初夜った後で「申し訳ないが愛せない」だなんてそんな話があるかいな。

ぱっつんぱつお

文字の大きさ
27 / 27

はじまりのカフェ

しおりを挟む
 
「奥さま、もうお身体は大丈夫なんですか?」
「ぅ゙……。う~ん、まぁ……そこそこ……」

 そうですか、なんて何かもっと言いたそうな顔で見るメイドたち。
 ふん。どうせ私は旦那様の性欲に負ける軟弱な女ですよ。全く。
 今に見てなさいな。これから強くなってやるんだから。

 未だに立ち上がる際、力が入らなくてコケっとなるが、ふつうに歩けるぐらいまでは回復した。
 ここまで回復するのに三日も掛かったのだから情けなくもなるってもんよ。
(結婚する前は一日中海で泳いでも次の日に響くなんてことなかったのに……!)

「ふう」

 朝食を食べようとダイニングの椅子に座ると思わず漏れる息。
 それにまた何か言いたそうな顔で見るメイド、とその他使用人たち。
(く、くやしい……鍛えねば……)

「あ、そうですわ奥さま!」
「どうしたの?」
「奥さま宛にお手紙が来たのです。昨日はお疲れのようだったのでお渡ししなかったのですが……」
「わたし宛て?」

 はて、こんな私に手紙なんて来るのか、まさか果し状かしらと、宛名を見ると、そこには『モーラ·ブリナー』と書いてある。

「はッ……!」

 そうだ。何やかんやあってすっかり忘れていた。
 ブリナー男爵家のモーラさん。お義姉さまに会うため参加したパーティーでお友達になった方だ。
 婚約破棄されて、教師になって、公爵家にも教えに行ってるとかなんとか。
 今度お茶しましょうって話になったのよね。

「奥さまったらいつ知り合ったんですか……! 釣りばっかしてるくせに!」
「そうですよっ! だってあの超名門学園の教師でしかも筆頭公爵家にまでわざわざ呼ばれるくらい人気の先生ですよ!?」
「釣りばっかとはなんだとは言えないのが悔しい!! けど知り合っちゃったものは知り合っちゃったのよ。この前のパーティーでねっ! 帰ってすぐに言おうとしたんだけど旦那様にキノコ生えてたからさ。忘れてたわ」
「ああ……。なら仕方ないですね」
「そうでしょう? ……というかモーラさんてそんなにすごい方なの……?」

 恐る恐る聞いてみると、『そりゃもうあったりめーよう!』と、胸を張り得意げに答えるメイド達。
 どうやらモーラさんは学園もユニバーシティも首席で卒業しているらしい。
(とんでもねー秀才じゃねーか……!)

 なんか失礼なこととか言ってねーだろうかと考えてみるが今更どうも出来るわけないので、取り敢えず会った時に謝ることにしよう。

 兎にも角にもお返事を書かなくてはならない。
 しかしこんな洒落た便箋で超絶綺麗な字でお茶のお誘いとか私はどう返事をすれば良いのか。
 なんにも分からないけど一旦下書きするか。こんなでも店やってたし。

 さらさら~っと下書きし終わったものをいざメイド達に見せてみると、「ふう~ん……、まぁまぁ良いじゃないですか。しかも字がきれい……」とかまるで肩透かしな反応をしやがる。
 ったく失礼なやつらめ。(※棚上げ状態)








 そして後日──、王都のお洒落すぎるカフェにて。

「ううう、どれも美味しそう……」
「迷ったら“本日の気まぐれ”がお勧めですよ。店長さんやスタッフの方が気まぐれでドリンクとデザートをセットにして下さいますので。苦手なものがあれば注文の時にこれ以外でって指定すれば除外してくれますし」
「じゃあそれにしようかしら!」

 堅苦しいのは嫌な性格なのでお気楽にお喋りしましょうと、待ち合わせ場所の噴水で決めた私たち。
 なんたって“お友達”なんだから。

「ふむ。この注文の仕方は良いですね。ウチの店でもいけそうな気がするわ」
「そっか。エマ様のご実家はレストラン経営をされているんですよね。いいな、私もいつか行きたいです」
「是非来て下さいよ! なんなら今度領地でお祭りなので!」
「う~ん……行きたいのは山々なんですが片道一週間だとほぼ一ヶ月丸々休みになってしまうので……。学園の夏季休暇と被ると少し厳しいかと……」

 首席で卒業して出来が違うと、たとえ学園が休みでも忙しいのかと驚愕した。
(学園が休みでも勉強したいって生徒が居ると? エライコッチャ……。まぁ学生の夏休みは貴重だものね……)

「アハハ……そうですよね。私も嫁ぐときちょっとした旅行だったもの……。辺境伯とはその名の通……あっ!」
「な、なんです……!?」
「そういえば私が使える船を買ってはどうかって侯爵家うちの執事に提案されたからそのままお願いしたんだったわ!」
「まあ! 船を?」
「そうなのよ」

 シルバーは『奥さまはお選びにならなくて良いのですか?』って言ってたけど、『いいけど私が選ぶと漁船になるわよ』って返したら『ホホホホ』と笑顔でカタログを全回収された。

「ったく失礼しちゃうわ!」
「ぎょ、漁船……。というかエマ様は船舶免許をお持ちなのですか……?」
「そりゃもちろん! フィッシャー家の娘に生まれたのだから当然よ!!」
「当然……!? す、すごいです……私にはまだまだ知らないことがたくさんあるのですね……」

 そう。船があれば実家にだってすぐに帰れる。
 山を越えたり列車や馬車を乗り継がなくったって良いのだ。

「なので片道2日あれば着くかと」
「2日ですか……!?」
「どうです? 私の船に乗って一緒に祭りに行きませんか?」

 とは言え忙しくて予定が空けられないだろうなと思ったが、意外にも二つ返事で「是非行かせてください……!」との事。
 お願いされる側の先生だから、予定の融通は利くらしい。
 ナルホド。改めてすごい方なのだな。

「じゃあ決まりですね! 宿泊は実家うちでよければどうぞ」
「!! 良いのですか!? 友人のお家にお泊りだなんて学生以来だわ! すごく楽しみです!」
「ふふ、そういえば。うちのメイド達が“モーラ様といえば学園もユニバーシティも首席で御卒業されてそれはそれはもうすっごくすごいんですからねっ!?”って耳にタコが棲み着くぐらい言われましたよ。なのに私ったら随分失礼なことばっかり言って……」
「いいえいいえ! 気を張らずに会話出来るのがとても楽しいのでどうかお気になさらず! 裏表の無いエマ様が眩しいくらいです! それに正直な話、頭だけが良くってもね。可愛げなんてこの通り微塵もないですから」
「は? どこの部分のこと言ってやがってんでやんでい。私よりお淑やかじゃねーか。ハッ──、まさか、そう言われたことが?」
「ふふっ、……ええまぁ、ハイ……婚約破棄を突きつけられた時に……」
「ほんッとにクソヤローですね!
「ふふふっ! 本当に……、今思うと、ホントに本当に糞野郎でしたね! でも、当時は結構その言葉が響いちゃって……私って可愛くないんだ、って。彼の隣で隠しきれない笑みを浮かべた親友の顔が……今でも……」
「その女隣に居やがったのか。ったく何て女だ。性根が腐ってやがんな」

 私が“つい口を滑らせて”そう言うと、泣いているのを誤魔化すみたいに、顔をシワシワにして笑っていた──。

しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

deko
2025.08.06 deko

更新嬉しいです。暑い夏にぴったりな作品、続きを楽しみにしております。

解除

あなたにおすすめの小説

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

【完結】16わたしも愛人を作ります。

華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、 惨めで生きているのが疲れたマリカ。 第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

勘違い妻は騎士隊長に愛される。

更紗
恋愛
政略結婚後、退屈な毎日を送っていたレオノーラの前に現れた、旦那様の元カノ。 ああ なるほど、身分違いの恋で引き裂かれたから別れてくれと。よっしゃそんなら離婚して人生軌道修正いたしましょう!とばかりに勢い込んで旦那様に離縁を勧めてみたところ―― あれ?何か怒ってる? 私が一体何をした…っ!?なお話。 有り難い事に書籍化の運びとなりました。これもひとえに読んで下さった方々のお蔭です。本当に有難うございます。 ※本編完結後、脇役キャラの外伝を連載しています。本編自体は終わっているので、その都度完結表示になっております。ご了承下さい。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。