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欲張り
しおりを挟むブルーは、私のことを大切に扱っているのだなと不本意ながら気付いてしまった。というか、いい加減認めなければ失礼なぐらい満ちているのだ。
頬に触れる指先や、絡む腕、触れる唇、瞳の奥まで、私を包み込むような優しさに。
いっそのこと気付かないほうが気楽だったかもしれない。だって気付いてしまえば突き放すなんて酷いこと出来ないじゃないか。
優しくしないでほしいのに優しくされると心地良くて、つい身を任せてしまう。駄目になりたくないのに駄目になってしまいたい。自分でも何を言っているのか分からない。
庇護欲をそそるような女でもないのに、その優しさを注がれる相手がまさか私だなんて。もっと結婚したぁいとか嘆いてるような、それがゴールになってしまっているような女に注いでやってほしい。
なんで私なんだ。なんでこんな捻くれた私だったんだ。
生まれてから死ぬまで、全て決まっていたのか。
彼と、出会う運命だったのか。
悔しいけれど、彼と触れ合っているとこれが運命なのかとそう思わせるぐらい心地良い。
あまりに丁寧に扱うから、私のこと好きなんですかって聞こうとしたけど何だか怖くてやめた。何が怖かったのかも知りたくない。認めたくないくせにそのまま抱かれた。
全身に口づけをしていくブルー。私が刺された脇腹の傷痕を一際丁寧にキスする様に、初めて死んで良かったかもと思ってしまった。
皆の悲しみを踏みにじって、なんてこと言うんだと怒られるかもしれない。けれど彼にキスされると痛みが消えて、彼が触れると縛っていた鎖が外れていく。
ブルーが与える安心と誘惑と快楽に、完全に溺れてしまった。
(私は馬鹿だ……都合のいい男になんてしたくなかったのに……めちゃくちゃ馬鹿だぁ…………結婚して、やっとキスして、やっとこさやった後なのに、今更好きとか言えないんですけどぉ……)
己の持っていた概念とは違う順序に、言葉にするのがこんなにも難しいのだと今一度思い知らされた。無駄に大人になるというのも辛いものだ。
普通に、『好き』と言うのが恥ずかしいとは。まるで中学生みたい。
(うわっ。思春期な殿下のこと言えねぇ~……。いやでも童貞とはそもそもの土俵が違う、よね……?)
そこでふと気付いた。ブルーも「好き」とか「愛してる」とか言葉にしていないな、と。
同じく言葉にするのが怖いとか? それとも私程度の女など別に好きでもなんでもないのか。女性を勘違いさせるぐらいただただ優しいだけだったりして。
言葉にしないから本当のことは分からないけれど、言葉にすれば戻れない。知らない方が幸せだったと思うかもしれない。
大人になるほど知っていく。言葉は時に相手を傷付ける。
こんなとき、心底メグを尊敬してしまう。本当に大人って面倒だな。
互いに言葉にせず、一体どこまで過ごすのだろう。
──「お手! おかわり!」
ミハエルと城へ向かう道中、アヌビスを目の前にそんな事を考える。
この子達の仲間が好きになってしまった人の両親を殺したのか。
「千聖さん……それは何をやっているんですか……」
「ん? 見りゃ分かるでしょ。躾です」
「もぉーー! 止めて下さいよぉおおーー! また訳分かんないことやってぇーー!!」
「訳分かんなくないですよ! 現にほら! たまに手を出してくれ、とっと……お手の衝撃やば」
「きゃあ! もう見てるこっちがヒヤヒヤする……!」
「お手出来たねぇ~、いいこいいこ。はぁ可愛い。魔物って懐くんですねぇ~、かわいいねぇ~、夏毛だねぇ~」
「もうやだ! 早く行かないと団長に怪しまれます!!」
「はいはい分かりましたよー」
「ハイは一回!」
「はーい」
ミハエルと私の様子を察し、アヌビスは森へと帰っていく。頭の良い動物だ。そして何より可愛い。
ブルーのことも、アヌビスも、どちらも欲しいと思ってしまう私は、欲張りなのかな。
(ああっ……! あのお尻と腿と踵! めっちゃ可愛いっ……!!)
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