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最終話 これからも
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「ユリウス様、本当にお世話になりました」
「とんでもないです。ティアさんには返しても返しきれない恩がありますから」
「しっかり魔力が戻れば、肥料作りを再開しようと思います」
「ティアさんの肥料、楽しみにしていますね」
「みなさんにもよろしくお伝えください」
もう、日はすっかり沈んでいた。領民たちはみんな帰っている。
ちゃんと挨拶ができていないことは心苦しいけれど、また会いにくることはできる。
私はユリウス様に見送られ、シオン様と共にグラーツ家へと戻ってきた。
玄関にはマシューさんや使用人たちが待ってくれていた。
「戻って、来てしまいました」
「ティア様、おかえりなさい」
「ずっと待っていましたよ」
「お部屋もそのままにしていますので、ゆっくり休んでくださいね」
突然出ていったのに、嫌な顔ひとつせず、戻ってきた私を笑顔で迎えてくれる。
こんなにも大切にされていたことを今さらになって気づいた。
「ヴェルシードの実のことを調べて教えてくれたのはマシューなんだ。この実なら、ティアの魔力を戻すことができるんじゃないかって」
「そうだったのですね。マシューさん、ありがとうございます」
「いえいえ、探しに行ったのはシオン様ですから」
後でマシューさんからこっそり聞いた話によると、私がジーク領にいることもマシューんさんが貴族執事会の情報網を使って調べたのだそう。
私の居場所を知っていたのにずっと言わなかったから、このことはシオン様には内緒だとおちゃめな顔で笑っていた。
そして、久しぶりの寝室。
緊張しながらベッドに入った。
隣に寝転ぶシオン様はさっきからじっと私のことを見ている。
「あの、顔になにか付いていますか?」
「ううん。ティアが隣にいることが嬉しくて」
真っ直ぐな言葉に顔が火照ってくる。
きっと今までもシオン様はこうやって気持ちを伝えてくれていた。それに気付けていなかった。
「私も、またこうしてシオン様のそばにいられて嬉しいです」
微笑み返すとギュッと手を握ってくる。
触れるのは初めてではないのに、シオン様の気持ちを知った後だとなんだかドキドキする。
愛されているから、触れてくるんだと思うと、今までとは違う行為に感じる。
手を繋ぐってこんなにも温かくて幸せなんだ。
「そういえば、どうして僕とクラウドが思い合っている、なんて勘違いしてたの?」
「それは……学園時代、お二人がいつも一緒にいて、互いにしか見せない顔を見せあったり、頬をくっつけたりしているのを見て……」
「頬をくっつける?! そんなことしたかな」
「校舎裏の木の下で、シオン様がクラウド様の肩を押さえるようにして……」
「ああ、それはたぶん……クラウドの耳の上にケムシが落ちてきて、触るのが嫌だったから息を吹いて飛ばした時のことかな?」
ケムシを飛ばしてた……。頬を寄せていたのはそのためだったんだ。
他に意味はない。本当に、私の勘違いだったんだな。
「でも、お二人の仲が良いことには変わりませんね」
「気心知れた関係ではあるかな。でも、クラウドが僕のことを好きだなんてことはないよ」
「では、クラウド様の好きな人とは誰なのでしょう」
「クラウドが、好きな人がいるっていったの?」
「はい。ですが、一緒になるつもりはないと。相手が笑っていてくれたらそれでいいのだと言っていました」
てっきり、シオン様のことだと決めつけていた。
男性同士だから一緒にはなれない。だから一人でいいんだと言っているのだと思っていた。
「クラウドがそんなことを……」
「シオン様はお相手が誰か知っているのですか?」
「いや、僕も知らないよ。でも、クラウドにも幸せになってもらいたいね」
「そうですね」
クラウド様にはたくさんお世話になった。たくさん迷惑もかけた。
慕っている相手が誰なのかはわからないけれど、クラウド様にも一緒にいようと思える相手が現れてくれたらいいのになと思う。
「ティア、これからもずっとそばにいてね」
「はい。不束者ですが、よろしくお願いします」
――朝、窓から差し込む朝日で目が覚める。
でも、まだ目は開けない。いや、うっすらとだけ開けておく。
艶やかなブロンドの髪に、白い肌に長いまつ毛。
隣で眠るシオン様の美しい寝顔を拝みながら、寝たふりを決め込む。
しばらくすると、シオン様はそっと起きだし、隣にいる私の頭をそっと撫でてから、身支度を整えていく。
シオン様が部屋から出て行ったことを確認すると、私も起き上がり、窓際へ移動する。
そして、カーテンの隙間から中庭を覗く。
「はぁ……尊い」
シオン様はしばらく稽古を休んでいたらしいけれど、また再開された。
クラウド様と剣を交える姿はいつ見ても美しくて尊い。
私はやっぱり、お二人の姿を見るのが好きだ。
一緒になって欲しい、なんてことはもう思っていない。
思い合っているというのは、私の勘違いだったとわかったから。
シオン様は、私の愛する旦那様だから。
けれど、尊いものは尊いのだ。
真剣な表情で向かい合い、時折無邪気に笑い合い、二人の間でしか見せない表情がある。
この光景は、私の人生になくてはならない存在なのだ。
だからこれからも私は、お二人のことをこっそり見守り続けていく。
「とんでもないです。ティアさんには返しても返しきれない恩がありますから」
「しっかり魔力が戻れば、肥料作りを再開しようと思います」
「ティアさんの肥料、楽しみにしていますね」
「みなさんにもよろしくお伝えください」
もう、日はすっかり沈んでいた。領民たちはみんな帰っている。
ちゃんと挨拶ができていないことは心苦しいけれど、また会いにくることはできる。
私はユリウス様に見送られ、シオン様と共にグラーツ家へと戻ってきた。
玄関にはマシューさんや使用人たちが待ってくれていた。
「戻って、来てしまいました」
「ティア様、おかえりなさい」
「ずっと待っていましたよ」
「お部屋もそのままにしていますので、ゆっくり休んでくださいね」
突然出ていったのに、嫌な顔ひとつせず、戻ってきた私を笑顔で迎えてくれる。
こんなにも大切にされていたことを今さらになって気づいた。
「ヴェルシードの実のことを調べて教えてくれたのはマシューなんだ。この実なら、ティアの魔力を戻すことができるんじゃないかって」
「そうだったのですね。マシューさん、ありがとうございます」
「いえいえ、探しに行ったのはシオン様ですから」
後でマシューさんからこっそり聞いた話によると、私がジーク領にいることもマシューんさんが貴族執事会の情報網を使って調べたのだそう。
私の居場所を知っていたのにずっと言わなかったから、このことはシオン様には内緒だとおちゃめな顔で笑っていた。
そして、久しぶりの寝室。
緊張しながらベッドに入った。
隣に寝転ぶシオン様はさっきからじっと私のことを見ている。
「あの、顔になにか付いていますか?」
「ううん。ティアが隣にいることが嬉しくて」
真っ直ぐな言葉に顔が火照ってくる。
きっと今までもシオン様はこうやって気持ちを伝えてくれていた。それに気付けていなかった。
「私も、またこうしてシオン様のそばにいられて嬉しいです」
微笑み返すとギュッと手を握ってくる。
触れるのは初めてではないのに、シオン様の気持ちを知った後だとなんだかドキドキする。
愛されているから、触れてくるんだと思うと、今までとは違う行為に感じる。
手を繋ぐってこんなにも温かくて幸せなんだ。
「そういえば、どうして僕とクラウドが思い合っている、なんて勘違いしてたの?」
「それは……学園時代、お二人がいつも一緒にいて、互いにしか見せない顔を見せあったり、頬をくっつけたりしているのを見て……」
「頬をくっつける?! そんなことしたかな」
「校舎裏の木の下で、シオン様がクラウド様の肩を押さえるようにして……」
「ああ、それはたぶん……クラウドの耳の上にケムシが落ちてきて、触るのが嫌だったから息を吹いて飛ばした時のことかな?」
ケムシを飛ばしてた……。頬を寄せていたのはそのためだったんだ。
他に意味はない。本当に、私の勘違いだったんだな。
「でも、お二人の仲が良いことには変わりませんね」
「気心知れた関係ではあるかな。でも、クラウドが僕のことを好きだなんてことはないよ」
「では、クラウド様の好きな人とは誰なのでしょう」
「クラウドが、好きな人がいるっていったの?」
「はい。ですが、一緒になるつもりはないと。相手が笑っていてくれたらそれでいいのだと言っていました」
てっきり、シオン様のことだと決めつけていた。
男性同士だから一緒にはなれない。だから一人でいいんだと言っているのだと思っていた。
「クラウドがそんなことを……」
「シオン様はお相手が誰か知っているのですか?」
「いや、僕も知らないよ。でも、クラウドにも幸せになってもらいたいね」
「そうですね」
クラウド様にはたくさんお世話になった。たくさん迷惑もかけた。
慕っている相手が誰なのかはわからないけれど、クラウド様にも一緒にいようと思える相手が現れてくれたらいいのになと思う。
「ティア、これからもずっとそばにいてね」
「はい。不束者ですが、よろしくお願いします」
――朝、窓から差し込む朝日で目が覚める。
でも、まだ目は開けない。いや、うっすらとだけ開けておく。
艶やかなブロンドの髪に、白い肌に長いまつ毛。
隣で眠るシオン様の美しい寝顔を拝みながら、寝たふりを決め込む。
しばらくすると、シオン様はそっと起きだし、隣にいる私の頭をそっと撫でてから、身支度を整えていく。
シオン様が部屋から出て行ったことを確認すると、私も起き上がり、窓際へ移動する。
そして、カーテンの隙間から中庭を覗く。
「はぁ……尊い」
シオン様はしばらく稽古を休んでいたらしいけれど、また再開された。
クラウド様と剣を交える姿はいつ見ても美しくて尊い。
私はやっぱり、お二人の姿を見るのが好きだ。
一緒になって欲しい、なんてことはもう思っていない。
思い合っているというのは、私の勘違いだったとわかったから。
シオン様は、私の愛する旦那様だから。
けれど、尊いものは尊いのだ。
真剣な表情で向かい合い、時折無邪気に笑い合い、二人の間でしか見せない表情がある。
この光景は、私の人生になくてはならない存在なのだ。
だからこれからも私は、お二人のことをこっそり見守り続けていく。
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