25 / 36
第25話 セレーナのドレス
しおりを挟む翌日、朝食を食べた後ウィリアム様と一緒に屋敷を出た。
どこに行くかはまだ教えてもらっていない。
ウィリアム様は住宅街を抜け、街へ行く方とは反対の道へ行くと一軒の大きな洋館へと入る。
看板もたっていないし、ここは一体どういうところなのだろうか。
「いらっしゃいませ。ウィリアム様。お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
入ってすぐに身なりの整った案内人の男性に出迎えられ奥へと通される。
「あの、ウィリアム様ここは?」
「ん? お楽しみだよ」
長い廊下を歩きながらウィリアム様にこっそり聞いたが、教えてはくれなかった。
「こちらのお部屋にご用意してあります」
開けられた部屋の中央には、一着のドレスがトルソーにかけられ置かれていた。
薄いピンク色の艶やかな生地、袖と裾には上品なレースがあしらわれたハイネックのドレスだ。
「これは……」
「僕たち兄弟からセレーナへのプレゼントだよ。ドレスのデザインを決めたのは姉上だけど」
「こんな素敵なものを頂いてもよろしいのですか?」
「もちろんだよ。明日の式典はこれを着てね」
「嬉しいです! ありがとうございます」
こんなに素敵なドレスを私のために用意してくれたなんて嬉しさで目頭が熱くなる。
同時に、私はいつも着ているこの地味なワンピースしか持っていないのに明日の式典にこの格好で行くつもりだったのかと思うと恥ずかしくなった。
「セレーナ、サイズの微調整があるみたいだから着てみて欲しいんだって」
「はい。わかりました」
ウィリアム様は一旦部屋から出ると、控えていたお針子さんたちにあっという間にドレスを着せられ腰回りや胸元を締められて行く。
彼女たちは傷痕に視線も向けない。未婚の女がこんな首の詰まったドレスを着ること自体珍しいので何か訳ありということはわかっていたのだろうか。
それともウィリアム様から事前に聞いていたのかもしれない。
「ウィリアム様からだいたいのサイズは伺っておりましたが思っていた以上に華奢な体つきをしておられますね」
「あ、はい」
褒め言葉なのかどうかはわからないが、はいと返事をしておいた。それよりもウィリアム様からだいたいのサイズを聞いていたとは、私のスリーサイズをウィリアム様が把握していたということだろうか。なぜ知っているのだろう。私だって自分のスリーサイズなんて知らない。
いや、これを考えるのは止めておこう。
そんなことに頭を巡らせている間にドレスの調整ができたようだ。
「とてもお似合いですよ。ウィリアム様を呼んできますね」
そしてすぐにウィリアム様が部屋へ戻ってきた。
私をみて一瞬固まった気がしたが、すぐに顔を綻ばせ近寄ってくる。
「セレーナ、とてもよく似合ってる。綺麗だよ」
「ありがとうございます」
ストレートな褒め言葉に恥ずかしくなり目を逸らしてしまったが、ウィリアム様は私の髪をそっとすくとそのまま唇を寄せた。
っ!!
「明日、他の貴族の令息たちに声をかけられてもついて行ったらだめだよ」
「は、い……」
いつもなら、声なんてかけられないですよなんて言っているかもしれないが、そんな言葉さえ出てこないほどウィリアム様の表情が、私の髪に触れた唇が色っぽかった。
「このドレス、コードウェルの屋敷に運んで置いてもらえるかな」
「かしこまりました」
「着替えたら次の場所に行くからね」
ウィリアム様はまた部屋を出て行くと、私はあっという間に着替えさせられた。
「ウィリアム様、次はどちらへ行かれるのですか?」
「それもお楽しみだよ」
「はい」
先ほどの仕立屋の洋館を出て今度は街の方へ歩き出す。
そして一軒の宝飾店へ入った。
「ドレスは僕たちが勝手に選んでしまったから、アクセサリーはセレーナの好きな物を選んで欲しくて」
入った宝飾店は貴族向けの高級店で、どのアクセサリーも精巧でダイヤなどの宝石もふんだんに使われているものばかりだ。
「私、この中から選ぶなんてできません……」
「じゃあ僕が選んでもいい? あのドレスに合うネックレスがいいよね。これとかどうかな」
ウィリアム様が指差したのは一際大きなダイヤがいくつもはめ込まれたこのお店の中でも一番高そうなネックレスだった。
「や、やっぱり自分で選ばせて頂きます!」
「そうしてくれると嬉しいな」
こんな高そうなものを買ってもらう訳にはいかないし、私が身につけるのも気が引ける。
私はお店に展示されてあるアクセサリーを見ていく。
すると、一つとても目を引くものがあった。
装飾自体はとても小さいけれど細かく造られた雪の結晶を型どったイヤリング。結晶の中央には控え目にダイヤが光っていた。
「ウィリアム様、このイヤリングにしてもかまいませんか?」
ドレスはハイネックで首元まで綺麗なレースがあしらわれている。ネックレスよりイヤリングの方がいいと思った。
私が選んだイヤリングを見てウィリアム様は優しく笑う。
「うん。セレーナに良く似合うと思う」
その場でイヤリングを購入し、包んでもらったものを持って屋敷へと帰る。
「本当にありがとうございます」
「着飾ったセレーナを見るのが楽しみだよ」
そういえば、ドレスを買ってもらったは良いものの私一人ではあのドレスを着ることはできないし、髪だってそれなりに整えないといけないだろう。指先が器用である自負はあるが、自分で髪をアップスタイルにするなんてことはしたことがない。
「あの、私明日の身支度はどのようにすればよいのでしょうか」
「それなら心配しないで。人を呼んであるから」
明日の朝早くからその人が私の身支度を整えに来てくれるのだという。
自分で全てしなくてよいことに安心したが、何から何まで申し訳ない気持ちになった。
72
あなたにおすすめの小説
ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件
ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。
スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。
しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。
一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。
「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。
これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。
銀狼の花嫁~動物の言葉がわかる獣医ですが、追放先の森で銀狼さんを介抱したら森の聖女と呼ばれるようになりました~
川上とむ
恋愛
森に囲まれた村で獣医として働くコルネリアは動物の言葉がわかる一方、その能力を気味悪がられていた。
そんなある日、コルネリアは村の習わしによって森の主である銀狼の花嫁に選ばれてしまう。
それは村からの追放を意味しており、彼女は絶望する。
村に助けてくれる者はおらず、銀狼の元へと送り込まれてしまう。
ところが出会った銀狼は怪我をしており、それを見たコルネリアは彼の傷の手当をする。
すると銀狼は彼女に一目惚れしたらしく、その場で結婚を申し込んでくる。
村に戻ることもできないコルネリアはそれを承諾。晴れて本当の銀狼の花嫁となる。
そのまま森で暮らすことになった彼女だが、動物と会話ができるという能力を活かし、第二の人生を謳歌していく。
ワザとダサくしてたら婚約破棄されたので隣国に行きます!
satomi
恋愛
ワザと瓶底メガネで三つ編みで、生活をしていたら、「自分の隣に相応しくない」という理由でこのフッラクション王国の王太子であられます、ダミアン殿下であらせられます、ダミアン殿下に婚約破棄をされました。
私はホウショウ公爵家の次女でコリーナと申します。
私の容姿で婚約破棄をされたことに対して私付きの侍女のルナは大激怒。
お父様は「結婚前に王太子が人を見てくれだけで判断していることが分かって良かった」と。
眼鏡をやめただけで、学園内での手の平返しが酷かったので、私は父の妹、叔母様を頼りに隣国のリーク帝国に留学することとしました!
突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。
橘ハルシ
恋愛
ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!
リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。
怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。
しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。
全21話(本編20話+番外編1話)です。
婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される
さくら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。
慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。
だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。
「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」
そう言って真剣な瞳で求婚してきて!?
王妃も兄王子たちも立ちはだかる。
「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。
見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます
珠宮さくら
恋愛
ローザンネ国の島国で生まれたアンネリース・ランメルス。彼女には、双子の片割れがいた。何もかも与えてもらえている片割れと何も与えられることのないアンネリース。
そんなアンネリースを育ててくれた乳母とその娘のおかげでローザンネ国で生きることができた。そうでなければ、彼女はとっくに死んでいた。
そんな時に別の国の王太子の婚約者として留学することになったのだが、その条件は仮面を付けた者だった。
ローザンネ国で仮面を付けた者は、見るに堪えない顔をしている証だが、他所の国では真逆に捉えられていた。
【完結】貧乏子爵令嬢は、王子のフェロモンに靡かない。
櫻野くるみ
恋愛
王太子フェルゼンは悩んでいた。
生まれつきのフェロモンと美しい容姿のせいで、みんな失神してしまうのだ。
このままでは結婚相手など見つかるはずもないと落ち込み、なかば諦めかけていたところ、自分のフェロモンが全く効かない令嬢に出会う。
運命の相手だと執着する王子と、社交界に興味の無い、フェロモンに鈍感な貧乏子爵令嬢の恋のお話です。
ゆるい話ですので、軽い気持ちでお読み下さいませ。
【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない
金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ!
小説家になろうにも書いてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる