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はじまりのカフェ
しおりを挟む「奥さま、もうお身体は大丈夫なんですか?」
「ぅ゙……。う~ん、まぁ……そこそこ……」
そうですか、なんて何かもっと言いたそうな顔で見るメイドたち。
ふん。どうせ私は旦那様の性欲に負ける軟弱な女ですよ。全く。
今に見てなさいな。これから強くなってやるんだから。
未だに立ち上がる際、力が入らなくてコケっとなるが、ふつうに歩けるぐらいまでは回復した。
ここまで回復するのに三日も掛かったのだから情けなくもなるってもんよ。
(結婚する前は一日中海で泳いでも次の日に響くなんてことなかったのに……!)
「ふう」
朝食を食べようとダイニングの椅子に座ると思わず漏れる息。
それにまた何か言いたそうな顔で見るメイド、とその他使用人たち。
(く、くやしい……鍛えねば……)
「あ、そうですわ奥さま!」
「どうしたの?」
「奥さま宛にお手紙が来たのです。昨日はお疲れのようだったのでお渡ししなかったのですが……」
「わたし宛て?」
はて、こんな私に手紙なんて来るのか、まさか果し状かしらと、宛名を見ると、そこには『モーラ·ブリナー』と書いてある。
「はッ……!」
そうだ。何やかんやあってすっかり忘れていた。
ブリナー男爵家のモーラさん。お義姉さまに会うため参加したパーティーでお友達になった方だ。
婚約破棄されて、教師になって、公爵家にも教えに行ってるとかなんとか。
今度お茶しましょうって話になったのよね。
「奥さまったらいつ知り合ったんですか……! 釣りばっかしてるくせに!」
「そうですよっ! だってあの超名門学園の教師でしかも筆頭公爵家にまでわざわざ呼ばれるくらい人気の先生ですよ!?」
「釣りばっかとはなんだとは言えないのが悔しい!! けど知り合っちゃったものは知り合っちゃったのよ。この前のパーティーでねっ! 帰ってすぐに言おうとしたんだけど旦那様にキノコ生えてたからさ。忘れてたわ」
「ああ……。なら仕方ないですね」
「そうでしょう? ……というかモーラさんてそんなにすごい方なの……?」
恐る恐る聞いてみると、『そりゃもうあったりめーよう!』と、胸を張り得意げに答えるメイド達。
どうやらモーラさんは学園もユニバーシティも首席で卒業しているらしい。
(とんでもねー秀才じゃねーか……!)
なんか失礼なこととか言ってねーだろうかと考えてみるが今更どうも出来るわけないので、取り敢えず会った時に謝ることにしよう。
兎にも角にもお返事を書かなくてはならない。
しかしこんな洒落た便箋で超絶綺麗な字でお茶のお誘いとか私はどう返事をすれば良いのか。
なんにも分からないけど一旦下書きするか。こんなでも店やってたし。
さらさら~っと下書きし終わったものをいざメイド達に見せてみると、「ふう~ん……、まぁまぁ良いじゃないですか。しかも字がきれい……」とかまるで肩透かしな反応をしやがる。
ったく失礼なやつらめ。(※棚上げ状態)
そして後日──、王都のお洒落すぎるカフェにて。
「ううう、どれも美味しそう……」
「迷ったら“本日の気まぐれ”がお勧めですよ。店長さんやスタッフの方が気まぐれでドリンクとデザートをセットにして下さいますので。苦手なものがあれば注文の時にこれ以外でって指定すれば除外してくれますし」
「じゃあそれにしようかしら!」
堅苦しいのは嫌な性格なのでお気楽にお喋りしましょうと、待ち合わせ場所の噴水で決めた私たち。
なんたって“お友達”なんだから。
「ふむ。この注文の仕方は良いですね。ウチの店でもいけそうな気がするわ」
「そっか。エマ様のご実家はレストラン経営をされているんですよね。いいな、私もいつか行きたいです」
「是非来て下さいよ! なんなら今度領地でお祭りなので!」
「う~ん……行きたいのは山々なんですが片道一週間だとほぼ一ヶ月丸々休みになってしまうので……。学園の夏季休暇と被ると少し厳しいかと……」
首席で卒業して出来が違うと、たとえ学園が休みでも忙しいのかと驚愕した。
(学園が休みでも勉強したいって生徒が居ると? エライコッチャ……。まぁ学生の夏休みは貴重だものね……)
「アハハ……そうですよね。私も嫁ぐときちょっとした旅行だったもの……。辺境伯とはその名の通……あっ!」
「な、なんです……!?」
「そういえば私が使える船を買ってはどうかって侯爵家の執事に提案されたからそのままお願いしたんだったわ!」
「まあ! 船を?」
「そうなのよ」
シルバーは『奥さまはお選びにならなくて良いのですか?』って言ってたけど、『いいけど私が選ぶと漁船になるわよ』って返したら『ホホホホ』と笑顔でカタログを全回収された。
「ったく失礼しちゃうわ!」
「ぎょ、漁船……。というかエマ様は船舶免許をお持ちなのですか……?」
「そりゃもちろん! フィッシャー家の娘に生まれたのだから当然よ!!」
「当然……!? す、すごいです……私にはまだまだ知らないことがたくさんあるのですね……」
そう。船があれば実家にだってすぐに帰れる。
山を越えたり列車や馬車を乗り継がなくったって良いのだ。
「なので片道2日あれば着くかと」
「2日ですか……!?」
「どうです? 私の船に乗って一緒に祭りに行きませんか?」
とは言え忙しくて予定が空けられないだろうなと思ったが、意外にも二つ返事で「是非行かせてください……!」との事。
お願いされる側の先生だから、予定の融通は利くらしい。
ナルホド。改めてすごい方なのだな。
「じゃあ決まりですね! 宿泊は実家でよければどうぞ」
「!! 良いのですか!? 友人のお家にお泊りだなんて学生以来だわ! すごく楽しみです!」
「ふふ、そういえば。うちのメイド達が“モーラ様といえば学園もユニバーシティも首席で御卒業されてそれはそれはもうすっごくすごいんですからねっ!?”って耳にタコが棲み着くぐらい言われましたよ。なのに私ったら随分失礼なことばっかり言って……」
「いいえいいえ! 気を張らずに会話出来るのがとても楽しいのでどうかお気になさらず! 裏表の無いエマ様が眩しいくらいです! それに正直な話、頭だけが良くってもね。可愛げなんてこの通り微塵もないですから」
「は? どこの部分のこと言ってやがってんでやんでい。私よりお淑やかじゃねーか。ハッ──、まさか、そう言われたことが?」
「ふふっ、……ええまぁ、ハイ……婚約破棄を突きつけられた時に……」
「ほんッとにクソヤローですね!
「ふふふっ! 本当に……、今思うと、ホントに本当に糞野郎でしたね! でも、当時は結構その言葉が響いちゃって……私って可愛くないんだ、って。彼の隣で隠しきれない笑みを浮かべた親友の顔が……今でも……」
「その女隣に居やがったのか。ったく何て女だ。性根が腐ってやがんな」
私が“つい口を滑らせて”そう言うと、泣いているのを誤魔化すみたいに、顔をシワシワにして笑っていた──。
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