第二水上戦群 略称二水戦  南西諸島方面へ突入す

みにみ

文字の大きさ
3 / 6
南西諸島の激震

君は人を殺められるか

しおりを挟む
瀬戸内海の夜は、まるで漆黒の絨毯を敷き詰めたように静かだった。
しかし、その闇を切り裂くように、第二水上戦群の艦隊が力強く進んでいく。
護衛艦「かが」を旗艦とする巨大な艦影が、闇夜に浮かび上がり
その威容は、まるで未来への希望を乗せているようでもあり
同時に、底知れぬ恐怖を運んでいるようでもあった。

艦隊は、0800時には太平洋上に展開している護衛艦「はぐろ」と合流する予定だ。
さらにその後、鹿児島沖合で、第一水上戦隊の旗艦である
「いずも」をはじめとする強力な艦隊と合流することになっていた。
その中には、「いずも」と並んで海上自衛隊の最新鋭艦である
「まや」と「こんごう」といったイージス艦も含まれていた。
「いずも」には、米海軍との共同運用を前提としたF-35B戦闘機が14機
さらに哨戒ヘリコプターSH-60が6機搭載されており
日本の海上防衛における強力な戦力の中核を担うことになっていた。
これらの艦艇が一つにまとまった時
それはかつてないほどの、強力な海上戦力となるだろう。

護衛艦「さみだれ」の艦橋で、新人乗員の佐々木一等海士は
故郷の光が遠ざかっていくのをじっと見つめていた。
夜の闇に溶けていく呉の街の灯りが
まるで彼の平和な日常を象徴しているかのように見えた。
その光が完全に消え去った時、彼の日常も終わりを告げるのだろうか。

彼の胸には、得体の知れない恐怖が渦巻いていた。
つい数時間前まで、平和な日常を送っていた。友人と談笑し、家族と電話で話す。
それが、たった一晩で非日常へと一変した。
防衛出動待機命令が発令され、彼らは今、戦いの海へと向かっている。
それは、まるでSF映画のワンシーンのようであり
しかし、あまりにも現実的だった。

隣に立つ古参のベテラン隊員、三浦一等海曹が、佐々木の肩にそっと手を置いた。
「怖くなるのは当たり前だ。俺たちだって、みんな同じ気持ちだ」
三浦の声は、静かでありながら、不思議な安心感があった。
佐々木は言葉を返せなかった。頭の中を、祖父の言葉がリフレインする。
「戦争は、人間の心から何もかもを奪っていくものだ」
祖父は、かつて駆逐艦「初霜」に乗っていた。坊ノ岬沖海戦で
戦艦大和と共に散った僚艦の姿を、彼の祖父は目の当たりにしたのだ。
彼が語る戦争は、いつも血と悲しみと、そして後悔に満ちていた。
佐々木は、祖父の話をどこか遠い国の物語のように聞いていたが
今、その物語の登場人物になったのだ。

「俺は、人を殺せるだろうか…」
佐々木は、ポツリとつぶやいた。

三浦は、何も言わずに静かに佐々木を見つめた。
その眼差しには、佐々木と同じような葛藤と
そしてそれを乗り越えてきた者の静かな覚悟が宿っていた。
夜の海に、艦隊が立てる波の音だけが響く。

佐々木は、自らが訓練で習得した技術を思い返す。
対潜戦闘、対艦戦闘、対空戦闘。それらはすべて、仮想敵を相手にしたものだった。
訓練弾の模擬魚雷や訓練用の砲弾。それらが命中しても
仮想敵が消滅するだけで、そこに血や肉が飛び散ることはなかった。
しかし、これからは違う。訓練ではない。
そこには、生身の人間が乗る艦や飛行機があるのだ。
彼らが操作する兵器は、人を殺すためのものだった。

佐々木は、自らが武器を手にするたびに
その重さに、そしてその意味に、改めて気づかされた。
それは、自衛官という職業が持つ、本質的な矛盾だった。
国を守るという崇高な使命と、そのために人の命を奪うという
避けられない行為。そして、その武器を
誰かに向けることの重みに、彼は耐えられるのだろうか。

彼の心の中には、恐怖と葛藤が激しく渦巻いていた。
しかし、彼は逃げ出すことはできない。
ここには、彼と同じように恐怖を抱えながらも、任務を遂行しようとする仲間たちがいる。
そして、この艦隊の背後には、彼が守るべき日本という国がある。
愛する家族がいる。この平和な日常を、たった一夜で壊してはならない。

瀬戸内海の穏やかな光は、もう見えなくなった。
代わりに、水平線の向こうには、不気味なほどの闇が広がっている。
その闇の向こうには、どのような現実が待っているのだろうか。
佐々木は、その闇から目をそらすことができなかった。
彼は、自らが背負う使命の重さを、改めて噛みしめていた。
それは、祖父がかつて背負ったものと同じだった。
夜の海を、艦隊はただひたすらに南へと進んでいく。その航跡は、日本の運命の航跡でもあった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

万能艦隊

ypaaaaaaa
歴史・時代
第一次世界大戦において国家総力戦の恐ろしさを痛感した日本海軍は、ドレットノート竣工以来続いてきた大艦巨砲主義を早々に放棄し、個艦万能主義へ転換した。世界の海軍通はこれを”愚かな判断”としたが、この個艦万能主義は1940年代に置いてその真価を発揮することになる…

小日本帝国

ypaaaaaaa
歴史・時代
日露戦争で判定勝ちを得た日本は韓国などを併合することなく独立させ経済的な植民地とした。これは直接的な併合を主張した大日本主義の対局であるから小日本主義と呼称された。 大日本帝国ならぬ小日本帝国はこうして経済を盤石としてさらなる高みを目指していく… 戦線拡大が甚だしいですが、何卒!

藤本喜久雄の海軍

ypaaaaaaa
歴史・時代
海軍の至宝とも言われた藤本喜久雄造船官。彼は斬新的かつ革新的な技術を積極的に取り入れ、ダメージコントロールなどに関しては当時の造船官の中で最も優れていた。そんな藤本は早くして脳溢血で亡くなってしまったが、もし”亡くなっていなければ”日本海軍はどうなっていたのだろうか。

超空の艦隊

ypaaaaaaa
歴史・時代
九六式陸上攻撃機が制式採用されたことで、日本陸海軍は国力の劣勢を挽回するために”空中艦隊”の建設を開始。言ってしまえば、重爆、軽爆、襲撃、重戦、軽戦の5機種を生産して、それを海軍の艦隊のように運用することである。陸海軍は協力して、ついに空中艦隊を建設し太平洋に大空へ飛び立っていく…

不沈の艦隊

ypaaaaaaa
歴史・時代
「国力で劣る我が国が欧米と順当に建艦競争をしても敗北は目に見えている」この発言は日本海軍最大の英雄うと言っても過言ではない山本権兵衛の発言である。これは正鵠を射ており、発言を聞いた東郷平八郎は問うた。「一体どうすればいいのか」と。山本はいとも簡単に返す。「不沈の艦を作れば優位にたてよう」こうして、日本海軍は大艦巨砲主義や航空主兵主義などの派閥の垣根を超え”不沈主義”が建艦姿勢に現れることになる 。

連合艦隊司令長官、井上成美

ypaaaaaaa
歴史・時代
2・26事件に端を発する国内の動乱や、日中両国の緊張状態の最中にある1937年1月16日、内々に海軍大臣就任が決定していた米内光政中将が高血圧で倒れた。命には別状がなかったものの、少しの間の病養が必要となった。これを受け、米内は信頼のおける部下として山本五十六を自分の代替として海軍大臣に推薦。そして空席になった連合艦隊司令長官には…。 毎度毎度こんなことがあったらいいな読んで、楽しんで頂いたら幸いです!

空母伊吹大戦録

ypaaaaaaa
歴史・時代
1940年に行われた図上演習において、対米戦の際にはどれだけ少なく見積もっても”8隻”の空母を喪失することが判明した。これを受けて、海軍は計画していた④計画を凍結し、急遽マル急計画を策定。2年以内に大小合わせて8隻の空母を揃えることが目標とされた本計画によって、軽空母である伊吹が建造された。この物語はそんな伊吹の生涯の物語である。

日露戦争の真実

蔵屋
歴史・時代
 私の先祖は日露戦争の奉天の戦いで若くして戦死しました。 日本政府の定めた徴兵制で戦地に行ったのでした。  日露戦争が始まったのは明治37年(1904)2月6日でした。  帝政ロシアは清国の領土だった中国東北部を事実上占領下に置き、さらに朝鮮半島、日本海に勢力を伸ばそうとしていました。  日本はこれに対抗し開戦に至ったのです。 ほぼ同時に、日本連合艦隊はロシア軍の拠点港である旅順に向かい、ロシア軍の旅順艦隊の殲滅を目指すことになりました。  ロシア軍はヨーロッパに配備していたバルチック艦隊を日本に派遣するべく準備を開始したのです。  深い入り江に守られた旅順沿岸に設置された強力な砲台のため日本の連合艦隊は、陸軍に陸上からの旅順艦隊攻撃を要請したのでした。  この物語の始まりです。 『神知りて 人の幸せ 祈るのみ 神の伝えし 愛善の道』 この短歌は私が今年元旦に詠んだ歌である。 作家 蔵屋日唱

処理中です...