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酒の肴
しおりを挟む「はぁ……」
いつもの晩酌タイム。
「……はぁ」
でも今日はパーティーで飲んできたから身体のために控えめで。
「はぁ……」
一応これでも侯爵家の妻になったから。お肌のために薬用酒にして。
「…………はぁ」
「っ~~~、うるっさいですよさっきから!! ハァハァハァハァ溜息ばっかりつきやがってよォ! 辛気臭えったらありゃしねぇ!!」
風呂上がりにはすでにベッドの縁に控えてやがったこの男。
関係無いから無視してやろうと思ってたのに如何せん主張が激しい。
「すまない……。ただ……クリスティーヌを傷付けてしまった自分が許せなくてな……」
「ウッザ」
「こんな形で、終わらせてしまった……」
「ダッル」
「私は大馬鹿者だ……」
「それに関しちゃ同意しかねぇ」
「…………我が妻ながら少々冷た過ぎはしないか……!?」
「そして我儘が過ぎる」
全く。こっちが溜息つきてぇぐれぇだってやんでい。
せっかく楽しいパーティーだったのに。友達も出来てお誘いも受けたのに。最後の最後でコイツの相手とは。
「つーか妻となった私の前でよくまぁそんなにも落ち込めますね。どんな神経してやがるんだ」
「うぅ……君にだって謝りたいと思ってるんだ……。私がきちんと皆に紹介をしなかったからこんなことに……」
「はいー?? 今のとこ思ってるだけですがー??」
「ぐッ……、も、申し訳なかった……! 許してくれとは言わない! ただ私が本気でそう思ってることだけは分かってくれ!」
ふわふわのベッドの上で正座をし、これまたふわふわなベッドに額をつけての土下座。
都合の良すぎる謝罪だけどこれ以上イジっても面白くない。因果応報というかなんというか。己の行いはきっちり返ってくるのね。
何よりイジったところで私が面倒になるだけだから許してやらんこともない。
「はい、分かりました。いま謝罪を受け取りましたので、これ以上私に対してウジウジしないでくださいね。うざいから」
「許して……くれるのか……?」
「そうですよ。許さないほうが良いですか」
「い、いやそれは」
「まっ。そもそも許せないほど興味を抱いてないですし? 婚約から結婚まで急でしたから? たしかに恋人が居てもおかしくはなかったかもしれませんけどねー?」
失礼ですよね、とは言わなかったが、本人もそう思ってるフシがあったらしく、しょぼんとしている。
フフン。反省している点は褒めてやろう。
「ホントに全く。残念な旦那様ですこと。んで? 何で別れたんですか? 酒の肴になる話ですか?」
「君は……知る権利があるよな。えと、まだ飲むのか……?」
「悪ぃかよ」
「いや……悪くは……無い」
つい先程のやり取りが逆転してしまった。たぶん使用人の皆が居たら笑われていただろう。
それから旦那様は溜息、ではなく一息ついて、クリスティーヌ様と庭園へ出てからのことを話しだした。
まずパーティーの参加についてエマの話をきちんと聞かなかったことについて話し、関係を整理するため一度距離を置きたいと申し出たこと。それから子供を授かろうと迫られたことなど。
恐らく、事細かに。
色々正直な人だから、嘘はついていない、と思う。
「……私が子供を産んだら離婚しようとしてたんですか? それでクリスティーヌ様と結婚?」
「ッ……その時は……本気でクリスティーヌを愛していたから」
「……」
「嘘じゃない、本気だったんだ。本気で……、っ…………」
「こいつマジ船上だったらその面の皮剥いで帆にすんのになァ~。綺麗な面の皮はさぞかし良い風を受けんだろうよォ」
「…………申し訳無い……」
「おっと。口に出てやがったぜ」
ジッと目で圧をかけているが旦那様ったら全く目を合わさず子犬のように震えている。まさか本気で皮を剥ぐとでも思われてるのかしら。
失礼ね。いくら辺境の漁師町といえど皮を剥ぐのは魚だけだよ。
(……フム。確かに怖いかも?)
「つーかそんなに本気だったならむしろずっとそうであれよ! 何故別れる!! その方がよっぽど潔いってもんじゃあねェのか!? ぁあ!?」
「いやだからそれがそのあの、ゴニョゴニョ……」
「なに。ハッキリ喋って」
「た、たたたたなくなって」
「はい?」
「たっ、勃たなくなったんだよ……!」
「ぶふっ、やだ! EDになっちゃったんですか!?」
「違ッ!」
「あはははっ! そりゃ距離置きたいって言うわよね!」
「そうじゃなくッ!」
「ひーーっ!! まさか旦那様が! あははっ! おっかしーー! それ罰よバツ!」
「違う! 勃つには勃つんだ! ただっ、クリスティーヌに……ッ! 反応、しなくて……」
「へっ? あそうなんですか?」
コクンと虚しそうに頷く旦那様。
使い物にならなかった訳じゃないようで大変にツマンネーノだが、クリスティーヌ様に反応しないって私たちついこの間結婚したばかりなのに。プライベートアイランドにだって仲良さそうに来ていたくせに?
「ハッ! まさかそれをクリスティーヌ様に……?」
「い、言わざるを得ない状況で……。そうしたら今までのが嘘みたいに豹変して怒ってしまって……」
「ったくよォ。相手も女なんだからさァ」
「ぐっ、し、しかし一度距離を置きたいと相談したのに子供を授かりさえすれば良いと言ってベルトを外し勝手に扱いて上に跨がり性器を押し付けてきた相手に他にどう伝えれば良かったんだ……! 力尽くで止めるのは簡単だが怪我でもしたらどうする!」
「うっわぁ……」
ドン引き、ってまさに今この感情のことだわ。
なんかもう残念を通り越して可哀想。
うん。可哀想。
(……え? まさかお義姉さまったらそこまで見てたのかしら……?)
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