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【第三部】堅物騎士団長に溺愛されている変装令嬢は今日もその役を演じます
15.卒業パーティです
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「エレンをこのようにエスコートできるなんて、夢のようだよ」
「今日はお付き合いいただき、ありがとうございます、お義父さま。ですが、今日は小父さまと呼ばせていただきます」
「ああ、呼び方は大して気にしないから好きなように呼んでおくれ」
とうとうきてしまった卒業パーティの日。何も起きないわけがない卒業パーティ。
エレオノーラの隣には、ジルベルトによく似たリガウン侯爵。リガウン侯爵もまんざらではないらしい。見知った顔に出会うとエレンを自慢している。学院関係者は彼女のことを留学生であると認識しているため、リガウン侯爵もそのように振舞ってくれる。第零騎士団の任務は、家族も巻き込むようだ。
目の前に、百八十を超える身長を持つオールバックの男が現れた。間違いなく今日の警備責任者であるジルベルト。ジロリとこちらに向ける視線が怖い。ついつい組んでいる腕に力が入ってしまう。
「おいおい、ジル。いくら警備責任者だからといっても、そのような怖い顔をしていてはいけないな」
「これはこれは父上。今日は一段と楽しそうですね」
「素敵な女性をエスコートしているからね」
エレオノーラには見えない火花が見えたような気がした。
彼女はニコリと笑みを浮かべてジルベルトを見上げた。目が合った。だが、怖い。めちゃくちゃ不機嫌であることがわかる。
「エレンちゃーん」
このややこしい状況で、もっと状況をややこしくしてくれる彼女の声が聞こえた。
「エレンちゃん、かわいい」
その三歩も離れた場所から飛びついてくるのはいかがなものか。リガウン侯爵と組んでいた腕をすっとはなして、受け身の姿勢。彼女を抱きとめる。
「ドロシーさん。今日も他の方がたくさんいらっしゃいますから、あまりはしゃぎ過ぎない方がよろしいのではないでしょうか」
「だって、遠くから見てもエレンちゃんが可愛かったんだもん」
「あ、ドロシーさん」
思い出したわけでもないのだが、ドロシーから離れてもらうために、思い出したように彼女の名を呟いた。
「こちら、私の滞在先のリガウン侯爵です」
「ドロシー・ラワットです。ご無沙汰しております。リガウン侯爵」
「ああ、ラワット伯の」
どうやら顔見知りだったようだ。さすがリガウン侯爵と伯爵令嬢のドロシー。横から冷たい視線を感じると思ったら、表情を崩さずにジルベルトがこちらをジロリと見ていた。そのまま彼は無言で立ち去る。
「ドロシー嬢、エレンを頼んでもいいかな?」
「もちろんです」
リガウン侯爵は見知った顔を見つけたのか、それとも友との時間を送るように気を遣ってくれたのかはわからない。
「ドロシーさんはどなたといらっしゃったのですか?」
「私? サイモンだよ。不本意ながら、婚約者なのよね」
不本意ながらと言い切れちゃうところが、二人の仲の良さの表れだと思う。
「相変わらず、君たちは仲がいいんだな」
「会長」
アレックスの隣にはベルニスがうつむき加減でいた。
「ベルニスさん」
エレオノーラが彼女の名を呼ぶと、嬉しそうに顔を上げて「エレンお姉さま」と言う。エレオノーラ的に、このベルニスの「エレンお姉さま」という響きに腰がくだけそうな気持だった。可愛い、そして嬉しい。
「エレンさん、ドロシー。悪いけれどベルニスも仲間にいれておくれ」
「はい」
エレオノーラがニコリと笑う。ベルニスはすっとアレックスから離れた。
「ベルちゃん、ベルちゃん。なんでエレンちゃんはエレンお姉さまなの? 私のこともドロシーお姉さまって呼んでもいいのよ?」
ドロシーの笑みは不敵だ。だが、ベルニスはそれに対して、あの、えっと、と言うのみだった。
「ごめん、ベルちゃん。困らせるつもりはないし、冗談だから。ちょっと、あっちの方に行きましょう」
三人は給仕から飲み物を受け取り、それに口をつけながら談笑する。アレックスが重々しくベルニスの護衛と言っていたが、結局はこうやって彼女と一緒にいるだけ。しかもドロシーも一緒にいるから、ただの歓談にも見えなくもない。ただ、顔の広いドロシーはいろんな人から呼ばれる。エレオノーラはベルニスと二人きり。そうなると彼女は頬を赤らめて俯いているだけ。
「ベルさん、もしかして疲れてしまいましたか? あちらのお部屋でお休みしましょう」
エレオノーラが柔らかく笑うと、それに安心したのか、ベルニスも頷いた。
「あの、せっかくの卒業パーティなのに、ごめんなさい」
別室のソファでゆったりと座っていると、ベルニスがそんなことを言う。
「え、っと。気にしないでください。私もあのようなところは得意ではないので」
はにかみながら言うと、ベルニスもほっと、一息つく。
「そう思っているのは私だけではないと知って、安心しました」
「会長が戻って来るまでこちらで待っていましょう」
ベルニスは「はい」と言うものの「会長」という言葉で少し顔を歪めた。
「あの、ごめんなさい」
突然、そんなことを言うベルニスにエレオノーラはぽかんと彼女を見つめるしかなかった。
「脅迫されているって、嘘なんです」
「え」
という言葉が思わず出てしまうエレオノーラ。驚く彼女の顔を見つめながらベルニスは言葉を続ける。
「私。アレックス様との婚約が決まったのですが、やはり私には荷が重いのです。ですから、脅迫されている、とアレックス様に相談しました。それでこの婚約が無くなればいいな、ってそう思ったのです」
ん、どういうことだ?
「だから、婚約破棄をしろ、って脅されているって嘘なんです。エレンお姉さまを巻き込んでしまってごめんなさい」
「えっと。つまり、今回の脅迫に関しては、ベルニスさんの自作自演だった、と?」
そのエレオノーラの言葉に、こくん、と頷く。
「そっか」
エレオノーラはちょっと脱力した。そして、うふふふと笑い出す。
「エレンお姉さま?」
「うん、安心しました。ベルニスさんが誰にも狙われていなくて」
あの重々しい作戦会議はなんだったのか。フレディが真面目腐った顔して、狙いは金だとか言っていたことを思い出す。
「では、あの脅迫状もベルニスさんが作られたものなんですか?」
「脅迫状?」
その言葉にベルニスは目を丸くした。
「いえ、私はそのようなものは作っておりません。ただ、アレックス様に『婚約解消をしろと脅されている。私たちの婚約を良く思っていない人がいるから、婚約解消を考えて欲しい』という相談をしただけです。それで今回のパーティにエレンお姉さまがお側にいてくださる、ということになりまして。それはそれで、私にとっては嬉しいことなのですが」
くすりとベルニスは笑う。どうやらエレオノーラを心酔している様子。話を聞くと、演劇部の卒業公演がきっかけらしい。
「え、では脅迫状は?」
エレオノーラがそう呟きながらベルニスの顔を見た時、休憩室の扉がゆっくりと開く音がした。
「今日はお付き合いいただき、ありがとうございます、お義父さま。ですが、今日は小父さまと呼ばせていただきます」
「ああ、呼び方は大して気にしないから好きなように呼んでおくれ」
とうとうきてしまった卒業パーティの日。何も起きないわけがない卒業パーティ。
エレオノーラの隣には、ジルベルトによく似たリガウン侯爵。リガウン侯爵もまんざらではないらしい。見知った顔に出会うとエレンを自慢している。学院関係者は彼女のことを留学生であると認識しているため、リガウン侯爵もそのように振舞ってくれる。第零騎士団の任務は、家族も巻き込むようだ。
目の前に、百八十を超える身長を持つオールバックの男が現れた。間違いなく今日の警備責任者であるジルベルト。ジロリとこちらに向ける視線が怖い。ついつい組んでいる腕に力が入ってしまう。
「おいおい、ジル。いくら警備責任者だからといっても、そのような怖い顔をしていてはいけないな」
「これはこれは父上。今日は一段と楽しそうですね」
「素敵な女性をエスコートしているからね」
エレオノーラには見えない火花が見えたような気がした。
彼女はニコリと笑みを浮かべてジルベルトを見上げた。目が合った。だが、怖い。めちゃくちゃ不機嫌であることがわかる。
「エレンちゃーん」
このややこしい状況で、もっと状況をややこしくしてくれる彼女の声が聞こえた。
「エレンちゃん、かわいい」
その三歩も離れた場所から飛びついてくるのはいかがなものか。リガウン侯爵と組んでいた腕をすっとはなして、受け身の姿勢。彼女を抱きとめる。
「ドロシーさん。今日も他の方がたくさんいらっしゃいますから、あまりはしゃぎ過ぎない方がよろしいのではないでしょうか」
「だって、遠くから見てもエレンちゃんが可愛かったんだもん」
「あ、ドロシーさん」
思い出したわけでもないのだが、ドロシーから離れてもらうために、思い出したように彼女の名を呟いた。
「こちら、私の滞在先のリガウン侯爵です」
「ドロシー・ラワットです。ご無沙汰しております。リガウン侯爵」
「ああ、ラワット伯の」
どうやら顔見知りだったようだ。さすがリガウン侯爵と伯爵令嬢のドロシー。横から冷たい視線を感じると思ったら、表情を崩さずにジルベルトがこちらをジロリと見ていた。そのまま彼は無言で立ち去る。
「ドロシー嬢、エレンを頼んでもいいかな?」
「もちろんです」
リガウン侯爵は見知った顔を見つけたのか、それとも友との時間を送るように気を遣ってくれたのかはわからない。
「ドロシーさんはどなたといらっしゃったのですか?」
「私? サイモンだよ。不本意ながら、婚約者なのよね」
不本意ながらと言い切れちゃうところが、二人の仲の良さの表れだと思う。
「相変わらず、君たちは仲がいいんだな」
「会長」
アレックスの隣にはベルニスがうつむき加減でいた。
「ベルニスさん」
エレオノーラが彼女の名を呼ぶと、嬉しそうに顔を上げて「エレンお姉さま」と言う。エレオノーラ的に、このベルニスの「エレンお姉さま」という響きに腰がくだけそうな気持だった。可愛い、そして嬉しい。
「エレンさん、ドロシー。悪いけれどベルニスも仲間にいれておくれ」
「はい」
エレオノーラがニコリと笑う。ベルニスはすっとアレックスから離れた。
「ベルちゃん、ベルちゃん。なんでエレンちゃんはエレンお姉さまなの? 私のこともドロシーお姉さまって呼んでもいいのよ?」
ドロシーの笑みは不敵だ。だが、ベルニスはそれに対して、あの、えっと、と言うのみだった。
「ごめん、ベルちゃん。困らせるつもりはないし、冗談だから。ちょっと、あっちの方に行きましょう」
三人は給仕から飲み物を受け取り、それに口をつけながら談笑する。アレックスが重々しくベルニスの護衛と言っていたが、結局はこうやって彼女と一緒にいるだけ。しかもドロシーも一緒にいるから、ただの歓談にも見えなくもない。ただ、顔の広いドロシーはいろんな人から呼ばれる。エレオノーラはベルニスと二人きり。そうなると彼女は頬を赤らめて俯いているだけ。
「ベルさん、もしかして疲れてしまいましたか? あちらのお部屋でお休みしましょう」
エレオノーラが柔らかく笑うと、それに安心したのか、ベルニスも頷いた。
「あの、せっかくの卒業パーティなのに、ごめんなさい」
別室のソファでゆったりと座っていると、ベルニスがそんなことを言う。
「え、っと。気にしないでください。私もあのようなところは得意ではないので」
はにかみながら言うと、ベルニスもほっと、一息つく。
「そう思っているのは私だけではないと知って、安心しました」
「会長が戻って来るまでこちらで待っていましょう」
ベルニスは「はい」と言うものの「会長」という言葉で少し顔を歪めた。
「あの、ごめんなさい」
突然、そんなことを言うベルニスにエレオノーラはぽかんと彼女を見つめるしかなかった。
「脅迫されているって、嘘なんです」
「え」
という言葉が思わず出てしまうエレオノーラ。驚く彼女の顔を見つめながらベルニスは言葉を続ける。
「私。アレックス様との婚約が決まったのですが、やはり私には荷が重いのです。ですから、脅迫されている、とアレックス様に相談しました。それでこの婚約が無くなればいいな、ってそう思ったのです」
ん、どういうことだ?
「だから、婚約破棄をしろ、って脅されているって嘘なんです。エレンお姉さまを巻き込んでしまってごめんなさい」
「えっと。つまり、今回の脅迫に関しては、ベルニスさんの自作自演だった、と?」
そのエレオノーラの言葉に、こくん、と頷く。
「そっか」
エレオノーラはちょっと脱力した。そして、うふふふと笑い出す。
「エレンお姉さま?」
「うん、安心しました。ベルニスさんが誰にも狙われていなくて」
あの重々しい作戦会議はなんだったのか。フレディが真面目腐った顔して、狙いは金だとか言っていたことを思い出す。
「では、あの脅迫状もベルニスさんが作られたものなんですか?」
「脅迫状?」
その言葉にベルニスは目を丸くした。
「いえ、私はそのようなものは作っておりません。ただ、アレックス様に『婚約解消をしろと脅されている。私たちの婚約を良く思っていない人がいるから、婚約解消を考えて欲しい』という相談をしただけです。それで今回のパーティにエレンお姉さまがお側にいてくださる、ということになりまして。それはそれで、私にとっては嬉しいことなのですが」
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