キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる

藤 ゆみ子

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第17話 お友達

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 次の日、私は仕事の後もう一度あの花屋へ行くことをあらかじめ伝えた。
 ウィリアム様は少し不満そうな顔をしていたけれど、刺繍のためのメモを取りに行くと言うと頷いてくれた。

 私もあの花屋へ行くのはもう今日だけにしたい。あと少しでお店にあった花のメモは取り終わるだろうし、明確に一目惚れしたと言われた人と必要以上に仲良くなるつもりはない。
 私は誰ともそういう関係になるつもりはないのだから。

 そして私はエタンセルでの仕事が終わった後、花屋へと向かった。
 けれど、お店を覗いてもカールさんは見当たらない。
 少しほっとしながらも勝手に見ていてもいいのだろうかと迷っているとお店の奥からカールさんによく似た中年の女性が出てきた。

「あの……」

「まあ! まあまあ! セレーナさんかしら?」

 私のことを知っているようだ。

「はい」

「お話は聞いていますよ。カールの母です。あの子は今配達に行ってるの。気にせず好きなだけ見ていってね」

 カールさんと良く似ていて明るい女性だ。
 私はお言葉に甘えてそのままお花のメモを取ることにした。

 カールさんのお母様はお花の手入れをしながら私に話しかける。
 
「あの子ね、すごく嬉しそうに話してくれたのよ。とても素敵な女性に出会ったって。私もあなたに会えて嬉しいわ」

「ありがとうございます……」

 穏やかに話すカールさんのお母さんに罪悪感を抱きながら黙々と手を動かした。

「よいしょ」

 とりあえずお店にあるお花はメモを取り終えた。しゃがんでいて痺れた足に少しふらつきながら立ち上がる。

「セレーナさん!」

 カールさんが配達から帰ってきたようだ。このまま会わずに帰りたかったが、そう都合よくはいかない。

「カールさんこんにちは。お花みさせて頂きました。もう終わりましたので失礼させて頂きますね。お母様もありがとうございました」

「いいえ、また来てね」

 その言葉にはい、とは言えず軽く会釈だけしてお店を出ようとするとカールさんに呼び止められた。

「送っていきます!」

「いえ、大丈夫ですよ。戻ってきたばかりですしお気になさらず」

 丁寧にお断りしたが、カールさんはついて来ようとしている。

「もうすぐ暗くなってくるし、送らせてやって」

 お母様にもそう言われ断りきれず送ってもらうことになった。
 帰り道、並んで歩きながらカールさんは変わらずにこにこしている。

「配達に時間がかかってしまい、お店にいられずすみませんでした」

「いえそんな。お母様に迎えて頂きましたし、無事メモも取り終えました。ありがとうございました」

「うちの花がお役に立ってよかったです!」
 
 色々な種類の花を見れたことは本当に満足だ。花の色、花弁の枚数、蕾の形、それぞれ特徴があって一本一本違っている。白黒の図鑑を見るよりもだいぶイメージも湧くしバリエーションも増えそうだ。

「セレーナさんは好きな花はありますか?」

「好きな花ですか……」

 特にこれといって好きな花があるわけではない。もちろん花は好きだし見ていて綺麗だなと思うが、刺繍にするとどんな感じかな、なんて思いながら見てしまっている。

「どれか一つを選ぶことはできないのですが、季節毎に咲く花を見るは好きですね」

「あのっ!」

 カールさんは急に立ち止まり大きな声で、けれど真剣な表情で私を見る。
 
「今度、郊外にある花農園で花祭りがあるんです。よかったら一緒にいきませんか」

 花祭り、それはとても魅力的だ。でもそれはデートということになるのではないか。行きたい気持ちもあるが断ろう。そう思い口を開きかけた時、カールさんは両手を前に出し、焦った様子で話し始める。

「いや、あの、俺この前は勢いで一目惚れ、なんていってしまいましたが気にしないで欲しいというか、いや、嘘ではないんですが、まだ出会って間もないですし、できれば友人として仲良くしていってもらえたら嬉しいというか……」

 カールさんはそこまで言うと一旦息を整え真っ直ぐに立つと深く頭を下げる。

「ですのでお友達になってくださいっ!!」 

 すごく真面目なカールさんがなんだか可愛くて、意地を張っている自分がばからしく思えてくる。
 それにお友達になってくださいと言われているのに断る理由はない。

「はい。仲良くしてください」

「ありがとうございますっ」

 カールさんはとても嬉しそうに顔を上げた。私にとってもはじめてのお友達だ。前世でもこの世界でもお友達と言える関係の人はいなかった。
 
 私はお友達として一緒に花祭りに行くことを約束し、屋敷のある丘まで送ってもらった。

----------

「男と花祭りデートに行くだあ?!」

「いや、デートではなくお友達とお出掛けというか」

「でも、その相手ってこの前の花屋の人だよね。セレーナに一目惚れしたって言ってた」

「それは完全に下心あるよ。ボクはそう思うけどね」

 屋敷に帰ったあと夕食の席で三人に詰め寄られている。
 珍しく全員揃った夕食が嬉しく、お友達ができたことと、一緒に花祭りに行くことを報告したが、誰からもいい反応はされなかった。
 やっぱり男性とお友達になることは難しいのだろうかと思いながらも、カールさんに今さら行けませんとは言えない。

「たくさんのお花を見たいなと思っていたのですが……」
 
「まぁ行くなとは言わないよ。セレーナが行きたいなら行っておいで」

「ボクたちに止める権利はないからね」

 しぶしぶといった感じだが、行くことを了承してくれた。
 ライアン様はむすっとした顔で何も言わなかったが。

 三人は色々と気にしているようだったが私はただ純粋に花祭りを楽しもうと思った。

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