贖罪の救世主

水野アヤト

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第二十五話 勝利の裏に潜む影

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 話は過去へと遡る。
 エステラン国内に構築された、帝国軍仮設駐屯地内の天幕の一つ。そこには、軍師エミリオ・メンフィスと発明家シャランドラの姿があった。
 この天幕内には、三体の死体が運び込まれている。その死体とは、剣士クリスティアーノ・レッドフォードが死闘の果てに討ち取った、エステラン国軍の精鋭「黄金十字騎士」の死体であった。
 クリスの命令で、この騎士達の死体は戦場から回収されていた。回収を命じた理由は、戦った本人であるクリス自身が、この騎士達が常人とは明らかに違う力を持っていると、そう感じたからである。

「それで、調べた結果はどうだったんだい?」
「まあ・・・・・、うちは解剖の専門やないんやけども、これだけははっきり言える。この死体、本当に生きとったんか?」

 発明だけでなく、生物の事にも意外と詳しいシャランドラが、エミリオに頼まれて黄金十字騎士の死体を解剖した。
 この騎士達と戦い勝利し、その後気を失ったクリスは、現地で怪我の手当てを受ける頃には目を覚まし、兵士達に命じて死体の回収を行なった。そして、現地の最高指揮官であったエミリオに、黄金十字騎士達との死闘と、その際感じた違和感を説明し、死体の解剖を頼んだのである。
 解剖担当には、生物に関しても知識が豊富なシャランドラが選ばれ、死体が腐り難いよう処理を施し、彼女に預けられた。仮設駐屯地内で三体の死体を解剖し、一通り調べ終わったが彼女が、結果の報告をするべくエミリオを呼び、ここに至る。

「クリスが苦戦した末に討ち取った敵の精鋭さ。両軍の兵士達も、その戦いをしっかり見ていたそうだから、間違いなく生きていたよ」
「うちには信じられへんで・・・・・・。こんだけ滅茶苦茶にされとった身体が元気に動いとったやなんて」
「一体どういう事だい?」
「見てみりゃわかるで」
 
 三体の死体は、それぞれ三つ用意された台の上に載せられており、その内の一体のもとにエミリオは案内される。解剖と調査を終えた死体は、腹部を切り開かれており、中は丸見えの状態とされていた。処理を施されたといっても、漂う腐敗臭は吐き気を催すものであり、エミリオはその臭いを何とか堪え、死体の腹部を覗いた。

「この死体、内臓のいくつかが無くなっとるんや。胃とか腸とか、無いと死んでまうもんが綺麗さっぱり無くなっとるんよ」
「君が発明の実験に使おうと抜き取った・・・・・・わけではないよね」
「当たり前やろ!うちをなんだと思っとるんや!」

 シャランドラが死体を調べて、まず始めに気が付いた事は、数多くの手術痕であった。彼女が腹部を切り開く前から、この身体は何度も切り開かれ、何らかの手術を受けていたのである。その手術過程で、この身体は内臓を抜き取られ、代わりのものが取り付けられていた。
 
「腹掻っ捌いてみたら、内臓の代わりにこんなもんが入っとたわ」
「これは・・・・・・!」

 解剖に使っている布手袋を付けたシャランドラが、切り開かれた腹部に腕を突っ込み、その中から内臓ではない謎の物体を取り出した。丸くて何本もの触手が生えたその物体は、最早動く事はなく、腐敗が進んでいたが、一つだけわかる事がある。それは、人の身体に存在してはいけないものだ。

「寄生型の魔物・・・・・、こんなものを人の身体の中に・・・・・」
「これはもう死んでまっとる。なんかの本で見た事あるんやけど、人の身体に寄生して養分を吸い取る類の奴や。でもこれ、こんなに大きくもないし、まして人の体内に潜り込んだりする事もないんよ」
「何者かがこの魔物を改造し、騎士の体内に取り付けた・・・・・・、としか考えられないわけだね」

 シャランドラが取り出した魔物の大きさは、人の頭ほどの大きさがあった。しかし彼女が知る限りでは、この魔物の大きさは親指位のものであり、森などに生息し、気付かれないよう動物の皮膚に寄生して、養分を吸い取って生きるだけの、ただの魔物だ。取り付いた動物を殺す事はなく、ただ寄生して生き続けるだけの、害の少ない魔物なのである。
 それが何故、巨大化した状態で人間の身体に取り付けられていたのか。その理由を想像すると、恐ろしい考えに行き着く。
 
「ついでに言うとこの死体、頭にも手術痕があったんよ。一回頭開けられて、頭蓋に穴開けられて、脳みそ弄りまわされたみたいや」
「まさか、そこまでされた人間が、クリスに討たれるまで生きていたなんて・・・・・・」
「頭の中からも色々出てきたで。ちっさい寄生虫とか、魔法石とかな」
「魔法石だって・・・・・!?そんな珍しい物まで出てきたのかい?」

 魔法石とは、ローミリア大陸内に存在する、魔力を帯びた石の事である。これは、大陸内で極稀に発見される珍しい石であり、宿っている魔力によって、魔法を扱えない人間でも、魔法石の魔力を解き放ち、魔法を扱えるようになる代物なのである。
 これは南ローミリア内には出回っていない。大陸中央か、大陸北方で手に入ると言われており、エミリオもシャランドラも存在だけは知っているという物であった。そんな代物が、この死体の頭の中から出てきたというのである。エミリオが耳を疑うのも無理はない。

「おっそろしい事するで・・・・。魔法石を脳みそに移植しとったんや。移植するのに寄生虫まで使っとるし、腕に数え切れへん注射痕もあるし、明らかにこいつは人間を実験台にしたとしか思えへん」
「人間の改造・・・・・・」
「クリスの話にあったっていう、痛覚が無いかもしれないって話とか、何しても声を上げなかった話とか、体力切れ起こさんかった話とか、解剖してみて全部納得できたで。恐らく、痛覚は手術とか薬で無くされとったんや。声上げんかったのは、声帯が抜き取られとったから。そんで、体力切れ起こさんかったのは多分この寄生型の魔物のせいや」
「そう思う根拠は?」
「この死体、肺も抜き取られとったんよ。うちの予想やけど、この寄生型の魔物はこいつの動力機関とかやったはずや。どういう原理かわからんのやけど、魔物の力を借りて疲れない身体を手に入れたとしか考えられへんわ」
「信じられない話だけど・・・・・・、恐らく君の予想は正しい。クリスが苦戦したのも、それで納得できる」

 エミリオの脳裏に浮かぶ、最悪の予想。
 敵と定めていた国家、エステラン国に帝国は勝利した。これで戦いは終わったと思われたが、この三体の死体の存在が、彼の予想もしていなかった次なる戦いを予感させる。
 人体実験、謎の寄生型の魔物、そして魔法石・・・・・・。これら全ての存在が、彼の脳裏にとある単語を呼び起こさせる。

「これはきっと・・・・・・、魔人だ」
「魔人やて!?でもあれは、どっかの馬鹿が考えた作り話やろ!?」

 ローミリア大陸には、噂程度でまったく信じられていない、こんな話がある。
 この大陸のどこかに、人間でもなく魔物でもない、常識を超えた生物が存在するというのだ。誰も見た事がなく、誰もその存在を信じてはいない。その生物の名は、魔人・・・・・。

「何者かが魔人を作り出したんだ・・・・・。エステラン国ではない、別の国の人間が・・・・・」
「!!」

 エステラン国にこんな事が出来るはずがない。こんな事が出来るのは、魔法石を大量に所有し、魔物の研究がどの国よりも進んでいる国家でなければ、不可能である。
 魔物の軍事利用を推し進めようとしている、大きな軍事力を持つ強国が必ずある。ジエーデル国、ホーリスローネ王国、ゼロリアス帝国・・・・・・、もしくは、この三国ではない他の強国か・・・・・。
 
「一体、こんなものをどこの国が作ったと言うんだ・・・・・・」

 エステラン国に製造不可能なこの存在は、エステラン国第二王子メロース・リ・エステランが保有していた。
 ならば、必ずいるはずなのだ。何かの目的のために、メロースにこの兵器を渡した存在が・・・・・。





 エミリオの脳裏にある、先の未来の不安。三騎士の死体については、リックにも伝えられており、今回の戦争には、ヴァスティナ帝国、エステラン国、ジエーデル国以外の別の国家の影があったと、エミリオの口から報告されている。
 エミリオが不安を感じ続ける中、この話を聞いたリックはこう言った、「どこの国の仕業か知らないが、そのうち向こうからこっちに顔を出すさ」と。
 不安に惑うのではなく、いつ何が来てもいいように、万全の体制を整えておく。それがリックの考えであった。だがエミリオは、今も不安を消す事が出来ずにいる。
 魔人の存在と軍事利用・・・・・。これは将来、ローミリア大陸全土を震撼させるであろう、恐るべき兵器となる。だからこそ、彼の不安は消えない。完成した魔人が戦場に現れた時、帝国が勝利できる戦略を考えられるその自信が、今の彼には無かったからである。
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