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【第三部】堅物騎士団長に溺愛されている変装令嬢は今日もその役を演じます
16.狙われていたようです
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休憩室に入ってきたのは、男性五人。見るからにこの学院の男子生徒ではない。
「おやおや、こんなところにいたのですね。探しましたよ、ベルニス・ノアイユ」
知ってる人? とエレオノーラが尋ねると、ベルニスは力いっぱい首を横に振る。
「そんなに怯えないでください。私たちと一緒に来てもらえれば、あなたには何もしませんから」
本当に何かが起きたパーティ。
そう思いつつも、すっとエレオノーラは立ち上がり、ベルニスを背中で隠した。
「あの、どちら様でしょうか? 彼女はあなたたちのことを知らないと言っております」
「勇ましいお友達ですね」
多分、先ほどから口を開いているこの男がこの五人のリーダーだ。そして相手が五人もいる、ということはエレオノーラにとっても分が悪い。今、一人で攻撃態勢に入ったとしても、ベルニスは必ず巻き込まれる。どの順番で攻撃を仕掛けるかということを、瞬時に脳内シミュレーションを行ったが、考え付いた四パターンとも、全てベルニスが人質になるという結論に至る。
ということは、ベルニスと一緒に彼らに捕らわれて、彼らのアジトを探った方がいいのかもしれない。何しろ今日はあれがある。
「ベルニスさんもお一人では不安でしょう。ですからお友達もご一緒にいかがですか?」
「お断りしたいところですが、そうできる雰囲気ではありませんね」
エレオノーラはそこで微苦笑する。この苦笑には、本当に卒業パーティで何かが起こってしまった、という意味も含まれている。だが、相手はそれには気付かないだろう。
「ええ。賢い女性は好きですよ」
リーダー格の男は微笑を浮かべた。
エレオノーラは首をまわして、肩越しにベルニスの様子を見る。彼女は胸の前で腕を組んで震えている。この状況で震えないご令嬢がいるとしたら、エレオノーラくらいのものだ。
この場合、彼らに素直に従うのが吉だろう。何しろ、守らなければならないベルニスがいる。彼女に危害をくわえられることは避けたいところ。
「ですが。あなたたちのような怖い顔をした方たちが、彼女のようなか弱い女性と一緒にその辺を歩いたら、警備の者に不信がられませんかね?」
「あらあら、お嬢様は少し勉強不足のようですね。このような部屋は、廊下に出ずとも外に出る道があるのですよ。ですから、あなたたちがここにいたということは好都合」
そうだったのか。事前に会場を確認しておかなかったエレオノーラの失態。いや、そうか?
むしろ「疲れたら休憩室で休むといいよ」と言っていたのは、フレディだったではないか。もしかしてこうなる流れを読んでいた、ということか。
「どうぞ、お嬢様。お手を」
そのリーダー格の男は、すっとベルニスに手を差し出した。だがベルニスは震えてばかりでその手を取ろうとはしない。その男が少しイラっとしているのを感じとる。
「そのようなことをしていただかなくても、自分で歩けますから」
エレオノーラはベルニスの隣に寄り添った。
「ふん」
男は差し出した手の行き先が見つからなくなったため、渋々と手を戻した。「私は別にどちらでもかまいませんけどね」
「ベルさん。ここは大人しく彼らの言うことを聞きましょう。私も一緒ですから、ね」
「エレンお姉さま」
エレオノーラがベルニスの肩を支えると、彼女も力強く頷いた。
二人は五人の男性に囲まれて、その部屋を後にする。そして、いつの間にか外に準備されていた馬車に乗り込む。
「こちらの言うことを聞いてくれれば、あなたたちに危害を加えるつもりはない」
目の前に座るリーダー格の男が手をもみもみとしながら、まるで値踏みをするかのようにエレオノーラたちを見ていた。ベルニスはすっかり怯えていて、エレオノーラに寄り掛かって顔を彼女の胸に預けている。エレオノーラはそっとベルニスの背中に手を回して、彼女のそれを優しく撫でている。
「美しい友情ですね。本当にいつまでも見ていたい。あなたのその強気な目、いつまで持つかな」
エレオノーラは目の前の彼をじっと見ている。目を反らすことはしない。そして、耳は外の音を聞いていた。今はどの辺だろうか。この速度の馬車がこれだけの時間を走っていたら、応援がかけつけるまでどれくらいかかるだろうか。そうやって考えていることを悟られないように、じっと彼を見ていた。
「ジルさん」
フレディはこの会場の警備責任者であるジルベルトを見つけると、そっと声をかけた。彼が声をかけてきた、ということは状況が動き出したということを、ジルベルトは悟った。少し眉と眉の間に皺を寄せる。
「エレンがさらわれました。ベルニス嬢も一緒だと思われます」
ジルベルトの眉がピクリと動いた。だが表情を崩すようなことはしない。
フレディは胸ポケットより何やら取り出した。
「フレディ殿、それは?」
ジルベルトが目を細めて尋ねる。
「エレンに発信機を持たせておきました。その信号を受信する受信機です。まあ、こちらも発信機の機能を持っていますが」
「はっしんき? じゅしんき?」
「ええ、はい。今、私の方で開発していまして。まだ試作段階ですが、今回はいい機会だと思ってエレンに持たせました。エレンの発信機の信号をこれが受信して、その発信機がどこにあるのか、というのを表示しています。逆にエレンの方にはこちらの信号を受信しているので、お互いがお互いどこにいるのかということがわかります」
「この、赤い点がそうなのか?」
「はい。つまり、彼女は今、ここより東の方向にいる、ということです」
「動いているのは?」
「まだ移動中、ということですね」
この状況をフレディは楽しんでいるようにも見える。
「私は、ダン兄に連絡をしますので」
「ああ、わかった。こちらは至急配置を変更する」
「お願いします」
フレディは頭を下げ、そのまま眼鏡をくいっと押し上げた。楽しくなってきたな、とその目は光っていた。
「おやおや、こんなところにいたのですね。探しましたよ、ベルニス・ノアイユ」
知ってる人? とエレオノーラが尋ねると、ベルニスは力いっぱい首を横に振る。
「そんなに怯えないでください。私たちと一緒に来てもらえれば、あなたには何もしませんから」
本当に何かが起きたパーティ。
そう思いつつも、すっとエレオノーラは立ち上がり、ベルニスを背中で隠した。
「あの、どちら様でしょうか? 彼女はあなたたちのことを知らないと言っております」
「勇ましいお友達ですね」
多分、先ほどから口を開いているこの男がこの五人のリーダーだ。そして相手が五人もいる、ということはエレオノーラにとっても分が悪い。今、一人で攻撃態勢に入ったとしても、ベルニスは必ず巻き込まれる。どの順番で攻撃を仕掛けるかということを、瞬時に脳内シミュレーションを行ったが、考え付いた四パターンとも、全てベルニスが人質になるという結論に至る。
ということは、ベルニスと一緒に彼らに捕らわれて、彼らのアジトを探った方がいいのかもしれない。何しろ今日はあれがある。
「ベルニスさんもお一人では不安でしょう。ですからお友達もご一緒にいかがですか?」
「お断りしたいところですが、そうできる雰囲気ではありませんね」
エレオノーラはそこで微苦笑する。この苦笑には、本当に卒業パーティで何かが起こってしまった、という意味も含まれている。だが、相手はそれには気付かないだろう。
「ええ。賢い女性は好きですよ」
リーダー格の男は微笑を浮かべた。
エレオノーラは首をまわして、肩越しにベルニスの様子を見る。彼女は胸の前で腕を組んで震えている。この状況で震えないご令嬢がいるとしたら、エレオノーラくらいのものだ。
この場合、彼らに素直に従うのが吉だろう。何しろ、守らなければならないベルニスがいる。彼女に危害をくわえられることは避けたいところ。
「ですが。あなたたちのような怖い顔をした方たちが、彼女のようなか弱い女性と一緒にその辺を歩いたら、警備の者に不信がられませんかね?」
「あらあら、お嬢様は少し勉強不足のようですね。このような部屋は、廊下に出ずとも外に出る道があるのですよ。ですから、あなたたちがここにいたということは好都合」
そうだったのか。事前に会場を確認しておかなかったエレオノーラの失態。いや、そうか?
むしろ「疲れたら休憩室で休むといいよ」と言っていたのは、フレディだったではないか。もしかしてこうなる流れを読んでいた、ということか。
「どうぞ、お嬢様。お手を」
そのリーダー格の男は、すっとベルニスに手を差し出した。だがベルニスは震えてばかりでその手を取ろうとはしない。その男が少しイラっとしているのを感じとる。
「そのようなことをしていただかなくても、自分で歩けますから」
エレオノーラはベルニスの隣に寄り添った。
「ふん」
男は差し出した手の行き先が見つからなくなったため、渋々と手を戻した。「私は別にどちらでもかまいませんけどね」
「ベルさん。ここは大人しく彼らの言うことを聞きましょう。私も一緒ですから、ね」
「エレンお姉さま」
エレオノーラがベルニスの肩を支えると、彼女も力強く頷いた。
二人は五人の男性に囲まれて、その部屋を後にする。そして、いつの間にか外に準備されていた馬車に乗り込む。
「こちらの言うことを聞いてくれれば、あなたたちに危害を加えるつもりはない」
目の前に座るリーダー格の男が手をもみもみとしながら、まるで値踏みをするかのようにエレオノーラたちを見ていた。ベルニスはすっかり怯えていて、エレオノーラに寄り掛かって顔を彼女の胸に預けている。エレオノーラはそっとベルニスの背中に手を回して、彼女のそれを優しく撫でている。
「美しい友情ですね。本当にいつまでも見ていたい。あなたのその強気な目、いつまで持つかな」
エレオノーラは目の前の彼をじっと見ている。目を反らすことはしない。そして、耳は外の音を聞いていた。今はどの辺だろうか。この速度の馬車がこれだけの時間を走っていたら、応援がかけつけるまでどれくらいかかるだろうか。そうやって考えていることを悟られないように、じっと彼を見ていた。
「ジルさん」
フレディはこの会場の警備責任者であるジルベルトを見つけると、そっと声をかけた。彼が声をかけてきた、ということは状況が動き出したということを、ジルベルトは悟った。少し眉と眉の間に皺を寄せる。
「エレンがさらわれました。ベルニス嬢も一緒だと思われます」
ジルベルトの眉がピクリと動いた。だが表情を崩すようなことはしない。
フレディは胸ポケットより何やら取り出した。
「フレディ殿、それは?」
ジルベルトが目を細めて尋ねる。
「エレンに発信機を持たせておきました。その信号を受信する受信機です。まあ、こちらも発信機の機能を持っていますが」
「はっしんき? じゅしんき?」
「ええ、はい。今、私の方で開発していまして。まだ試作段階ですが、今回はいい機会だと思ってエレンに持たせました。エレンの発信機の信号をこれが受信して、その発信機がどこにあるのか、というのを表示しています。逆にエレンの方にはこちらの信号を受信しているので、お互いがお互いどこにいるのかということがわかります」
「この、赤い点がそうなのか?」
「はい。つまり、彼女は今、ここより東の方向にいる、ということです」
「動いているのは?」
「まだ移動中、ということですね」
この状況をフレディは楽しんでいるようにも見える。
「私は、ダン兄に連絡をしますので」
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