防空戦艦大和        太平洋の嵐で舞え

みにみ

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大東亜の快進

シンガポールの虚しき抵抗

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シンガポールの沿岸砲台が沈黙した後、陸軍の上陸部隊は
大発動艇に乗って次々と海岸線を目指した。兵士たちの顔には
巨砲の援護射撃によって敵の抵抗が排除されたことへの安堵と
これから始まる上陸戦への高揚が入り混じっていた。
彼らは、不落と謳われた要塞の牙が抜かれたことを肌で感じ、日本の勝利を確信していた。

しかし、シンガポール要塞は、完全に無力化されたわけではなかった。
海岸線からやや内陸に潜んでいたイギリス軍の速射砲や榴弾砲が
上陸部隊に向けて突如として火を噴いたのである。

ダダダダダ、と耳障りな速射砲の音が響き渡り、続いてドォン、ドォン
と重い榴弾砲の炸裂音が海岸にこだました。上陸を目指す大発動艇の周囲に
水柱と土煙が次々と立ち上り、陸軍兵士たちは身を伏せた。木製の艇体は
速射砲の弾丸によって容易く貫通され、榴弾砲の炸裂によって一瞬にして粉砕される。
死傷者が発生し始め、上陸部隊は一時的に足止めを食らう形となった。

「敵砲台、生きていたか!」

大和の艦橋で、艦長が顔をしかめた。
事前に航空偵察で確認された情報を上回る、敵の抵抗であった。
しかし、それは想定の範囲内でもあった。海上に構える日本艦隊は
この瞬間を待っていたのである。


敵の砲撃が始まった瞬間、海上に展開していた日本艦隊は
即座に反撃を浴びせた。各艦の砲塔が、素早く陸へと旋回し、火を噴いた。

まず火蓋を切ったのは、艦隊を護衛する駆逐艦群であった。
第十五駆逐隊(雪風、初風、時津風、天津風)
第二十七駆逐隊(白露、時雨、有明、夕暮)に属するこれらの駆逐艦は
その主砲である12.7cm砲を立て続けに発射した。
ドォン、ドォンと小気味よい音が響き、砲弾が海岸線に向けて飛んでいく。

12.7cm砲は、艦隊決戦における主力砲ではない。
しかし、陸上目標に対する攻撃力は侮れないものがあった。
その口径は、後の第二次世界大戦後期にドイツが開発した
重駆逐戦車ヤークトティガーと同程度の口径砲(12.8cm)であり
直撃すれば歩兵はおろか、軽装甲の車両や陣地も粉砕しうる威力を持つ。
それどころか装甲を貫徹できずとも
その炸薬の圧力で一挙に搭乗員を死に至らせることもできるのだ
次々と着弾する砲弾は、シンガポールの緑豊かな木々を抉り取り
土煙と破片を巻き上げ、隠れていた英兵を吹き飛ばした。

「目標、右岸の敵陣地!速射砲を叩き潰せ!」

駆逐艦の砲術長たちが、無線で怒号のような指示を飛ばす。
駆逐艦の砲撃は、陸軍部隊が上陸する地点の敵火力を引き付け、その進撃を支援した。
彼らの正確な射撃は、敵の速射砲陣地を沈黙させ、陸軍兵士たちの危機を救った。


しかし、真の破壊力は、戦艦群によってもたらされた。
特に、連合艦隊旗艦「大和」の主砲は、この状況でこそその真価を発揮すべきものであった。

大和の艦橋では、砲術長である田辺中佐が
冷静かつ的確に射撃指揮を執っていた。彼は
敵の榴弾砲陣地からの砲撃地点を正確に割り出し、主砲の照準を合わせた。

「目標、右寄せ6の上げ2!敵速射砲群!零式通常弾装填!よーい、てっ!」

田辺中佐の指揮が響き渡る。大和の46cm主砲が、再びその巨大な口を開いた。
主砲員たちは、これまで訓練で叩き込まれた手順に従い、素早く巨大な砲弾を装填した。
彼らの動きには、一切の迷いがなかった。彼らの全身からは
巨砲を操る者としての誇りと、任務を完遂する意志が漲っていた。

ドォォォォォォンッ!

地獄の底から響くような轟音が、シンガポール沖の空気を震わせた。
大和の巨体が、その反動で大きく揺らぐ。砲口から噴き出す巨大な火炎と白煙は
まるで火山の噴火のようであり、周囲の駆逐艦の乗員たちも、その圧倒的な光景に目を奪われた。

46cmの零式通常弾は、唸りを上げて遙か彼方の陸地へと飛んでいった。
その着弾は、まさに神の怒りであった。シンガポール要塞の砲台を粉砕した時と同様に
今回は隠された敵の速射砲陣地や榴弾砲陣地を
まるで踏み潰すが如く破壊し尽くしたのである。

次々と着弾する巨弾は、密林を吹き飛ばし
鉄筋コンクリート製のトーチカを紙のように引き裂いた。
兵士たちが隠れていた塹壕は、一瞬にして消滅し、そこにいた英兵は
砲弾の衝撃波と破片によって、文字通り吹き飛ばされた。
巨大な土煙が連続して立ち上り、シンガポール要塞の奥深くまで
大和の破壊の痕跡が刻まれていった。

長門と陸奥も、それぞれ41cm主砲で、残存する敵砲台や抵抗拠点を砲撃した。
その巨弾もまた、恐るべき破壊力で敵陣を蹂躙し
シンガポールの防衛線を、まさに内側から崩壊させていった。

陸軍兵士たちは、上陸地点からその光景を目の当たりにし、言葉を失った。
彼らの頭上を、まるで小型車のような巨弾が唸りを上げて飛んでいく。
そして、その着弾によって、これまで彼らを苦しめていた
敵の火力が、次々と沈黙していく。それは、希望と同時に
人知を超えた破壊力を目の当たりにしたことへの畏怖の念を抱かせる光景であった。

「進め!海軍が道を切り開いてくれたぞ!」

陸軍の指揮官たちが叫び、兵士たちは再び前進を開始した。
彼らは、巨艦たちの援護射撃を受け、敵の抵抗が弱まった海岸線へと
上陸を成功させたのである。


大和は、その日一日中、砲撃を続けた。巨砲から放たれる砲弾は
まるで絶え間なく降り注ぐ隕石のようであり
シンガポール要塞の堅牢さを根底から覆した。陸軍部隊が前進するにつれて
大和の主砲は、その進路を妨げる敵の抵抗拠点をピンポイントで叩き潰し
突破口を切り開いていった。市街地への誤爆を避けるため
砲術長は常に陸軍部隊との連携を密にし、慎重な射撃を心がけた
しかし、一度目標を捉えれば、その容赦ない砲撃は、敵に反撃の機会すら与えなかった。

日没後も砲撃は続き、夜空には巨砲から放たれる閃光が何度も闇を切り裂いた。
そして、その閃光の先に立つ土煙は
シンガポール要塞の抵抗が限界に達したことを示していた。

翌日、1942年2月15日。シンガポールは、たった一日で陥落した。

「不落の要塞」と称されたシンガポールが、これほど短期間で陥落したことは
世界に大きな衝撃を与えた。その要因は多岐にわたるが、
日本艦隊、特に戦艦大和の圧倒的な艦砲射撃が、陸上からの抵抗を粉砕し
陸軍の上陸と進撃を可能にしたことが、決定的な要因の一つであったことは疑いようがない。

この戦いは、大和が「巨砲戦艦」としての真価を遺憾なく発揮した、
まさに「本領発揮」の場であった。その46cm主砲は、堅固な要塞砲台を容易く破壊し
隠れた敵陣地をも瞬時に沈黙させた。陸軍兵士たちは
海軍の、特に大和の支援によって、自分たちの生命が救われ、作戦が成功したことを実感した。

しかし、大和の真の防空能力が試される機会は
この戦いではほとんど訪れなかった。敵の航空戦力は
日本軍の進撃の速さについていけず
まともな航空攻撃を仕掛けることができなかったのである。
大和は、その強力な対空兵装を持つ「防空戦艦」としての側面を
まだ十分に証明する機会を得ていなかった。

シンガポールの陥落は、緒戦における日本軍の勢いをさらに加速させた。
大和は、その輝かしい戦果を背負い、再び南の海を航行する。
だが、この勝利が、いずれ来るであろう、さらに過酷な試練の序章に過ぎないことを
この時の誰もが知る由はなかったのである。
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