キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる

藤 ゆみ子

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第13話 新しい仕事

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 カーソン家の問題も落ち着き、肩の怪我も良くなった頃、私はウィリアム様と以前来た街の洋装店へ訪れていた。

「好きなだけ選んでいいからね」

 ライアン様から言われた新しい仕事のために、追加で刺繍糸を買いに来た。
 二階のカーテンは私の好きな柄を入れていいらしい。
 
「もう柄は決めてるの?」

「はい。部屋ごとに柄を変えようと思っているのですが、かまいませんか?」

「セレーナの好きにしてくれて大丈夫だよ」

 一階は全て雪の結晶の模様にした。全体的に落ち着いた雰囲気になったため、二階は明るい雰囲気の模様にしようと思っている。

「ウィリアム様は何か好きな色はありますか?」

「僕の好きな色? そうだな……」

 ウィリアム様は私の顔をじっと覗き込むと、たくさんある糸の中から淡い緑色のものを手に取り私の顔の横に並べる。
 
「この色が好きだな」

 翡翠色。それは私の瞳の色だった。
 にこりと微笑むウィリアム様に少し恥ずかしくなる。

「えっと……それではその色も買います」

「うん」

 そして自分用にも糸と数種類の生地を選ぶ。
 これは先日頂いたお給金で自分で購入するつもりだ。

 全部買ってくれると言われたが、初めて自分で働いたお金で買いたかったのでお断りした。

 お店に並ぶ様々な糸や生地を見ながらどんなものを作ろうかイメージを膨らませていく。

「楽しそうだね」

 無意識に顔が緩んでいたらしい。
 ウィリアム様がニコニコしながら私を見る。
 
「はい、とても楽しいです」

 そんな私の横でウィリアム様もいくつか糸を選び始める。
 時折私の顔を見てはやはりニコニコしていた。

 それぞれ選んだものを購入し、お店を出る。
 次の目的地に向かい歩いているとウィリアム様は先ほど購入した糸を私に差し出す。
 
「これ、良かったら使ってね。カーテンにでもいいし、セレーナが好きに使ってくれてもいいし」
 
「頂いて良いのですか?」

「もちろん。そのために選んだからね」

 屋敷のカーテン用には私が選んだものも買ってくれているのにこんなに頂いていいのかと思いながらも、ありがたく受け取ることにした。
 
「ありがとうございます」

「こちらこそ。余分な仕事をさせてしまうことになるけど」

「大丈夫ですよ、好きですので。時間はかかると思いますが全てさせて頂きます」

 ライアン様から新しい仕事だと言われた後、無理にしなくてもいいのだと言われた。
 屋敷に住みながら、私の刺繍を活かして他に仕事をしてもいいし、好きなことをしてくれていいと。

 私はお言葉に甘えて、ずっと夢だったことを伝えた。

 それはオーダーメイドの刺繍雑貨を作って販売することだ。
 ハンカチや巾着、手袋や帽子などをその人の好みに合わせて刺繍を施すことにより自分だけの特別なものになる。
 そんな物を作りたかった。

 そして今、ウィリアム様に案内されやってきたのが街のメインストリートから一本路地に入ったところにあるこの小さな雑貨店だ。
 看板にエタンセルと書かれたそのお店は、店構えは小さいものの、レンガ造りの赴きのある建物で、その品格が滲みでている。

 ウィリアム様がお店のドアを開け、中に入る。
 お店にはハンカチやスカーフ、ネクタイなどの布製品から靴や財布、バッグなどの革製品まで様々なものが売られていた。
 数は多くないが、一つ一つが丁寧で高級感のある品物ばかりだ。

「マスター」

 そう呼ばれお店の奥から出てきたのは短髪で白髪混じのモノクルを掛けた穏やかそうな老人だった。

「ウィリアム様、お待ちしてましたよ」

 ウィリアム様曰く、このお店のマスターとは古くからの付き合いらしい。

「マスター、彼女が先日お話したセレーナです」

「セレーナです。はじめまして」

「はじめまして。立ち話もなんなのであちらに座って下さい」

 お店の隅に控え目に置かれたテーブルと椅子に案内された。
 三人で丸いそのテーブルを囲んで座る。

「先日ウィリアム様からお預かりしていたハンカチですが、五枚とも直ぐに売れてしまいましたよ」

「本当ですか?!」

 私は思わず前のめりになる。

 オーダーメイドの商品を作る前にまず、私がどんなものを作るのか知ってもらうために既製品をいくつか売ってみようということになった。

 肩の傷が完全に塞がるまで安静にしなさいと言われていたのでベッドから動くことが出来なかったが、その間ハンカチに刺繍をしながら過ごした。
 そのハンカチをウィリアム様がマスターに話を通しこのお店で売ってくれることになったのだ。

「あの、どんな方が買っていかれましたか?」

「ご自分用に使いたいというご婦人や、恋人にプレゼントしたいという青年などが買っていかれましたよ。皆さんいいものが見つかってよかったと嬉しそうにしていらっしゃいました」

「良かったね」

「はい!」

 私が作った物を誰かが手に取ってくれていることを想像するだけで嬉しくなる。
 奪われるとわかっていながら、ただ自分が楽しむだけでしていた時とは全く違う達成感と高揚感がある。
 
「また、私が作ったものをこのお店に置いていただいてもよろしいでしょうか?」

「ええ、もちろんです。こちらからお願いしようと思っていたのですよ」

 マスターはそう言うと革でできたカルトンに数枚の硬貨を乗せて私に差し出す。

「ハンカチの売り上げです」

「ありがとうございます」

「それでセレーナさん、これはあくまで提案ですが……」
 
 お客さんからの注文を受け付け、オーダーメイドのものを作るためには刺繍だけでなく、他の裁縫技術も必要になってくる。
 マスターはそんな私のために技術を教えてくれるというのだ。

 そしてゆくゆくはお客さんから直接オーダーメイドの注文が取れるようになればいいと。
 
 私は従業員の一人としてこのお店エタンセルで働き、私の商品を売りながら、マスターに技術を教わることになった。

「これから、どうぞよろしくお願いします」

「こちらこそ」

 思っていた以上に話が順調に進み、私はこれからが楽しみで仕方がなかった。

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