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第四幕
4-7・変わらない
しおりを挟む何を言えばいいのか一瞬迷う。胸がいっぱいになっていた。
「え……あ、う……」
意味もなく唇をわななかせる俺に、然乎さんはにこりと微笑んで。
「咲真さん、一礼」
そんな風に、作法の指摘をしてきて、俺は慌てて本殿に向き直って一礼。その後すぐに後ろを振り返った。
然乎さんは変わらずその場にとどまったままでほっとする。
感極まってしまって、視界が歪んだ。
「ああ、そんな、泣かないでください、咲真さん。ね?」
情けなくも目尻から零れ落ちた涙に、然乎さんが狼狽えたような声で宥めてくる。
でも、そんなもので俺の涙は止まらない。
手の甲で目元を擦ると、その手をやんわりと捕らえられた。
「目が腫れてしまいますよ。少し落ち着ける場所に行きましょう」
促され、頷く。案内するように踵を返した然乎さんの後ろを着いていった。
見慣れた後姿を、もう二度と見失わないようにと見つめながら、俺は然乎さんだけを見て足を動かす。
何処をどう歩いたのか、さっきまで行った神社は何処に行ったのか、目の前には東屋があり、その中には椅子と机が備え付けられていて。
「そこに座って下さい」
言われるがままに腰掛けると、然乎さんは机を挟んで向かい側の席に同じように腰を落ち着けた。
「改めて……久しぶりですね、咲真さん」
一年と少しぶりの然乎さんの微笑み。
いつかのあの頃。毎日のように見ていたそれと何も変わらない。
まるで時間など流れていなかったかのように、変わった所など何処にも見えない然乎さん。
改めて見ると、双子の妹だという少女とは、似ても似つかないように見えた。否、確かに同じ顔には見えるのだけれど。
俺はぎこちなく頷く。
「はい、久しぶり、です……」
その先は言葉が続かなかった。
言いたいことはたくさんあった。
急に来なくなったのはどうしてなのか。何か来れないような重大なことでも起こっていたのか。あれほど催促されていた願い事については、もういいのだろうか、だとかいろいろだ。
でも、今はもう、目の前に然乎さんがいる、それだけでいっぱいいっぱいで、それ以上なんてとても言葉にはならなくて。
そもそも、彼女がいた日々の方こそ、俺の日常からすると想定外だった。
突然訪れて、いなくなる時も突然で。俺は彼女のことを何も知らなくて。
自称神様だということしか、知らなくて。
目の前の然乎さんは、見慣れた制服姿だった。
ハープアップにまとめられた髪型も、まっすぐな髪の長さまで同じ。隙がなく、美しいばかりの然乎さんの姿。
それが、あの日々と全く同じ顔で微笑むのだ。
言葉に詰まるのなんて、当然のことだろうとしか思えなかった。
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