22 / 175
1
ワカリマスカー。意思疎通デスヨー。
しおりを挟む「陛下、お言葉ですが彼女は“出来れば放っておいてほしい”と言いました。それに書類上そうであることは間違いありませんが、堂々と婚約者として振る舞うのは如何なものかと。言葉通り、生まれた世界が違いますから。先ずは彼女が世界を知るところからでしょう」
──ギロリ。まるで余計な事を言いやがってと言いたげな瞳。それとも、だから教えてやってるんだろうとでも言いたいのか。
放っておいてほしい。確かに言いましたとも。好きでもない相手に恋人らしく振る舞われてもウザいだけ。
ただね、私が言いたいのはそういうことではないのだ。
世界を知るところから?
何を馬鹿な。私だってこの歳まで無駄に生きてきた訳じゃない。それなりの教養ぐらい身につけている。
そもそも育む愛もない、私を逃げられないようにする為のただの婚約者のくせに、なぜくだらない教養ばかり身につけているのか。
私が最初に提示した要望はどうなった。これでは話が違うではないか。大臣や神官兼研究者達も全く口出ししてこない。公爵家が恐いのか?
(いやそこは頑張れよ……!)
「公爵様。お言葉ですが、意思疎通、出来ていないと思います」
「なに?」
面倒な女が嫌いそうな公爵だから、かなりハッキリ言ってやらないと解らないだろう。陛下も私と言いたいことが同じなのか、ウンウンと頷いている。
陛下が言った意思疎通の意味を、貴方にも分からせてあげましょう。
「公爵様は先程、婚約者として振る舞うのは如何なものかと仰いましたよね。大人の面倒臭い事情で婚約者になること自体理解しておりますよ。でも実際公爵様の“婚約者”になってから私は何をしていると思いますか?」
「ふん、私が指示したことだ。それぐらいは分かっている。公爵家の婚約者として恥ずかしくない程度の教養とマナー。所謂常識だ。常識ぐらい学んでもらわねば困るからな」
「そうですね。もちろん公爵様の考えも理解しております。ただ……公爵家の婚約者として恥ずかしくない程度の、ねぇ……」
そうだ!言ってやれ!みたいな顔で続きを待っている陛下。お望みでもお望みじゃなくても言わせていただきます。
「じゃあお聞きしますけど。あなたは婚約者にピアノやバイオリンや刺繍などの教養を望んでるんですか?」
「………そんなものは、望んでいないが……」
言葉に勢いが無くなってきた。やっと私の(&陛下の)言いたい事が分かったか。でももう遅いぞ。勢いに任せて溜まったストレス全部吐き出してやるからな。
「そもそも前の世界でピアノの才能が無いことは分かっています。バイオリンだってやりたくないし、手先だって器用じゃないし、刺繍なんてやってると肩は凝るし頭は痛いし、私は身体を動かす方が好きなんです。それに公爵様だってそんな教養望んでないんですよね、やるだけ時間の無駄じゃないですか?」
「なら、」
ならそう言えば良い、って言いたいんでしょうけど。それ二度目ですからね。言わせません。
「でもですね? 公爵家の皆さんは貴方の言うことしか聞かないんですよ。公爵様が一番ご存知かとは思います。貴方の指示通りに、皆さんは動くんですよ。本当に忠犬ですね。お陰様で困ってますけど」
「んん……」
「さらに貴方がちゃんと指示してくれないと使用人の方々は限度ってものが分からないんです。恥ずかしくない程度? それはどの程度ですか?? 私はどこまで教養を身につければ気が済みますか?」
「分かったから……」
「いや、まだです。皆さん一生懸命やってくれてますよ? 私を恥ずかしくない婚約者にする為にね。それに“一応”これでも来訪者ですから? なるたけ早く国に貢献出来るようにと急いでくれてるのでしょう。ええそれはもう庭の散歩さえ許してくれないぐらいに。貴方の婚約者になって2週間、庭に出たのは屋敷を案内されて以来出ていません。ずーーっと、屋敷に籠もったままでした。私がどれほど頑張ってこの城まで辿り着いたとお思いですか?」
「待て、分かったから、」
「まだあります! ミハエルさんが来られると聞いて1日分の“常識”を半日で詰め込み、交渉に交渉を重ねやっと……! 屋敷から出れたんです! 理由が分かりますか? 騎士の一人も付いてない私は庭の散歩さえ許してくれないんですって。いや、は? って感じじゃないですか? 閉じ込めておいて何? って。果たして婚約者を押し付けているのは何方でしょう? どうです? 意思疎通、出来ましたか?」
「……はぁ…………ああ」
「わははは!! さすが千聖殿!! ブルーにお似合いだな!! わはははは!!!」
婚約者と意思疎通出来ているのかと聞かれ、恐らくハント公爵はこう思ったのだろう。
茶を共に飲んだり、他愛ない会話をしながらの食事や、たまには花束なんかを贈ったり、美しいねと言いながら外を散歩したり、街へ出てドレスを一緒に選んだり、大切にしているんだと、貴方の事を常日頃想っていますよ。
なんて。そんな普通の恋人同士の事が出来ているのかと。
そりゃもちろんそうなれば陛下も喜ぶだろう。しかし甥であるハント公爵がどんな性格なのかは知っている筈だし、私にもその気が無い事ぐらい分かっている。
陛下然り、私が言いたいのは、もっと根本的なものだ。
例えば、アレルギーがありますだとか、持病がありますなんて、そんな単純なこと。
されたら嫌なこと、許せないこと、トラウマだったり、そんな単純なことさえも、私達は話し合っていない。同じ屋根の下なのに。
意思疎通なんて、出来るはずも無い。
(嗚呼……今日みたいな日に飲む酒は美味いんだろうなァ……)
「わはは!! わはははは……!! 実に面白い……!! これ程までにブルーに言ってのけるとは!! わはははは……!!」
「はぁ………、陛下、笑い過ぎです……」
愉快に大はしゃぎする一国の王。大粒の涙を流し、大の大人がここまで笑い転げられるのかと感心する。
その姿に対し、いつも通りの目付きの悪さで冷静に対応するハント公爵。
(全く、公爵様のそういうところは私に似てるんだよな。……ほんと、平和な国で助かりましたよ陛下。こういう瞬間が、とても幸せです)
11
あなたにおすすめの小説
不能と噂される皇帝の後宮に放り込まれた姫は恩返しをする
矢野りと
恋愛
不能と噂される隣国の皇帝の後宮に、牛100頭と交換で送り込まれた貧乏小国の姫。
『なんでですか!せめて牛150頭と交換してほしかったですー』と叫んでいる。
『フンガァッ』と鼻息荒く女達の戦いの場に勢い込んで来てみれば、そこはまったりパラダイスだった…。
『なんか悪いですわね~♪』と三食昼寝付き生活を満喫する姫は自分の特技を活かして皇帝に恩返しすることに。
不能?な皇帝と勘違い姫の恋の行方はどうなるのか。
※設定はゆるいです。
※たくさん笑ってください♪
※お気に入り登録、感想有り難うございます♪執筆の励みにしております!
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています
鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。
指示を出さない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。
それなのに――
いつの間にか屋敷は落ち着き、
使用人たちは迷わなくなり、
人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。
誰かに依存しない。
誰かを支配しない。
それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。
必要とされなくてもいい。
役に立たなくてもいい。
それでも、ここにいていい。
これは、
「何もしない」ことで壊れなかった関係と、
「奪わない」ことで続いていった日常を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる