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【第三部】堅物騎士団長に溺愛されている変装令嬢は今日もその役を演じます
17.反撃開始です
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馬車が止まった。ずっと顔を伏せていたベルニスも顔をあげる。
「着いたようですね」
目の前の男が怪しく笑った。
エレオノーラとベルニスは、お互いでお互いを支え合うようにして馬車から降りた。
「素直で助かります」
すぐ目の前にリーダー格の男の背中がある。そして二人の両脇に仲間の男。後ろにも二人、その仲間の男。エレオノーラとしては今すぐにでもこの男の背中を蹴り倒してやりたいところであったが、ぐっとそれを耐える。
案内された場所は、どこかの別邸のような建物。最近まで人が住んでいたような気配はするが、今はひっそりとしている。
大きな門を抜け、屋敷の中へと入るとそこはとても広いホールだった。
「お頭、お帰りなさい」
どこに潜んでいたのか。十数人の男性がずらっと並んでいた。彼らがお頭と呼んだのは、例のリーダー格の男。やはり、リーダーだったか。
「このお嬢様方は大事な客人だからね。丁寧にもてなすように」
「はい」
「あの、お頭」
十数人の男のうちの一人が、おずおずと手を挙げた。
「なんだい?」
「ノアイユ家の令嬢は一人では?」
「ああ、彼女はノアイユ家のお嬢様の友人だそうだ。バーデールから来ている留学生らしい」
このリーダー格の男は、馬車の中で必要最小限の会話で情報を引き出そうとしていた。それに対応したのは専らエレオノーラで、ベルニスはただただ顔を伏せて震えているだけだった。
「バーデールにも揺さぶりをかけられるかもしれないから、大事に扱え」
「はっ」
リーダーと一緒にいた残りの四人の男のうちの一人が、ベルニスの腕を乱暴に捕まえた。キャッ、と彼女は小さく悲鳴をあげる。
「おやめなさい。女性には優しくしないと嫌われますよ?」
エレオノーラが艶麗に笑う。その表情に誘われて一人の男が、エレオノーラの方へ寄ってくる。
「気の強いお嬢さんは好きですよ」
「あら、ありがとう。でも、私、乱暴な男の人は嫌い。優しくしてくださる?」
エスコートしろ、とでも言わんばかりの圧力をかけると、その男も感じ取ったのか、すっと手を差し出した。エレオノーラはその手を取る。それを見た男も、ベルニスに手を差し出すと、彼女もおずおずとその手を取った。だが、その表情は怖いという感情が現れている。大丈夫よ、という意味を込めてエレオノーラはベルニスに向かって微笑んだ。
二人が連れていかれたのはどこかの客室。変な倉庫ではなくて助かった。ソファもあるし、ベッドもある。
「こちらで大人しくしていてください。何もしなければこちらも何もしません」
縛られることなく、その部屋に押し込められた。そしてドアには鍵をかけられた。
エレオノーラはどすんとソファに腰を沈めた。
「ベルさん、大丈夫でしたか?」
「ええ、あ、はい」
ベルニスも彼女の向かい側にゆったりと座る。「あの、私たちはこの後どうなってしまうのでしょう」
「そうですね」
うーん、とエレオノーラは考えた。結論から言えば、助かる、はずなのだが。
「きっと助けが来ます。ですから安心してください」
「ですが」
「私もいますから」
そこで自信ありげに笑みを浮かべる。
「ということで、早速ですが、反撃開始です」
「え、もう、ですか?」
「はい」
エレオノーラは胸元から怪しげなものを取り出した。フレディの言うところの発信機。フレディが持っているものと対になっていて、お互いがお互いをどこにいるのか、ということを認識できるらしい。
「なんですか? それ」
ベルニスは立ち上がると、エレオノーラの隣に座った。
「発信機、というもののようです。フレディ先生から預かりました」
「フレディ先生が?」
「はい。どうやら、こうなることを見越していたようで、私にこれを持っていろということでした」
赤い点が移動している。こちらに近づいてきている、ということはわかる。
「この赤いのが動いているように見えます。どういうことでしょうか?」
ベルニスが尋ねる。
「それはですね。みなさんが助けに来てくださる、という意味ですよ」
エレオノーラはこの点が停止するのを待っている。
「本当にこちらの方はお優しい。それともおバカなだけかしら」
その呟きに、ベルニスは首を傾けた。
「私たちを縛ることなく、この部屋を出ていったでしょう?」
「でも、扉には鍵をかけられました」
「入り口はそこだけかしら?」
すっとエレオノーラはバルコニーの方へ視線を向ける。
「え、ですがここは二階ですよ」
「たかが二階です。ベルニスさん、男性が苦手とは伺っておりますが。その、助けに来てくださった男性に対しては、少し我慢をしてもらえますか?」
「あ、はい。今も我慢できたので、それくらいなら大丈夫です」
「それは良かった」
エレオノーラはゆっくりと立ち上がると、バルコニーへと向かう。窓を開けると、カーテンが揺れる。そして外へ出る。下を見ると、いたいた。フレディだ。目が合った。頷き合う。
「ベルさん。バルコニーの方へ」
そう指示を出すエレオノーラは、いつもの学院で見かける彼女とは違うように感じた。エレオノーラの指示に従いバルコニーへ出ると、そこにはすでに騎士服に身を包む男が数人いた。
一人、見知った顔。
「フレディ先生」
「しっ。静かに。ベルニスさんは彼らと一緒にここから降りてください」
フレディの言う彼らとはここにいる騎士団の人たちのことだろう。ベルニスがエレオノーラに視線を向けると、彼女は力強く頷く。大丈夫だから、そう言っているように見える。
「あの、エレンさんは?」
「私は、大丈夫です。心配してくださってありがとう」
「一緒に、行かないのですか?」
「ええ、ごめんなさい。だって、こんな楽しいことをみすみす見逃すわけにはいかないので」
楽しいこと? とベルニスは首を傾ける。
「会長が待っていますよ。あなたのその気持ち、きちんと会長に伝えましょう。あなたの心の中にはたくさんの言葉がある。ですが、口にしないと伝わらない想いというのもありますよ」
いきなりベルニスがエレオノーラの手を握った。
「エレンさん、ありがとうございます」
「ベルさん。自信を持って。あなたはとても素敵な女性です。あなたにはあなたにしかない魅力があります」
ベルニスを引き離すと、騎士団の一人に彼女を預けた。
「さて、と。反撃の狼煙をあげますかね」
エレオノーラの呟きに。
「ダン兄に怒られない程度にして欲しいね」
フレディが肩をすくめた。
「着いたようですね」
目の前の男が怪しく笑った。
エレオノーラとベルニスは、お互いでお互いを支え合うようにして馬車から降りた。
「素直で助かります」
すぐ目の前にリーダー格の男の背中がある。そして二人の両脇に仲間の男。後ろにも二人、その仲間の男。エレオノーラとしては今すぐにでもこの男の背中を蹴り倒してやりたいところであったが、ぐっとそれを耐える。
案内された場所は、どこかの別邸のような建物。最近まで人が住んでいたような気配はするが、今はひっそりとしている。
大きな門を抜け、屋敷の中へと入るとそこはとても広いホールだった。
「お頭、お帰りなさい」
どこに潜んでいたのか。十数人の男性がずらっと並んでいた。彼らがお頭と呼んだのは、例のリーダー格の男。やはり、リーダーだったか。
「このお嬢様方は大事な客人だからね。丁寧にもてなすように」
「はい」
「あの、お頭」
十数人の男のうちの一人が、おずおずと手を挙げた。
「なんだい?」
「ノアイユ家の令嬢は一人では?」
「ああ、彼女はノアイユ家のお嬢様の友人だそうだ。バーデールから来ている留学生らしい」
このリーダー格の男は、馬車の中で必要最小限の会話で情報を引き出そうとしていた。それに対応したのは専らエレオノーラで、ベルニスはただただ顔を伏せて震えているだけだった。
「バーデールにも揺さぶりをかけられるかもしれないから、大事に扱え」
「はっ」
リーダーと一緒にいた残りの四人の男のうちの一人が、ベルニスの腕を乱暴に捕まえた。キャッ、と彼女は小さく悲鳴をあげる。
「おやめなさい。女性には優しくしないと嫌われますよ?」
エレオノーラが艶麗に笑う。その表情に誘われて一人の男が、エレオノーラの方へ寄ってくる。
「気の強いお嬢さんは好きですよ」
「あら、ありがとう。でも、私、乱暴な男の人は嫌い。優しくしてくださる?」
エスコートしろ、とでも言わんばかりの圧力をかけると、その男も感じ取ったのか、すっと手を差し出した。エレオノーラはその手を取る。それを見た男も、ベルニスに手を差し出すと、彼女もおずおずとその手を取った。だが、その表情は怖いという感情が現れている。大丈夫よ、という意味を込めてエレオノーラはベルニスに向かって微笑んだ。
二人が連れていかれたのはどこかの客室。変な倉庫ではなくて助かった。ソファもあるし、ベッドもある。
「こちらで大人しくしていてください。何もしなければこちらも何もしません」
縛られることなく、その部屋に押し込められた。そしてドアには鍵をかけられた。
エレオノーラはどすんとソファに腰を沈めた。
「ベルさん、大丈夫でしたか?」
「ええ、あ、はい」
ベルニスも彼女の向かい側にゆったりと座る。「あの、私たちはこの後どうなってしまうのでしょう」
「そうですね」
うーん、とエレオノーラは考えた。結論から言えば、助かる、はずなのだが。
「きっと助けが来ます。ですから安心してください」
「ですが」
「私もいますから」
そこで自信ありげに笑みを浮かべる。
「ということで、早速ですが、反撃開始です」
「え、もう、ですか?」
「はい」
エレオノーラは胸元から怪しげなものを取り出した。フレディの言うところの発信機。フレディが持っているものと対になっていて、お互いがお互いをどこにいるのか、ということを認識できるらしい。
「なんですか? それ」
ベルニスは立ち上がると、エレオノーラの隣に座った。
「発信機、というもののようです。フレディ先生から預かりました」
「フレディ先生が?」
「はい。どうやら、こうなることを見越していたようで、私にこれを持っていろということでした」
赤い点が移動している。こちらに近づいてきている、ということはわかる。
「この赤いのが動いているように見えます。どういうことでしょうか?」
ベルニスが尋ねる。
「それはですね。みなさんが助けに来てくださる、という意味ですよ」
エレオノーラはこの点が停止するのを待っている。
「本当にこちらの方はお優しい。それともおバカなだけかしら」
その呟きに、ベルニスは首を傾けた。
「私たちを縛ることなく、この部屋を出ていったでしょう?」
「でも、扉には鍵をかけられました」
「入り口はそこだけかしら?」
すっとエレオノーラはバルコニーの方へ視線を向ける。
「え、ですがここは二階ですよ」
「たかが二階です。ベルニスさん、男性が苦手とは伺っておりますが。その、助けに来てくださった男性に対しては、少し我慢をしてもらえますか?」
「あ、はい。今も我慢できたので、それくらいなら大丈夫です」
「それは良かった」
エレオノーラはゆっくりと立ち上がると、バルコニーへと向かう。窓を開けると、カーテンが揺れる。そして外へ出る。下を見ると、いたいた。フレディだ。目が合った。頷き合う。
「ベルさん。バルコニーの方へ」
そう指示を出すエレオノーラは、いつもの学院で見かける彼女とは違うように感じた。エレオノーラの指示に従いバルコニーへ出ると、そこにはすでに騎士服に身を包む男が数人いた。
一人、見知った顔。
「フレディ先生」
「しっ。静かに。ベルニスさんは彼らと一緒にここから降りてください」
フレディの言う彼らとはここにいる騎士団の人たちのことだろう。ベルニスがエレオノーラに視線を向けると、彼女は力強く頷く。大丈夫だから、そう言っているように見える。
「あの、エレンさんは?」
「私は、大丈夫です。心配してくださってありがとう」
「一緒に、行かないのですか?」
「ええ、ごめんなさい。だって、こんな楽しいことをみすみす見逃すわけにはいかないので」
楽しいこと? とベルニスは首を傾ける。
「会長が待っていますよ。あなたのその気持ち、きちんと会長に伝えましょう。あなたの心の中にはたくさんの言葉がある。ですが、口にしないと伝わらない想いというのもありますよ」
いきなりベルニスがエレオノーラの手を握った。
「エレンさん、ありがとうございます」
「ベルさん。自信を持って。あなたはとても素敵な女性です。あなたにはあなたにしかない魅力があります」
ベルニスを引き離すと、騎士団の一人に彼女を預けた。
「さて、と。反撃の狼煙をあげますかね」
エレオノーラの呟きに。
「ダン兄に怒られない程度にして欲しいね」
フレディが肩をすくめた。
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