第二水上戦群 略称二水戦  南西諸島方面へ突入す

みにみ

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南西諸島の激震

計算された開戦

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高知県沖、静寂に包まれた夜の海。
波音だけが響く中、護衛艦「はぐろ」の艦内は、張り詰めた空気に満ちていた。
戦闘情報センター(CIC)に詰める隊員たちの顔に、微かな緊張が走る。
彼らの視線は、瞬く間に点滅を繰り返すレーダー画面に釘付けだった。

「CIC、状況報告」
艦橋から、艦長の声が届く。

「艦長、中華人民共和国海軍の動向に変化はありません。
 ですが、台湾周辺での演習規模が、これまでになく大規模化しています。
 特に、広州沿岸部では、複数の揚陸艦の動きが確認されています」
CIC員の一人が、冷静に報告を続ける。

「偵察衛星の情報と照合を」艦長は短く指示を出した。

その時だった。レーダー画面に、それまでとは全く異なる動きを捉えた。
台湾島北東、60km地点。そこに突如として現れた複数の光点。
それは、通常の演習では見られない、戦闘機に特有の機動だった。

「レーダー、不明機多数、急速接近!」

「識別、敵機!」

「味方機も確認!米海軍第7艦隊のF/A-18ホーネットです!」

その報告に、CIC内の空気が一変する。誰もが息をのんだ。
米軍機と中国軍機が、台湾上空で交戦状態に入った。
それは、誰もが予期していなかった、突然の出来事だった。

「まさか、突発的な交戦…?」

「いや、違う」CIC員の一人が、固唾を飲んで画面を凝視していた。
「この動きは…計算されています。敵の空母機動部隊が
 台湾の西方から展開しています。
 空母『福建』も確認!それに続くのは…揚陸艦部隊です!」

それは、単なる偶発的な戦闘ではなかった。
中国軍は、この突発的な交戦を隠れ蓑に、本格的な上陸作戦を開始していたのだ。
高知県沖に展開していた「はぐろ」のレーダーは
遥か遠方の台湾で、すでに火蓋が切られた戦争の兆候をはっきりと捉えていた。

その頃、呉基地の「かが」艦内では、神崎慎一郎司令官が
艦長や幹部を前に、厳しい表情で語りかけていた。

「事態は動いた。我々が最も恐れていた事態が、現実のものとなった」

「司令官、これは…」

「突発的な衝突などではない。これは、彼らが周到に準備した
 計算された戦争の始まりだ。米軍機との交戦は
 陽動に過ぎん。本命は、台湾への大規模な軍事侵攻だ」

神崎の言葉は静かなる覚悟に満ちていた。

深夜0時を過ぎたばかりの日本列島に、激震が走った。
テレビ画面には、臨時ニュース速報のテロップが流れる。

『速報:台湾侵攻を確認。中国、台湾に宣戦布告』

日本国民が寝静まった夜中、中華人民共和国は台湾に対して
正式に宣戦布告を行った。
それは、戦後日本の平和が、一瞬にして崩れ去る瞬間だった。

午前1時、首相官邸では、内閣総理大臣の大泉善次郎が、緊急記者会見を開いた。
その顔には、深い疲労と、しかし決意の光が宿っていた。

「国民の皆様、そして全世界の皆様。
 たった今、中華人民共和国が台湾に対し、宣戦布告を行ったことを確認いたしました」

大泉総理の言葉は、厳かに、そして力強く響いた。

「これは、日本の平和と安全にも重大な影響を及ぼす事態であると認識しております。
 すでに、日本国への攻勢もあり得ると判断し
 自衛隊に防衛出動待機命令を発動いたしました。
 今朝にも議員を集め、防衛出動を認可したいと考えております」

その言葉は、日本が戦後初めて、戦争という現実と向き合うことを意味していた。

同時に、自衛隊の各部隊に、緊急命令が下された。

陸上自衛隊沖縄方面隊には、防御陣地構築の指示が飛んだ。
これまで訓練でしか扱ってこなかった土嚢や鉄条網が
現実の戦争の準備として、沖縄の土壌に積み上げられていく。
隊員たちは、一睡もせずに持ち場に戻り、粛々と作業を開始した。

九州方面に展開している地対艦ミサイル連隊にも、命令が下された。
「各射撃位置に移動開始!敵艦隊の侵攻に備えよ!」

地対艦ミサイル12式地対艦誘導弾改を搭載した車両が
夜のハイウェイを南に向けて走り始めた。
その車列は、まるで日本を守るための蛇のように、暗闇の中を進んでいく。
九州方面の各部隊も、非常召集をかけ、隊員たちを集め始めた。
その多くは、まだ20代前半の若者たちだった。
彼らは、眠い目をこすりながら
しかしその表情には、自衛官としての使命感が満ち溢れていた。

そして、呉基地の「かが」に、ついに命令が下された。

「第二水上戦群、緊急出港!南西諸島海域へ進出せよ!」

艦内に、出港準備を告げるアナウンスが響き渡る。
隊員たちは、戸惑いと緊張を胸に、しかしその顔は引き締まっていた。

「いよいよ、か…」

「俺たち、本当に戦争に行くのか…」

若い隊員たちの間で囁き声が交わされる。
しかし、彼らは誰も、持ち場を離れようとはしなかった。
彼らは、自衛官として、この日のために訓練を積んできたのだ。

佐々木一等海士は、「さみだれ」の艦橋で
ただ静かに港を見つめていた。祖父の言葉が、再び彼の胸に響く。

『戦争は、人間の心から何もかもを奪っていくものだ。』

佐々木は、この平和な呉の港を
そして故郷を、もう二度と見ることができないかもしれないという予感に襲われた。
だが、その不安は、彼の足を止めることはなかった。
彼の背後には、彼が守るべき日本という国がある。
そして、その国を守るために、彼は今、この艦に乗っているのだ。

「全艦、出港準備完了!」

「かが、錨鎖巻き上げ開始!」

「さみだれ、続いて出港!」

夜明け前の呉湾に、巨大な艦体がゆっくりと動き出した。
それは、戦後日本の歴史が、新たなページを刻む瞬間だった。
神崎司令官は、艦橋からその光景を静かに見つめていた。彼の表情には、一切の迷いはなかった。

「曾祖父よ、見ていてくれ。この現代の『二水戦』が、いかにしてこの国を守るかを」

彼の言葉は、夜の闇に吸い込まれていった。
そして、「かが」は、静かに、しかし力強く、戦いの海へと向かっていった。
その艦影は、夜明けの空に浮かぶ一筋の光のように
希望と、そして犠牲を予感させていた。
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