キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる

藤 ゆみ子

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第4話 コードウェル兄弟 

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 少しの明かりだけが灯る薄暗い地下の部屋で、屋敷のカーテンを見るも無惨な姿にした張本人に声をかける。

「お針子さん見つかったよ」

「知ってる。可愛い子だったな」

「ライアンお前っ、出てきてたのか!?」

「少し覗いただけだって」

「その姿、絶対彼女に見られるなよ」

「大丈夫だろ」

 僕はいつも楽観的なこの弟に振り回される。

 数日前、屋敷の方で暴れた時もそうだった。

 仕事でへまをして怪我を負って帰ってきた。この姿の方が治りが早いからと言って元の姿に戻らずにいたのに、痛いだの治りかけの傷は痒いだのわざわざ屋敷の方で大暴れするなんて。
 止めようとした僕も不本意に壁を傷つけてしまった。
 おかげで侯爵家としての表の屋敷がまるで廃墟のようになってしまう。
 日の光が直接入り込んでくるし、生活感のない屋敷の中が丸見えだ。
 いつ父にバレるかわからない。
 その前になんとかしなければいけないが、全てのカーテンが出来るまで数ヶ月かかると言われる。

 取り急ぎお針子を募集したが、真面目そうな子が来てくれてよかった。
 荒れた屋敷の中を不安そうに見回していたが彼女は何も聞いてはこない。それがありがたかった。

 だが、ソファーくらいは綺麗なものにしておけばよかったと後悔した。
 先ほどこっちにあるソファーと屋敷のソファーを交換しておいた。ついでにダイニングのテーブルと椅子も。

 とりあえず彼女には敷地に入って正面から丸見えのリビングのカーテンからお願いした。
 後はダイニングと応接間、廊下三ヶ所のカーテンがあるが屋敷の前を通っただけでは気が付くことはないだろう。
 彼女が全て仕上げるのが早いか、新しいカーテンが届くのが早いかわからないが焦らす必要もない。

 あとはこのもふもふしたヤツが彼女と接触しなければなんの問題もないのだ。
 
「絶っ対にここから出るなよ!」

「考えとくー」

 ふざけた返事に頭を抱えながら、キッチンへと向かう。
 一般的なキッチンと変わりはないが、珍しい調味料や新鮮な食材、料理に合わせた食器など、このキッチンの主こだわりの空間だ。
 薄暗いままのキッチンで朝食を作っているもう一人の弟に声をかける。

「アレン、おはよう」

「兄さんおはよう。ちゃんとお針子さんの分も用意してるよ」

「ありがとう。今から彼女の様子見てくる。後でとりにくるよ」

 アレンは料理好きだ。その手のことはさっぱりな僕とライアンのために、いつもちゃんとした食事を提供してくれる。

「そうだ、アレンは彼女に会わなくていいの?」

「うん。ボクはいいよ」

 アレンは人見知りだ。現在もふもふ姿のライアンと違って彼女に会っておいてもいいかと思ったが本人が会わないと言うなら別にいいだろう。

 僕はすでに明るくなった屋敷へと上って行く。

 彼女は一晩でどれくらい縫ってくれただろうか。
 もしかしたら昨晩はまだ作業をはじめていないかもしれない。
 それはそれでいいと思った。
 彼女の頬が腫れていたことは気が付いている。何か訳ありなのかも知れない。
 だが、こちらも訳ありのためそこは触れないでいた。
 ゆっくり休んで今日からはじめてくれればいい。

 二階の彼女の部屋をノックする。

「……」

 返事がない。まだ寝ているのだろうか。

 そのままにしておくことも考えたが、アレンが作ってくれた朝食もある。
 少しの罪悪感を抱きながら部屋のドアをゆっくりと開け中を覗く。

「あれ? いない?」

 中に入り部屋を見渡すが、彼女の姿はどこにも見えない。
 だがそれよりもベッドの上に広げられたカーテンに思わず目を奪われる。
 ビリビリに破け、見るも無惨だったあのカーテンが、ただ縫われているだけでなく綺麗で繊細な刺繍が施され、まるで上品なドレスのような仕上がりになっている。

「すごい」

 そのカーテンを手に取ってみた。

「うわっ!!」

「きゃあっ」

 カーテンの下に彼女が眠っていたようだ。

「ご、ごめん」

「す、すすすすすみません」

 かなり焦った様子の彼女は急いでシーツを掴み顔を隠す。赤くなった耳と丸まった体がなんとも可愛らしい。
 笑ってしまいそうになるのをこらえ、彼女に謝罪する。
 
「勝手に入ってごめんね」

「いえ、私の方こそ気が付いたら完成したカーテンを被って寝てしまっていて。申し訳ありません」

「大丈夫だよ。それよりこの刺繍、君がしたんだよね?」

 正直、こんな刺繍は見たことがない。
 丁寧なステッチにバランスの良い幾何学な形、独立した結晶の模様はレースをあしらうのとは全く違った味わいがある。

「あっ! 勝手なことをしてすみませんでした」

 彼女はベッドの上で顔を隠しながらも必死に頭を下げる。
 どうやら僕が怒っていると勘違いしているらしい。

「謝らないで。こんなに素敵なカーテンにしてくれてありがとう。とても綺麗で嬉しいよ」

 お礼を告げると彼女は顔を上げぱあっと表情が明るくなる。

「本当ですか? ありがとうございます! よかったです」

 無邪気に笑う彼女は、おひさまのようにキラキラしていた。

「さっそくリビングに掛けておくよ」

「あの、残りの三枚も刺繍を入れても良いでしょうか? 少しお時間はかかるかもしれませんが、一枚だけというのも……」

 こんなに綺麗にしてもらうのは逆に申し訳ない気もするが、せっかく申し出てくれたのでお言葉に甘えよう。

「じゃあ、お願いしようかな」

「はい! ありがとうございます」

 こちらがお願いすることなのに彼女は嬉しそうだった。

「そうだ朝食、食べるよね?」

「いただいてよろしいのですか?」

「もちろんだよ。部屋に持ってこようか」

 そう言ったところでこの部屋が食事ができるような状態ではないことに気付く。
 机の上には出しっぱなしの裁縫道具、無造作に広がったカーテン、彼女が持ってきていた荷物たち。

 彼女も部屋の状態に気付いたのか慌ててベッドから下り片付けを始めようとする。

「よかったらダイニングで食べる?」

「え?」

「ちょうどテーブルと椅子を取り替えたんだ。僕も一緒に食べるから」

「いいのですか?」

「もちろん。準備したら呼びに来るからゆっくりしてて」

 僕は彼女の部屋を出ると、刺繍が施された一枚のカーテンをリビングに掛けてからアレンのところへ行き、二人分の朝食を受け取ってダイニングに運んだ。

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