初夜った後で「申し訳ないが愛せない」だなんてそんな話があるかいな。

ぱっつんぱつお

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__人魚の脚は何処へゆく。

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 パーティー当日──。

「はぁ……奥さま……すてき……」
「ええ本当に……。まるで本物の人魚です……」
「うぅん、今日だけでもう10回は聞いた気がするわ」

 緩やかなウェーブが艶めく赤毛をサイドに流し、丁寧に編まれた三つ編み。それからダイヤモンドの髪飾り。
 オフショルダーのマーメイドライン。全身を鱗のように覆うスパンコールは、ティールグリーンからディープブルーのグラデーション。派手に見えないのはサウンズブルーの姉妹ブランドだからだろう。

「ではお気を付けてくださいませね……!?」
「旦那様に会ったら投げ飛ばしても良いですからね!?」
「あはは! まぁ会わないことを祈るわよ! じゃあ行ってくるわね!」

 ポートマン侯爵家の新妻、エマは、久し振りに義理の姉に会うため王立文化ホールまでやって来た。此処へ来るのは6歳以来だった。
 パーティーとは王都で云う“お祭り”だと父が言うから、遠い道程を我慢して付いてきたものの、子供ながら『つまらない』と感じたのを覚えている。
 てっきりエーコラワッショイするのかと思っていたが、エマの想像していたアレとは全く違っていた。
 だから周りが『エマ』という人間を知らないのも無理はないのかもしれない。

──「おい見ろよあの女性、お前知ってるか?」
──「いや……知らないな……。お前は?」
──「いや俺も見たこと無い」

 互いに確認して納得して上から下まで眺めると、皆等しくゴクリと喉を鳴らす。

──「いやぁ……それにしても魅力的な……」
──「お前もそう思うか? だって赤毛だぜ? 妹とかなんじゃないのか?」
──「ああ、太陽のアデレード様のか? 確かにあり得るよな」

 そんなことより先に気になるのは、パートナーの有無だった。
 魅力的、もとい魅惑的な赤毛の彼女は、ずっと誰かを探しキョロキョロと動き回っているのだ。その様子を見つめているどの男性とも目が合わないので誰も声をかけることが出来ない。
 共に参加しているパートナーがただの家族なら良いのに…と遊び盛りな貴族男性は視界の端で追っている。

「お前ら何見てるんだ? 会話もしないで」

 そんなところへ顔を出したのは最近結婚したジョセフだった。
 儚く可憐な新妻と仲良く腕を組み、今夜のパーティーも参加している。
 学園の頃から仲良くしているジョセフ曰く、“夜は娼婦”らしいクリスティーヌ。こんな人と結婚しただなんて羨ましい限りだ。

「おおジョセフ。お前はもう見たか? あの赤毛の……」
「あっ、赤毛……!?」

 身に覚えのありすぎるワードに驚くジョセフだが、クリスティーヌが「太陽のアデレード様のことかしら」と可愛く傾げるのでホッと胸を撫で下ろす。そっちか、と。

「つい先程お見掛けしたがとても美しかったぞ」
「え!? ジョセフ見たのか!?」
「どうだった!?」
「一目見れば美しさのあまり固まってしまうメデューサのようだと聞いたが本当だったか!?」

 どうも集まると学生のノリが再発してしまう。卒業して三年経ったが何だかんだと頭も心も若いままだ。それにこの中で早々に結婚したのはジョセフしかいなかった。

 乗り出す男衆に「あのなぁ……」と頭を抱え、此処にはクリスティーヌも居るんだから自重してくれよと言わんばかりに“やれやれ”すると、クスクス鈴を転がしたみたいに笑うクリスティーヌ。
 そして気を利かせて「ちょっとお化粧直ししてくるわね」なんてその場を離れた。

 思惑通りに「気が利く人を選んだもんだ」と感心されるが、正に思惑通りだった。
 夫の交友関係に理解のある妻。理想的な顔に、夜は娼婦ときた。きっと彼らが何処かの誰かと結婚しても、ワタシ・・・に目が行くはず。自身の妻より友人の妻が魅力的に映るだなんて、嗚呼なんて背徳的なのかしらと嗤うクリスティーヌだった。


 一方、太陽のアデレードに話題がすり替わった男性陣。
 クリスティーヌが居なくなったことで話が盛り上がる彼らだったが、目の前に本人が現れたので大層驚いた。

「あら。あたしをお呼びかしら?」
「「「ひゃえ!?」」」

 素っ頓狂な声を上げて瞬く間に固まる男達。どうやらメデューサの噂は本当だったらしい。
 異国風のドレス。まるでジプシーのような、はたまた神に仕える巫女のような、情熱的な踊り子・太陽のアデレードに相応しい装いだった。少々の露出は踊り子の御愛嬌。

「ふふ、坊や達あたしの可愛い妹を見なかった?」

 妖艶な唇が弧を描くさまに暫し見惚れるが、そこは貴族。キリッと姿勢を正し「あぁやはり妹君だったのですね」と一人が言った。先程あの辺りで貴女を探していましたよと無駄に格好つけている。
 それを聞いたジョセフは「アデレード様には妹君がいらっしゃるのですか」と話を繋げた。彼女と会話をしたってだけでも今後酒の肴になるってものだ。

「妹といっても親戚だけどね。お父様の弟の娘なの。色気はあたしに負けるけど、はつらつとしてとっても美人なのよ」
「是非ご挨拶したいですね」

 ジョセフが何か答える前にまた格好つけて一人が言う。
 彼らはその目で見たのだから、知り合いたいと思うのが男の性というものだ。
 友人の様子に察したジョセフは、それが自分の“本物の”妻だとも知らず、ヘーソウナンダと呑気に相槌を打っている。とそんな所へまた本人が現れたのでそりゃあもう大層驚いた。

「お義姉さまやっと追い付いた! 踊り子だからってそんなにふらふらしないでくださいよ、……ッて旦那様!?」
「ッ!!? エ゙、エエエエエエエマ……!!?」
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