装甲航空母艦信濃      南東の海へといざ参らん

みにみ

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南洋諸島沖決戦

抜錨

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1944年12月10日
朝焼けがパラオの海を赤く染める中
連合艦隊の艦影が静かに揺れていた。珊瑚礁に囲まれたこの泊地は
帝国海軍の前進基地として、戦略の要衝となっていた。
空母大鳳、翔鶴、瑞鶴、隼鷹、飛鷹、龍鳳、瑞鳳、信濃が錨を下ろし
戦艦大和、武蔵、長門、重巡洋艦愛宕、高雄、摩耶
軽巡洋艦矢矧、能代、駆逐艦島風、時雨、雪風がその周囲を固める
甲板では整備員たちが忙しく動き回り、紫電改ニや天山のエンジン音が朝の静寂を破っていた。

信濃の艦橋に立つ阿部俊雄大佐は、遠くの水平線を見つめていた。
トラック沖の敗北を胸に刻み、呉で修理を終えた信濃は、
36機の紫電改ニと22機の天山を搭載し、連合艦隊の要として再び海を進む。
彼は副長の山田義雄中佐に声をかける。
「山田、米軍の動きは掴めているか?」
山田は海図を手に、
「彩雲の報告を待っています。敵の空母は多いと予想されます
 どうせチュークで撃破した母艦だってもう修理できてるでしょう」と答えた。
阿部の瞳には、決意と僅かな不安が宿っていた。

連合艦隊は、マリアナ防衛を賭けた決戦に備え、
精緻な編成を整えていた。本隊甲部隊は小沢治三郎中将が率い、
空母大鳳、翔鶴、瑞鶴を中核とする。
重巡妙高、羽黒、軽巡矢矧、
駆逐艦霜月、朝雲、風雲、磯風、浦風、谷風、初月、若月、秋月が護衛に就く。

本隊乙部隊は城島高次少将が指揮し、隼鷹、飛鷹、龍鳳、長門を擁し、
時雨、五月雨、白露、満潮が護衛。

前衛部隊は栗田健男中将が統括し、
信濃、瑞鳳、大和、武蔵、重巡愛宕、高雄、鳥海、摩耶、
熊野、鈴谷、利根、筑摩、軽巡能代、
駆逐艦島風、藤波、浜波、玉波、早波、長波を率いていた。

大鳳は紫電改ニ24機、天山24機、彩雲4機を搭載し、索敵と雷撃を担う。
翔鶴は紫電改ニ32機、彗星21機、天山18機で制空と爆撃を両立。
瑞鶴は紫電改ニ18機、零式爆戦16機、彗星11機、天山14機で多用途性を発揮。
隼鷹、飛鷹、龍鳳は零式艦戦や九九艦爆で支援し、
信濃は紫電改ニ36機、天山22機で航空戦の主力となっていた。
この艦隊は、米軍の圧倒的な物量に対抗すべく、戦略と士気を結集していた。


正午近く、彩雲偵察機がマリアナ近海から帰還し、緊迫した空気を運んできた。
隊長の田中中尉が信濃の甲板に降り立ち、阿部の前に立つ。

「艦長、米部隊を発見。方位270度、距離300マイル。
 正規空母7隻と軽空母8隻を含む大艦隊です 通信機の故障により伝達が遅れました」

田中が海図に点を打つと、艦橋は静まり返った。

阿部は報告を聞き、唇を噛む。米軍の15隻の空母
推定艦載機900機は、連合艦隊の404機を大きく上回っていた。
「山田、敵の戦力は予想以上だ。だが、紫電改ニの性能を信じるしかない。」

山田は頷き、
「夜間戦闘と奇襲で対抗しましょう。
 信濃の航空隊は準備できています。」

阿部は無線で小沢中将に報告し、戦略会議の召集を待った。

旗艦大鳳の作戦室では、小沢中将が参謀たちと海図を囲む。
米軍の戦力が明らかになり、会議は緊迫していた。

「敵空母15隻か…我々の4隻では厳しいが、
 先制攻撃で敵の航空戦力を削ぐ。」小沢の声は低く響く。

参謀の一人が進言する。
「夜間戦闘を活用し、敵の連携を乱すべきです。
 前衛部隊の大和、武蔵で戦艦群を牽制し、本隊甲部隊で空母を叩きましょう。」

小沢は頷き、

「その通り。栗田中将に前衛の役割を明確に伝える。
 阿部大佐には信濃の航空隊で敵空母を攻撃させろ。」

小沢の命令は各艦に伝わり、連合艦隊は動き出した。
本隊甲部隊は航空戦を主導し、本隊乙部隊は支援と牽制、
前衛部隊は敵の先鋒を叩く。栗田は前衛部隊の指揮を執り、
無線で阿部に連絡。

「阿部大佐、信濃の紫電改ニで敵空母を叩け。
 大和と武蔵で敵戦艦を食い止める。」阿部は応え、

「了解しました!信濃は全力を尽くします。」

信濃の飛行甲板は、戦いの予感に満ちていた。
紫電改ニ36機と天山22機が整列し、
整備員たちが最終点検に追われる。
林勇二飛曹はコックピットに座り、操縦桿を握り締める。
トラックで失った友、宮崎の笑顔が脳裏をよぎる。

整備員の佐藤一等兵は、林の機体を調整し、汗を拭う。

「林飛曹、この紫電改ニは完璧だ。マリアナで暴れてくれ。」

林は笑みを浮かべ

「佐藤、任せろ。宮崎の仇は俺が取る。」

甲板では、若手パイロットたちが互いに励まし合い、戦意を高めていた。

パラオ泊地の空気は、決戦への覚悟で張り詰めていた。
大鳳の飛行甲板では、紫電改ニ24機が離陸準備を整え、
翔鶴の彗星隊は爆撃のシナリオを練る。瑞鶴の零式爆戦隊は低空攻撃を想定し
隼鷹、飛鷹、龍鳳の零式艦戦は支援任務に備える。
長門の41cm主砲は、米戦艦との対決を見据え、点検を終えていた。

大和の艦橋では、艦長の森下信衛少将が乗組員に号令をかける。
「マリアナは帝国の防衛線だ。全員、死力を尽くせ!」

武蔵の対空機銃は、米軍の航空攻撃に備え、
整備員の手で磨き上げられていた。連合艦隊の乗組員は、
トラックの悔しさを胸に、マリアナでの再起を誓う。

夜が訪れ、パラオの海は静寂に包まれた。
信濃の艦橋で、阿部は星空を見上げ、戦いの重さを噛み締める。
「山田、米軍の物量は圧倒的だ。だが、我々の戦意は負けん。」

山田は頷き、

「信濃の紫電改ニは、F6Fを凌駕します。艦長、必ず勝ちましょう。」

林飛曹は甲板の片隅で、紫電改ニの機体に触れる。
「宮崎、俺は負けない。お前の分まで戦う。」
佐藤一等兵が近づき、
「林飛曹、機体は完璧だ。明日は大暴れだな。」

林は笑い、「佐藤、絶対に勝つぞ。」二人の声は、夜の海に響いた。

1944年12月10日、パラオ泊地での最終調整は
連合艦隊の運命を左右する瞬間だった。彩雲の報告により
米第58任務部隊の脅威が明らかになり、小沢、栗田、阿部は戦略を固める
信濃を率いる阿部は、乗組員に決意を呼びかける。
「マリアナは帝国の最後の砦だ。死力を尽くして戦え!」
林飛曹は紫電改ニに乗り込み、佐藤一等兵は機体の準備を終える。
連合艦隊は、米軍の圧倒的な戦力に立ち向かい、マリアナ沖海戦の舞台へと踏み出すのだった。
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