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海の底に忘れた記憶
しおりを挟む「ねぇみんな見て! 海の底ですごいもの拾っちゃったのよ!」
屋敷に帰り、大漁の雲丹を見せびらかしたあと、道中メイドにも勿体ぶっていた“あるもの”をポケットから取り出した。
かなり劣化しているように見えるが、当時それはそれは美しい輝きを放っていたであろうエメラルドの首飾り。
砂や潮に侵されフジツボなんかも付いてたりで本来の輝きが戻るのかどうか不安だが、都会の職人ならある程度戻してくれそうだ。
「良いでしょ? 海賊が落としたお宝かしら! ロマンあるわね!」
「ええ!? 海賊ですかぁ? だとしたらいつの時代のものですかぁ!」
「ちょ、ちょっと待って!? まさかそれ……!」
なんて話していたらメイド長が人集りを押し退けて先頭へとやってくる。
一体どうしたと驚いてメイド達と揃って眺めていれば、メイド長のマリーゴールドは震える手でその首飾りを手に取った。
「こ、これ……! 間違い無いです!! これは大奥様の首飾りです……!」
「「「ええ!?」」」
揃って驚いたのは言うまでも無い。
マリーゴールドは慌てて執事のシルバーを呼び確認してもらうと、やはり大奥様のもので間違いないそうだ。
しかし何でまたお義母様の首飾りが海に沈んでいるのか。その理由を教えてくれたのはシルバーだった。
「──あれは、旦那様が7歳のとき……。親子三人であの島へ遊びに行ったときのことです。当時ジョセフ様にはどうやら好いている女の子が居たらしく、母のオーブリー様は諭すように“いつかは家を継いで家のために結婚しなければならないのよ”と教育したそうです」
「そうしたらジョセフお坊ちゃまったら怒ってオーブリー様の大切な首飾りを取って海に放り込んでしまったんですよ! 本当にもう!」
子供といえどやっちゃいけない事ぐらい分かってたでしょうに、とマリーゴールド。ぷんぷこ怒る彼女をまぁまぁとなだめるシルバー。
勿論そのあとこっぴどく叱られたようだが、確かに子供にしてはちょっとやり過ぎなような。
「ジョセフお坊ちゃまは昔からそうなんです。優秀で褒められることに慣れてしまったのか、反対されるとカッとなって反対された道にどんどん行きたがるんです。そりゃあれからもう随分と大人にはなりましたけど……クリスティーヌ様のことだって……情熱的といえばそうなのですが……」
「マリーゴールド、“お坊ちゃま”に戻ってますよ」
「あらヤダ本当ね」
クリスティーヌ様って確か子爵家の方って侍女が言ってたわね。家柄でいうと結婚はさせてもらえなそうだわ。目立った産業も特に無いし、メリットも無い。
それにそうやって聞くとなんだか愛してるから別れたくないんじゃなくて反対されたからムキになって恋人ごっこしているみたいだわ。
「ふ~~ん、そうなのね。反骨精神ってやつかしら。親に反対されたからクリスティーヌ様と関係を続けているんだとしたらそんなのただの子供じゃない。相手にも失礼よ」
「ぶはっ! やだ奥さまったら~! 痛いとこ突いてあげないで下さいよ~! 旦那様はあれでも結構傷つきやすいんですよ~?」
「んなまさかー! だって初夜にヤリ捨てするような男よ!? 繊細なわけ無いじゃない!」
「本当なんですって! それこそ反骨精神でやってた行動で誰かを傷付けてしまったとき、ものすんごく落ち込むんですから! いつまでもうじうじしちゃって」
「えー??」
「こらこらナタリーったら。本当のことでもそんな大声で言うんじゃありません」
「ハイっ、申し訳ありませんっ!」
マリーゴールドがそう止めるのだから本当なのね。あの威勢の良い旦那様がうじうじするとは思えないわ。
ま、私が傷付くことなんて滅多に無いし関係のない話か。
──「お前たちそんなところで集まって一体何をしているんだ! 迎えもなしに!」
あははは、と笑い合っているところに邪魔が入る。うわ、と思い振り返れば予想通りの人物。
何故ココにいらっしゃるのですか旦那様。あなたクリスティーヌ様ときゃっきゃウフフしてるんじゃないんですか。
「は? 何で居んの?」
しまった。うっかり頭に留めておくべき言葉がポロッと出てしまった。しかも頭の中の言葉と口に出した言葉が逆だった。こりゃ失敬。
「なッ! ななななんで居んのとはどっ、どういう意味だ……!」
「ゲフンゲフン、失礼致しました、口が勝手に動いてしまいまして」
「自分の意志を無視して勝手に動くわけ無いだろう! どういう意味かハッキリと申してみよ!」
「いやそのまんまの意味ですが。逆になにか意味あるんですか?」
「そっ、そのまんま……!? こ! 此処は私の屋敷だぞ!」
「今は私の屋敷でもありますけど。で、何で居るんですか? クリスティーヌ様は?」
「なッ、何でって! それはッ、そのっ……エマの、からっ、からだがその……」
「カラっカラだが……? 何がカラカラなんですか。喉ですか? まさか飲み物を飲みに来たんですか? ナニソレ意味分かんない。ナタリー、何か飲むものを用意してあげて」
承知しましたと急ぐナタリー。なんだか笑いを堪えてるように見える。あらやだまた口に出ちゃってたかしら。侯爵家の妻だっていうのに。全く侯爵の妻って難しいわね。なんて今度はちゃんと頭の中で留めておく。
するとマリーゴールドは一つ咳払いをし、美しいお辞儀をした。
「旦那様、お帰りなさいませ。お久し振りでございます。奥さまが海の底でこちらを拾われたそうですよ。旦那様なら見覚えがあるのではないですか?」
かなりチクリンコした言い方で旦那様を迎えると、これまたチクリンコな言い方で首飾りを見せた。
面白いぐらい絵に描いたような表情で驚愕されている。
フフン。存分に驚いてこの私に感謝の意を述べてもよろしくってよ旦那様。
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