初夜った後で「申し訳ないが愛せない」だなんてそんな話があるかいな。

ぱっつんぱつお

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不可避

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「まさかあのとき言っていた“良いもの”って……これのことだったのか……?」
「そうですよ。聞くところによればお義母様のものらしいじゃないですか。自分の手で返しますか?」
「ッ……、こんな、汚いもの返したところで……今更どうなると言うんだ……」
「はぁ? 汚ねぇっててめぇが投げ捨てといて何言ってんだよ」
「………………なに?」
「なに!? なんです!? 何か言いました!?」

 時が止まる旦那様の顔を見て、またとんでもねぇ言葉が溢れていることに気がついた。誤魔化せそうもないけど取り敢えず惚けてみる。
 そんなところへナタリーが「おっ! 待ったせ致しましたぁーーっ!!」と冷たいレモン水を旦那様の前に差し出す。
 ナイスタイミングだナタリーよ。おら飲めよと顔面に押し付けるように差し出すナタリーはもしかしたら奥さまワタシに似てきたかもしれない。エライコッチャ。

 喉がカラカラだと言った手前飲まないわけにもいかず、旦那様はしぶしぶ話を中断してコップを手に取った。私はすかさず話の流れを戻す。

「それで! ……この首飾りはどうなさるおつもりですか?」
「ッ……好きにしろ」
「あっそうですか」

 ばつが悪そうな、不機嫌そうな、そんな面持ちでぐいとレモン水を飲み干した旦那様。謎い用事は済んだから恋人の元へ帰るのだと思い促したのだが、何故か旦那様は否定する。何故。

「今日はここに泊まる」
「いや何故」
「それは、あれだ、その……帰るのが面倒だからだ」
「あ゙?」

(このクソボケは新婚早々別居宣言しておいて何いってんだよオイ、あ゙ぁ゙!?)
 今度こそ言いたい言葉をグッと呑み込んで我慢するが、我慢出来なかった顔芸が代わりに披露される。そして旦那様が驚いている。
 イケナイ。こんな調子じゃあ育ちの荒さがバレてしまう。私は侯爵家の妻なのに。

「ゲっフンゲっフン。左様でございますか。でしたら穫れたての雲丹はお召し上がりになります? 味は美味しいかどうか分からないのでパスタがオススメですけど」
「ま、まるで自分が調理するみたいに言うじゃないか」
「そうですよ? 私が調理致しますが」
「は? まさか。冗談はよせ」
「何ですか。実家がレストランなんですから出来ますよ。ネイサンは魚料理が苦手らしいので私が漁師めしを教えてるんです」
「なッ! ネイサンとは誰だ!? まさか男を連れ込んで……!」
侯爵家ここで働いてる新米料理人ですが。知らないなんてこと……」
「い、いや、そうか……。ごほん……そのー……、大漁だのと申していたがその雲丹もまさか島で……」
「ええ」
「本当に君が獲ったのか? 底まで潜って?」
「はい。潜ったこと無いんですか?」
「ない」
「そうですか」

 ・・・てんてんてん、二人の間に沈黙が流れる。これ以上会話しても時間の無駄になりそうなので「じゃ、そゆことで」と面倒くせぇから逃げてやった。
 この人ホントに社交界で人気の殿方なのかしら。話せば話すほど片鱗も感じなくなっている自分がいる。なんか弱そうだし。
(そりゃ見た目は抜群にスマートなんだけどさー。海の男とは大違いよ全く。洗練さが違うわよね。あいつ等は“男”っていうより“漢”だもの)

「さぁーてと。ネイサン、今日は雲丹のパスタよ!」
「今夜は旦那様の分もですね」
「ええ、ありゃ不可避だったわ……」

 顔芸を披露しといてなんだけど嫌味にクスクスと笑うネイサンも、もしかしたら奥さまワタシに似てきたかもなと思う今日このごろだった。

「下準備を始めましょうか」
「はい!」

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