贖罪の救世主

水野アヤト

文字の大きさ
278 / 875
第十四話 贖罪

しおりを挟む
 帝国女王ユリーシア・ヴァスティナの死は、表向きは病死だと発表された。
 この知らせは今のところ、帝国内だけに発表された事であり、葬儀も済まされている。
 葬儀の時には、帝国中の人々が城へと集まり、彼女の死に涙を流し続けた。女王の死からこの数日間、帝国内はようやく少しだけ落ち着きを取り戻し、如何にか国の機能を維持している状況だ。

「リックの様子はどうですか?」
「相変わらずだよ。部屋から出ようとしないし、話しかけても何も答えない」

 ここは帝国軍参謀長の執務室。
 ここでは今、参謀長に代わり軍師エミリオが一人で軍務に務めている。部屋にはもう一人、長い金髪の髪が特徴的な、美しい女性の姿。深紅のドレスを身に纏う、帝国宰相リリカ。彼女は政務を一段落させ、彼のもとへと足を運んだのである。
 話の内容は、軍務を放棄して、ずっと部屋に籠っているリックの事だ。

「無理もないね。仲間だったロベルトを失い、愛する者を一度に二人も失った。二人はリックにとって、生きる意味そのものだったと言うのに」
「・・・・・・彼は、再び生きる希望を取り戻せますか?」
「無理かもしれない。陛下とメシアの死は、リックから全てを奪うに等しい。自らの死を選ばないだけ、奇跡と言えるかもしれないね」

 女王ユリーシアに絶対の忠誠を誓い、騎士団長メシアを愛したリック。この世界は、彼から生きる希望と愛を奪った。もう彼は、この世界で生きる意味を持たない。
 だからリリカは言った。自殺しないのが奇跡だと。
 それはつまり、心が死んだリックの中に、まだ残されているものがある事を意味する。それが希望なのか何なのかは、リリカにもわからない。
 もしも、彼を立ち直らせる事が出来る人物が、この世界に残っているとするならば、それはリリカ以外にいない。リックを救える希望はまだ残されている。だからエミリオは、たとえ彼女が無理と言おうとも、彼女に頼むしかない。
 天才軍師と言われた事もある。しかし今の彼は、己が情けなくてならない。
 自分にはリックを救う事が出来ない。彼を闇から救う事も叶わない。結局自分は、大事な時に何もできない無能者だと、そう思ってしまっている。

「心配いらないよ」
「・・・・・・」
「あれは弱い男だ。でも、大切な者たちのためには命を懸ける、本当に優しい男でもある」
「ええ・・・・・私もそう思います」
「お前たちを、リックは決して見捨てない。きっとまたこの部屋に戻って来るよ。今はまだ、時間が必要なだけ。私たちは信じて待っていればいい」

 彼をもっともよく知るリリカが言うのだ。
 エミリオの心境を思って、そう言ってくれている。本当は彼以上に辛いはずなのに、皆を助けてくれる大人の女性。リリカがいなければ、今頃帝国はどうなっていたのか、予想したくもない。

「私たちはやるべき事をやるだけさ。とにかく今は―――――」

 その時、彼女の声を遮って扉を叩く声が聞こえた。
 ノックの後、エミリオが入室を許すと、入って来たのは一人の帝国軍兵士だった。兵士はエミリオ指揮下の諜報班であり、国内外の調査が主な任務である。
 兵士は真っ直ぐエミリオのもとを目指し、敬礼の後に、封に入った一通の手紙を彼に渡した。その後兵士は回れ右して、執務室を後にする。
 常に諜報班を様々な目的で動かし、情報を集めさせている。そのため、エミリオのもとには毎日多くの情報が届くのだ。手紙の中身も、恐らくは何かしらの情報であるのは間違いない。早速彼は封を開け、中身を確認する。
 封の中から手紙を取り出す。折り畳まれた紙を開き、書かれた文章に目を通していく。
 
「これは・・・・・・」

 手紙を読み終えたエミリオは、後悔の念に襲われていた。
 彼の様子から、何か重大な情報であったのは一目でわかる。

「どうしたんだい?」
「私は・・・・・・取り返しのつかない事をしてしまった・・・・・。私はリックに、合わす顔がない・・・・・・」

 手紙は執務室の机に置かれた。その手紙を、リリカも手に取って中身を読む。

「・・・・・・エミリオ、今すぐに調べて欲しい事がある」
「わかっています。必ず突き止めます・・・・・・」

 手紙を読んだリリカの眼には、誰も見た事のない、初めて彼女が見せる憤怒の炎が燃えている。
 彼女の怒りの矛先は、この悲劇の元凶である者たちに向けられていた。
 二人はすぐに動いた。それぞれの権力を最大限に利用して、真実を確かめるために・・・・・・。
しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

処理中です...