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南西諸島の激震
命の重さ
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「対潜短魚雷、発射!」
護衛艦「さみだれ」の艦橋で、佐々木一等海士が震える手でボタンを押すと
艦体の発射管から2本の97式短魚雷が海中へと放たれた。
それは、佐々木が初めて自らの意思で放った、殺傷能力を持つ兵器だった。
「魚雷、目標へ向かって航走中!」
コンソールの画面に、魚雷が描く航跡が映し出される。
魚雷は、水中の獲物を追う獰猛な獣のように
中国海軍元級潜水艦「長城231」の音紋を頼りに、まっすぐと目標へと向かっていった。
佐々木は、その画面から目を離すことができなかった。
彼の心臓は、激しい音を立て、胸の奥でドクンドクンと脈打っていた。
それは、恐怖でもあり、期待でもあり、そして言いようのない罪悪感でもあった。
その頃、「きりさめ」の艦橋では、艦長が冷静な判断を下していた。
「デコイが魚雷を欺瞞している間に、全速力で魚雷の射程外へ離脱しろ!」
魚雷は、デコイの発する音波に惑わされ
一瞬進路を変えたが、すぐに元の進路へと戻り
「きりさめ」の艦尾をかすめていった。
「くそっ、見抜かれたか!」
艦長が舌打ちをする。しかし、その時、別のソナー員が叫んだ。
「さみだれ発射の魚雷、目標に命中!」
佐々木が発射した魚雷は、正確に元級潜水艦「長城231」の艦体に命中した。
深海に響き渡る轟音。それは、鋼鉄の塊が破壊される音であり
同時に、六十人近い命が失われる音でもあった。
だがやらなければ170人の乗組員が死んでいた
「敵潜水艦…撃沈確実」
「さみだれ」のCIC内は
一瞬の静寂の後、安堵と興奮が入り混じった歓声に包まれた。
だが、佐々木は、その歓声に加わることができなかった。
彼の頭の中には、ただ一つの疑問が渦巻いていた。
「俺は、人を殺したのか…」
彼の胸に、深い後悔と、そして言いようのない虚無感が押し寄せる。
それは、祖父が語っていた、戦争の残酷な現実だった。
佐々木は、今、祖父が経験した苦しみの、ほんの一端を垣間見た気がした。
同時刻、東京の国会議事堂では、緊迫した審議の末、ついに防衛出動が決定した。
「中国軍は与那国島を制圧し、さらに日本の領海を侵犯している。
これは、我が国の平和と安全に対する、明確かつ重大な脅威である!」
内閣総理大臣の大泉善次郎が、力強く演説する。
一部の野党は、最後まで抵抗を続けた。
「戦争に巻き込まれてはならない!外交交渉で解決すべきだ!」
「自衛隊が武力を行使すれば
中国の反発を招き、さらなる事態悪化を招くだけだ!」
彼らの言葉は、現実離れした理想論に聞こえた。
すでに、自衛隊員は命の危険に晒され
与那国島の島民は中国軍の侵攻に怯えている。
もはや、交渉で解決できる段階ではなかった。
大泉総理は、反対意見を一蹴した。
「国民の生命と安全を守ることが、政府の最大の使命である!
我々は、この使命を果たすために、自衛隊が武力を行使することを認める!」
その言葉に、議場は静まり返った。
それは、戦後日本の安全保障政策における、歴史的な転換点だった。
国会の決定と同時に、ニュース速報が日本全土を駆け巡った。
『速報:海上自衛隊、中国海軍潜水艦を撃沈』
それは、戦後初めて、日本が軍事衝突で勝利した瞬間だった。
だが、国民の反応は様々だった。
拍手喝采を送る者、静かに涙を流す者、そして、その報道に恐怖を覚える者。
そして、一部の大手報道局は、この事実を報道する一方で、独自の論調を流し始めた。
『自衛隊、国民の許可なく先制攻撃か?』
『自衛隊の暴走を止めるには』
『与那国島を差し出した日本政府の失策』
彼らは、政府の決定を批判し、自衛隊の行動を「暴走」と報じた。
事実を歪曲し、対潜魚雷の発射は
魚雷発射音を聴いた直後の反撃にもかかわらず
あたかも自衛隊が一方的に攻撃を開始したかのように報じた。
彼らにとって、国民の生命や安全は二の次だった。
視聴率を稼ぎ、自らの政治的な立ち位置をアピールすることが、最優先事項だった。
国民は、これらの報道に煽られ、分断されていった。
「自衛隊はよくやった!祖国を守るために戦ってくれたんだ!」
「戦争を始める気か!日本の平和憲法はどうなるんだ!」
SNS上では、激しい議論が交わされ、誹謗中傷が飛び交った。
多くの人々は、何が真実なのか、誰を信じればいいのか分からず、混乱していた。
一方、海の上では、現実が着実に進んでいた。
「これで、もう後戻りはできない」
神崎司令官は、「かが」の艦橋から水平線を見つめていた。
その表情には、勝利の喜びは微塵もなかった。
ただ、これから始まるであろう、さらなる戦いの重みを噛みしめているだけだった。
「次の戦いは、もっと厳しいものになる」
彼はそう確信していた。
かつて、彼の曾祖父が率いた旧海軍の第二水上戦隊も
坊ノ岬沖海戦で壊滅するまで、常に戦いの最前線に身を置いてきた。
その航路は、死と隣り合わせの航路だった。
そして今、神崎が率いる現代の二水戦も、同じ航路をたどろうとしている。
「この先、我々が守るべきものが、どれほど大きな犠牲を伴うか…」
神崎は、静かに呟いた。そして、彼は、艦隊全体に新たな指令を下した。
「全艦、警戒態勢を維持せよ。沖縄本島に迫る敵艦隊を阻止する」
彼の言葉は、厳しい現実を突きつけながらも、隊員たちに新たな使命感を与えた。
彼らは、もはや後戻りのできない、戦争という現実に足を踏み入れたのだ。
護衛艦「さみだれ」の艦橋で、佐々木一等海士が震える手でボタンを押すと
艦体の発射管から2本の97式短魚雷が海中へと放たれた。
それは、佐々木が初めて自らの意思で放った、殺傷能力を持つ兵器だった。
「魚雷、目標へ向かって航走中!」
コンソールの画面に、魚雷が描く航跡が映し出される。
魚雷は、水中の獲物を追う獰猛な獣のように
中国海軍元級潜水艦「長城231」の音紋を頼りに、まっすぐと目標へと向かっていった。
佐々木は、その画面から目を離すことができなかった。
彼の心臓は、激しい音を立て、胸の奥でドクンドクンと脈打っていた。
それは、恐怖でもあり、期待でもあり、そして言いようのない罪悪感でもあった。
その頃、「きりさめ」の艦橋では、艦長が冷静な判断を下していた。
「デコイが魚雷を欺瞞している間に、全速力で魚雷の射程外へ離脱しろ!」
魚雷は、デコイの発する音波に惑わされ
一瞬進路を変えたが、すぐに元の進路へと戻り
「きりさめ」の艦尾をかすめていった。
「くそっ、見抜かれたか!」
艦長が舌打ちをする。しかし、その時、別のソナー員が叫んだ。
「さみだれ発射の魚雷、目標に命中!」
佐々木が発射した魚雷は、正確に元級潜水艦「長城231」の艦体に命中した。
深海に響き渡る轟音。それは、鋼鉄の塊が破壊される音であり
同時に、六十人近い命が失われる音でもあった。
だがやらなければ170人の乗組員が死んでいた
「敵潜水艦…撃沈確実」
「さみだれ」のCIC内は
一瞬の静寂の後、安堵と興奮が入り混じった歓声に包まれた。
だが、佐々木は、その歓声に加わることができなかった。
彼の頭の中には、ただ一つの疑問が渦巻いていた。
「俺は、人を殺したのか…」
彼の胸に、深い後悔と、そして言いようのない虚無感が押し寄せる。
それは、祖父が語っていた、戦争の残酷な現実だった。
佐々木は、今、祖父が経験した苦しみの、ほんの一端を垣間見た気がした。
同時刻、東京の国会議事堂では、緊迫した審議の末、ついに防衛出動が決定した。
「中国軍は与那国島を制圧し、さらに日本の領海を侵犯している。
これは、我が国の平和と安全に対する、明確かつ重大な脅威である!」
内閣総理大臣の大泉善次郎が、力強く演説する。
一部の野党は、最後まで抵抗を続けた。
「戦争に巻き込まれてはならない!外交交渉で解決すべきだ!」
「自衛隊が武力を行使すれば
中国の反発を招き、さらなる事態悪化を招くだけだ!」
彼らの言葉は、現実離れした理想論に聞こえた。
すでに、自衛隊員は命の危険に晒され
与那国島の島民は中国軍の侵攻に怯えている。
もはや、交渉で解決できる段階ではなかった。
大泉総理は、反対意見を一蹴した。
「国民の生命と安全を守ることが、政府の最大の使命である!
我々は、この使命を果たすために、自衛隊が武力を行使することを認める!」
その言葉に、議場は静まり返った。
それは、戦後日本の安全保障政策における、歴史的な転換点だった。
国会の決定と同時に、ニュース速報が日本全土を駆け巡った。
『速報:海上自衛隊、中国海軍潜水艦を撃沈』
それは、戦後初めて、日本が軍事衝突で勝利した瞬間だった。
だが、国民の反応は様々だった。
拍手喝采を送る者、静かに涙を流す者、そして、その報道に恐怖を覚える者。
そして、一部の大手報道局は、この事実を報道する一方で、独自の論調を流し始めた。
『自衛隊、国民の許可なく先制攻撃か?』
『自衛隊の暴走を止めるには』
『与那国島を差し出した日本政府の失策』
彼らは、政府の決定を批判し、自衛隊の行動を「暴走」と報じた。
事実を歪曲し、対潜魚雷の発射は
魚雷発射音を聴いた直後の反撃にもかかわらず
あたかも自衛隊が一方的に攻撃を開始したかのように報じた。
彼らにとって、国民の生命や安全は二の次だった。
視聴率を稼ぎ、自らの政治的な立ち位置をアピールすることが、最優先事項だった。
国民は、これらの報道に煽られ、分断されていった。
「自衛隊はよくやった!祖国を守るために戦ってくれたんだ!」
「戦争を始める気か!日本の平和憲法はどうなるんだ!」
SNS上では、激しい議論が交わされ、誹謗中傷が飛び交った。
多くの人々は、何が真実なのか、誰を信じればいいのか分からず、混乱していた。
一方、海の上では、現実が着実に進んでいた。
「これで、もう後戻りはできない」
神崎司令官は、「かが」の艦橋から水平線を見つめていた。
その表情には、勝利の喜びは微塵もなかった。
ただ、これから始まるであろう、さらなる戦いの重みを噛みしめているだけだった。
「次の戦いは、もっと厳しいものになる」
彼はそう確信していた。
かつて、彼の曾祖父が率いた旧海軍の第二水上戦隊も
坊ノ岬沖海戦で壊滅するまで、常に戦いの最前線に身を置いてきた。
その航路は、死と隣り合わせの航路だった。
そして今、神崎が率いる現代の二水戦も、同じ航路をたどろうとしている。
「この先、我々が守るべきものが、どれほど大きな犠牲を伴うか…」
神崎は、静かに呟いた。そして、彼は、艦隊全体に新たな指令を下した。
「全艦、警戒態勢を維持せよ。沖縄本島に迫る敵艦隊を阻止する」
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