは?」

「そうですね。お二人の馴れ初めです」
 そこでエレオノーラはあざとく笑った。
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