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【第三部】堅物騎士団長に溺愛されている変装令嬢は今日もその役を演じます
18.勧善懲悪です
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エレオノーラが内側から扉を叩いた。多分、外には見張りがいるはず。
「どうかしたのか」
扉の向こう側から男の声が聞こえた。
「あの、すいません。ちょっと苦しくて」
エレオノーラの苦しい、という言葉が引っかかったのだろう。何よりもお頭からは大事な人質と聞いている。カチャリと鍵の開く音がした。
「どうした?」
「すいません、ドレスが苦しくて。少し、後ろを緩めていただけないでしょうか?」
エレオノーラが少し頬を染めながら、艶めかしく男を見上げると、その男がゴクリと生唾を飲み込む音が聞こえた。エレオノーラは彼に背を預ける。その男がエレオノーラの背に触れようとした途端。
ゴッという派手な音が聞こえた。その音の発生源はその男。いつの間にか猿轡をかまされ、両手両足を縛られ、床に転がっている。
「あ、お義父さま」
「やあ、エレン。君の一大事だと聞いて、君のお兄さんと一緒に駆けつけてみたよ」
フレディに視線を向けると、その目は違う、と言っている。
「エレンと同じだ。リガウン侯爵もこんな楽しいことをみすみす見逃すわけはないだろう、とおっしゃって、ついてきた」
「私たちは、似た者父娘だね」
義父が言うので、エレオノーラはそうですね、と答えた。だが、リガウン侯爵がここにいるということは、かなり心強い。しかも、一緒に訓練をした仲だ。お互いの動きがなんとなくわかるし、試してみたいコンビネーションもある。
「ああ、エレン、リガウン侯爵。これをお持ちください」
フレディは二人に耳栓を持たせた。
「なんですか、これ」
「まあ、見た通り耳栓だね。私が合図をしたらこれをつけて欲しい」
「フレッドお兄さま、何を企んでいます?」
「エレンと同じだよ。こんな楽しいことをみすみす見逃すわけはないだろう?」
この状況を楽しむ人間が三人も揃ってしまった。
「さて、この後はどうしましょう?」
エレオノーラが顎に手を当てた。
「もちろん、相手をぶっ潰すんだろ?」
「エレン、相手は何人かわかるか? だいたいの人数でいい」
リガウン侯爵のそれに、エレオノーラは答える。
「はい。私たちを浚いにきた男は五人。一人が親玉です。それから、それ以外にこの屋敷で留守番をしていた男たちが少なくとも十五人程。ですが、もう少しいると思います」
「そのくらいなら、我々三人でなんとかなるか」
「ええ、そうですね。今回はこの秘密兵器も準備しましたので」
フレディの言うところの秘密兵器が気になるところだが。
「さて、行くとするか」
リガウン侯爵が先陣を切った。
「侵入者だ」
「人質が逃げたぞ」
という怒号が響くのも時間の問題だった。
目の前には五人程度の悪い人。と思ったら、後方からも彼らは五人程度でやってきた。
「リガウン侯爵、エレン、耳を」
フレディが言う。急いで二人はフレディから渡された耳栓をした。それと同時に彼は怪しげなものをまた取り出す。なんだろう、あれは。フレディがそれを適当にいじりはじめると、前方と後方にいた男たちがいきなり耳を塞ぎ始めた。フレディに視線を向けると、今だ、やれ、と口をパクパクさせたため、エレンが後方の男たちを、リガウン侯爵が前方の男たちをのした。そして丁寧に両手両足を縛り上げる。
手をパンパンと叩いてから、エレオノーラは耳栓を外した。
「それで、フレッドお兄さま。それは何ですか?」
「これ? 不快な音を出す装置」
「不快な音?」
エレオノーラが尋ねると、聞きたいか? とフレディが楽しそうに言うので、それを丁寧にお断りした。
「ほら、私はエレンと違って頭脳派だから」
むしろ、電波かと思います。とエレオノーラは心の中だけで呟いておく。口に出したら、不快な音を聞かされそうで怖いから。
「フレッドお兄さま。とりあえず敵を殲滅でよろしいのですよね?」
「ああ、エレン。遠慮なくぶっ潰してくれ。と言いたいところだが、ダン兄に怒られない程度にぶっ潰してくれ」
フレディのその言葉にエレオノーラは頷き、リガウン侯爵に視線を向けると、彼も右手の親指を立ててやるぞ、と合図をしてくれる。それを見てエレオノーラは安心した。とにかく心強い。そして、前に向かって走り出そうとした。
ところが、階下から罵声や怒号が聞こえてきた。
「第一が来たみたいだね」
そこでフレディは眼鏡をくいっと押し上げた。第一騎士団がこの屋敷に乗り込んできたらしい。
吹き抜けから階下を見下ろすと、騎士団とこの屋敷にいた男どもがやり合っている。双方に優劣をつけなければならない、というのであれば、もちろん優勢側が騎士団で、劣勢側が男たち。そうなると劣勢側というのは見切りをつけ始める。リーダー格のあのお頭と呼ばれていた男は、裏口から逃げようとしているのか、仲間たちとは反対の方向へと移動を始める。
第一騎士団たち、むしろジルベルトがそれを目ざとく見つけ追おうとしているが、他の男どもに邪魔をされてか、思うようにリーダー格の男に追いつくことができない。
「お義父さま」
エレオノーラはリガウン侯爵を呼んだ。今こそ、あのコンビネーションを試す時。義父もそれを感じ取ったらしい。
「エレン。私の肩を」
「はい」
エレオノーラはリガウン侯爵に向かって駆け出した。そこで跳躍をしてから義父の肩に両手をポンとつく。彼女の身体はその義父の頭の上で一回転してから、吹き抜けへと飛び出した。さらに空中で一回転してから階下へと見事に降り立つ。
ピシッと片膝をつき、顔を上げてリーダー格の男の顔を見上げるエレオノーラ。彼からしたら、空からではなく、天井からまるで天使が降り立ったように見えた、かもしれない。
「私を置いて行かれるのですか?」
彼女はすっと立ち上がる。清楚な笑いと、そのドレス姿がエレオノーラを天使に見せている要因かもしれない。が、彼は一歩後ずさる。目の前にいるのは天使ではない、ということに気付いたのだろう。
「一体、どこから現れた」
「あら。今、見ていたのでしょう。上からです」
右手の人差し指を立て、上を指し示す。そして、ニッコリ笑う。悪魔の笑み。
「貴様、ただ者では無いな」
その男はもう一歩後ずさる。
「往生際が悪いですね」
あるときは酒場の男性店員、あるときは王宮の文官。そして今回は可憐な女子学生。だけど、その正体は。と、エレオノーラとしては、名乗りたいところだった。だが、ダニエルとの約束があるため我慢をする。
エレオノーラは一歩彼に近づく。すると、彼は一歩下がる。近づく、下がる、という繰り返し。だが、彼はとうとう下がれないところまで来てしまったらしい。
ゆっくりと首を後ろに回すと、髪をオールバックにした男がいる。
「ジル様」
エレンが呼ぶとジルベルトはガシッとその男の腕を掴んだ。今だ、とエレオノーラはその右足を振り上げた。それは綺麗な弧の軌道を描き、リーダー格の男の左側頭部に見事命中した。ジルベルトがその腕を掴んでいなければ、間違いなく彼は横に吹っ飛んでいただろう。
気を失った彼の両手両足を縛る。
「これで、全部だな」
ジルベルトは部下にリーダー格の男を預けた。彼らは拘束され、とりあえず牢にぶち込まれることになっている。
「エレン」
他に第一騎士団のメンバーがいないことを確認してから、ジルベルトは妻の名を呼んだ。
「君が空から降ってきたときには、驚いた。まるで、女神が降り立つかのようだった」
「お義父さまとの訓練の賜物です」
そう言ってエレオノーラはニッコリと微笑むつもりだった。だが、なぜか目の前が真っ白になる。
「エレン」
耳に残るのは愛する夫の声。
「どうかしたのか」
扉の向こう側から男の声が聞こえた。
「あの、すいません。ちょっと苦しくて」
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「どうした?」
「すいません、ドレスが苦しくて。少し、後ろを緩めていただけないでしょうか?」
エレオノーラが少し頬を染めながら、艶めかしく男を見上げると、その男がゴクリと生唾を飲み込む音が聞こえた。エレオノーラは彼に背を預ける。その男がエレオノーラの背に触れようとした途端。
ゴッという派手な音が聞こえた。その音の発生源はその男。いつの間にか猿轡をかまされ、両手両足を縛られ、床に転がっている。
「あ、お義父さま」
「やあ、エレン。君の一大事だと聞いて、君のお兄さんと一緒に駆けつけてみたよ」
フレディに視線を向けると、その目は違う、と言っている。
「エレンと同じだ。リガウン侯爵もこんな楽しいことをみすみす見逃すわけはないだろう、とおっしゃって、ついてきた」
「私たちは、似た者父娘だね」
義父が言うので、エレオノーラはそうですね、と答えた。だが、リガウン侯爵がここにいるということは、かなり心強い。しかも、一緒に訓練をした仲だ。お互いの動きがなんとなくわかるし、試してみたいコンビネーションもある。
「ああ、エレン、リガウン侯爵。これをお持ちください」
フレディは二人に耳栓を持たせた。
「なんですか、これ」
「まあ、見た通り耳栓だね。私が合図をしたらこれをつけて欲しい」
「フレッドお兄さま、何を企んでいます?」
「エレンと同じだよ。こんな楽しいことをみすみす見逃すわけはないだろう?」
この状況を楽しむ人間が三人も揃ってしまった。
「さて、この後はどうしましょう?」
エレオノーラが顎に手を当てた。
「もちろん、相手をぶっ潰すんだろ?」
「エレン、相手は何人かわかるか? だいたいの人数でいい」
リガウン侯爵のそれに、エレオノーラは答える。
「はい。私たちを浚いにきた男は五人。一人が親玉です。それから、それ以外にこの屋敷で留守番をしていた男たちが少なくとも十五人程。ですが、もう少しいると思います」
「そのくらいなら、我々三人でなんとかなるか」
「ええ、そうですね。今回はこの秘密兵器も準備しましたので」
フレディの言うところの秘密兵器が気になるところだが。
「さて、行くとするか」
リガウン侯爵が先陣を切った。
「侵入者だ」
「人質が逃げたぞ」
という怒号が響くのも時間の問題だった。
目の前には五人程度の悪い人。と思ったら、後方からも彼らは五人程度でやってきた。
「リガウン侯爵、エレン、耳を」
フレディが言う。急いで二人はフレディから渡された耳栓をした。それと同時に彼は怪しげなものをまた取り出す。なんだろう、あれは。フレディがそれを適当にいじりはじめると、前方と後方にいた男たちがいきなり耳を塞ぎ始めた。フレディに視線を向けると、今だ、やれ、と口をパクパクさせたため、エレンが後方の男たちを、リガウン侯爵が前方の男たちをのした。そして丁寧に両手両足を縛り上げる。
手をパンパンと叩いてから、エレオノーラは耳栓を外した。
「それで、フレッドお兄さま。それは何ですか?」
「これ? 不快な音を出す装置」
「不快な音?」
エレオノーラが尋ねると、聞きたいか? とフレディが楽しそうに言うので、それを丁寧にお断りした。
「ほら、私はエレンと違って頭脳派だから」
むしろ、電波かと思います。とエレオノーラは心の中だけで呟いておく。口に出したら、不快な音を聞かされそうで怖いから。
「フレッドお兄さま。とりあえず敵を殲滅でよろしいのですよね?」
「ああ、エレン。遠慮なくぶっ潰してくれ。と言いたいところだが、ダン兄に怒られない程度にぶっ潰してくれ」
フレディのその言葉にエレオノーラは頷き、リガウン侯爵に視線を向けると、彼も右手の親指を立ててやるぞ、と合図をしてくれる。それを見てエレオノーラは安心した。とにかく心強い。そして、前に向かって走り出そうとした。
ところが、階下から罵声や怒号が聞こえてきた。
「第一が来たみたいだね」
そこでフレディは眼鏡をくいっと押し上げた。第一騎士団がこの屋敷に乗り込んできたらしい。
吹き抜けから階下を見下ろすと、騎士団とこの屋敷にいた男どもがやり合っている。双方に優劣をつけなければならない、というのであれば、もちろん優勢側が騎士団で、劣勢側が男たち。そうなると劣勢側というのは見切りをつけ始める。リーダー格のあのお頭と呼ばれていた男は、裏口から逃げようとしているのか、仲間たちとは反対の方向へと移動を始める。
第一騎士団たち、むしろジルベルトがそれを目ざとく見つけ追おうとしているが、他の男どもに邪魔をされてか、思うようにリーダー格の男に追いつくことができない。
「お義父さま」
エレオノーラはリガウン侯爵を呼んだ。今こそ、あのコンビネーションを試す時。義父もそれを感じ取ったらしい。
「エレン。私の肩を」
「はい」
エレオノーラはリガウン侯爵に向かって駆け出した。そこで跳躍をしてから義父の肩に両手をポンとつく。彼女の身体はその義父の頭の上で一回転してから、吹き抜けへと飛び出した。さらに空中で一回転してから階下へと見事に降り立つ。
ピシッと片膝をつき、顔を上げてリーダー格の男の顔を見上げるエレオノーラ。彼からしたら、空からではなく、天井からまるで天使が降り立ったように見えた、かもしれない。
「私を置いて行かれるのですか?」
彼女はすっと立ち上がる。清楚な笑いと、そのドレス姿がエレオノーラを天使に見せている要因かもしれない。が、彼は一歩後ずさる。目の前にいるのは天使ではない、ということに気付いたのだろう。
「一体、どこから現れた」
「あら。今、見ていたのでしょう。上からです」
右手の人差し指を立て、上を指し示す。そして、ニッコリ笑う。悪魔の笑み。
「貴様、ただ者では無いな」
その男はもう一歩後ずさる。
「往生際が悪いですね」
あるときは酒場の男性店員、あるときは王宮の文官。そして今回は可憐な女子学生。だけど、その正体は。と、エレオノーラとしては、名乗りたいところだった。だが、ダニエルとの約束があるため我慢をする。
エレオノーラは一歩彼に近づく。すると、彼は一歩下がる。近づく、下がる、という繰り返し。だが、彼はとうとう下がれないところまで来てしまったらしい。
ゆっくりと首を後ろに回すと、髪をオールバックにした男がいる。
「ジル様」
エレンが呼ぶとジルベルトはガシッとその男の腕を掴んだ。今だ、とエレオノーラはその右足を振り上げた。それは綺麗な弧の軌道を描き、リーダー格の男の左側頭部に見事命中した。ジルベルトがその腕を掴んでいなければ、間違いなく彼は横に吹っ飛んでいただろう。
気を失った彼の両手両足を縛る。
「これで、全部だな」
ジルベルトは部下にリーダー格の男を預けた。彼らは拘束され、とりあえず牢にぶち込まれることになっている。
「エレン」
他に第一騎士団のメンバーがいないことを確認してから、ジルベルトは妻の名を呼んだ。
「君が空から降ってきたときには、驚いた。まるで、女神が降り立つかのようだった」
「お義父さまとの訓練の賜物です」
そう言ってエレオノーラはニッコリと微笑むつもりだった。だが、なぜか目の前が真っ白になる。
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