防空戦艦大和        太平洋の嵐で舞え

みにみ

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大東亜の快進

神の鉄槌

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ブルネイを出撃した大和以下、日本海軍の強力な艦隊は
シンガポール攻略作戦支援のため、一路南シナ海を航行していた。
熱帯の海は穏やかで、上空には雲が低く垂れ込めていたが、視界は良好であった。
艦隊は、シンガポールへの進路上で、陸軍の輸送船団と合流する予定であった。

数日後、水平線に無数の煙が立ち上るのが確認された。
それは、日本陸軍が誇る輸送船団であった。商船を改造した大型輸送船から
小型の貨物船まで、多種多様な艦艇が、シンガポール攻略を目指して集結していた。
それらを護衛するのは、武装を強化された少数の駆逐艦や海防艦である。

陸軍輸送船団の兵士たちは、長く続く船旅に疲弊し
蒸し暑い船内で気を紛らわせていた。彼らにとって
海軍の艦艇といえば、せいぜい駆逐艦や巡洋艦が精一杯であった。
しかし、遠方から現れた巨大な艦隊の姿は、彼らの目に驚愕と興奮をもたらした。

「おい、あれを見ろ!なんだ、あのデカい船は!?」

輸送船の甲板にいた一人の陸軍兵士が、指をさして叫んだ。
彼の指し示す先にあったのは、水平線にそびえ立つ
まさに「動く城」とでも形容すべき巨大な影であった。
そのあまりの大きさに、他の兵士たちも言葉を失った。

彼らは、日頃から護衛に就いている駆逐艦の大きさに慣れていた。
それでも駆逐艦は、陸軍兵士から見れば十分な巨体である。
駆逐艦の豆鉄砲の12.7cm方でさえ陸であれば大口径砲なのだ
(当時の日本戦車の主砲は47~37粍)
しかし、目の前に現れた艦は、その駆逐艦がまるで小舟のように見えるほどであった。
それは、これまで彼らが想像しうるいかなる船体をも遥かに凌駕するスケールであった。
彼らはその艦名をもちろん知らなかったが、その威容にただただ圧倒されるばかりであった。

「あれが噂の……海軍の切り札なのか?」

兵士たちはざわめいた。日本の軍事力に関する漠然とした噂は
陸軍内部にも浸透していた。しかし、実際に目の当たりにするその光景は
彼らの想像を遥かに超えていたのである。彼らは
その巨大な艦体から放たれる圧倒的な存在感に、日本が必ず勝利するという
確信にも似た希望を感じ取っていた。

大和の隣を航行する長門と陸奥も、本来であれば
その巨体で周囲を威圧する戦艦であった。
しかし、大和の圧倒的な存在感の前では、
それすらもまるで巡洋艦のように見えてしまうほどであった。
大和の艦橋からは、その雄大な艦隊が
陸軍輸送船団と整然と合流していく様子が一望できた。
それは、陸海軍が一体となって、南方資源地帯の確保という
国家目標を達成しようとする、まさに「総力戦」の象徴であった。


シンガポールを目指す連合艦隊は、その後も順調に航海を続けた。
艦隊は、途中で敵潜水艦や航空機の偵察を受けることなく
無事にシンガポール沖合に到達した。
熱帯特有の湿度を含んだ重い空気が、艦体を包み込んでいた。

上陸作戦に先立ち、まずは陸上からの敵の抵抗を排除する必要があった。
シンガポールは、イギリスが「不落の要塞」と称し、
その防御力を誇っていた重要拠点である。
特に、沿岸には強固なコンクリート製の砲台が築かれ、
その中には15インチ(約38cm)砲が3門も設置されていた。
これらの巨砲は、シンガポール湾に接近する艦艇に対し
絶大な脅威を与えることを目的としていた。
しかし、イギリス軍は、これらの砲台が海上からの反撃に脆弱であるという
致命的な欠陥を抱えていることに、まだ気づいていなかった。

連合艦隊司令部は、このシンガポール要塞砲台に対し
艦砲射撃による制圧を決定した。大和を旗艦とする第一戦隊は
海岸線から距離20kmの沖合に展開した。この距離は
要塞砲の射程圏外ではなかったが、大和の46cm主砲や
長門、陸奥の41cm主砲にとっては、十分な精度での攻撃が可能となる距離であった。

「各員、戦闘配置!主砲員、照準用意!目標、シンガポール要塞砲台!」

艦内に艦長の号令が響き渡る。主砲員たちは
これまで訓練で培ってきた技術を、実戦で発揮する時が来たことに

興奮と高揚を覚えていた。長門と陸奥の砲塔も、ゆっくりとその巨砲を陸へと向けた。


まずは、長門と陸奥が、その41cm主砲から零式通常弾の射撃を開始した。
ドォォォォンッ!という轟音と共に、巨大な火炎と煙が砲口から噴き出し
砲弾が唸りを上げてシンガポール要塞目指して飛んでいく。
数秒後、遙か彼方の陸地に、轟音と共に巨大な水柱ならぬ土煙の柱が立ち上った。

「よし、命中弾確認!」

着弾観測員からの報告が届く。
しかし、長門と陸奥は、あくまで牽制と精密射撃の準備射撃であった。
本当の主役は、その後に控えていた。

「大和、撃てぇ!」

艦長の号令が、シンガポールの空にこだました。

ドォォォォォォンッ!

世界最大の46cm主砲が、その威力を解き放った。
凄まじい衝撃が艦全体を揺るがし、轟音が周囲の海域に響き渡った。
砲口からは、巨大な火炎と、煙が噴き出し、空気を震わせた。
大和が放ったのは、陸上目標に対する破壊力を
最大化するために開発された「三式通常弾」であった。
それは、着弾前に炸裂し、その衝撃波と破片、黄燐片で
広範囲に甚大な被害をもたらすことを目的とした特殊な砲弾である。

46cm砲弾は、まるで神の鉄槌が振り下ろされたかのように
シンガポール要塞のコンクリート製の強固な砲台へと吸い込まれていった。
直撃を受けた砲台は、その分厚いコンクリートと鉄筋が
まるでバターを削り取るが如く容易く抉り取られた。爆発の閃光と
巨大な土煙が要塞全体を覆い隠し、砲台の構造物が文字通り吹き飛ばされた。

要塞に設置されていた15インチ砲3門は
日本艦隊に一発の命中弾も出すことなく、その沈黙を強いられた。
彼らは、まさか20kmも沖合から、これほどの巨弾が飛来し、
自らの砲台を直撃するとは夢にも思っていなかったのである。
反撃の機会すら与えられず、そのまま次々と直撃弾を受け
見るも無残な姿へと変貌していった。砲身はねじ曲がり
砲座は破壊され、要塞としての機能を完全に失った。

大和の巨砲は、まさに「不落の要塞」を、あっという間に無力化したのである。
その圧倒的な破壊力は、艦隊の将兵たちに、改めて大和の持つ
絶大な威力を実感させた。大艦巨砲主義者たちは
その確信を新たにし、航空主兵論者たちもまた
陸上支援における戦艦の役割の重要性を再認識した。

「全砲台、沈黙を確認!」

着弾観測員からの報告が、艦橋に響き渡る。
艦長の顔には、満足げな笑みが浮かんだ。シンガポール要塞の砲台は、完全に沈黙した。


要塞砲台の制圧が完了した後、作戦の最終段階へと移行した。
シンガポール沖合に待機していた陸軍上陸部隊は
待機命令が解除されたことを確認すると、次々と大発動艇(揚陸艇)に乗って
目標の海岸線へと向かい始めた。

大発動艇のエンジン音が、穏やかな海面に響き渡る。
満載された兵士たちは、沖合に停泊する大和の巨体を振り返り
その存在に勇気づけられるようであった。彼らは、あの巨大な艦が
自らの上陸を援護するために、敵の要塞を破壊してくれたことを理解していた。

大和以下、日本艦隊は、シンガポール沿岸を警戒しながら、
上陸部隊の援護態勢を維持した。
陸軍兵士たちは、シンガポールの海岸線に次々と上陸を開始した。
彼らは、大和の巨砲によって道を切り開かれ、強固な抵抗を受けることなく
最初の橋頭堡を築くことに成功した。シンガポール要塞の陥落は、時間の問題であった。

この作戦は、大和の巨砲戦艦としての真価を、存分に発揮する機会となった。
その圧倒的な火力は、陸上要塞をも容易く粉砕し、上陸作戦を成功に導いた。
しかし、この戦いはあくまで対陸上目標であり
大和の真の防空能力が試される機会は、まだ訪れていなかった。
シンガポールは陥落するだろう。だが、太平洋戦争は始まったばかりであり、
日本海軍と大和が直面する試練は、これからが本番なのである。
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