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邀撃 比島方面迎撃戦
雑木林
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1945年2月13日の夜の帳は、フィリピン北東沖だけでなく
レイテ湾へと続くサンベルナルジノ海峡にも、深い闇を落としていた。
この夜、太平洋戦争の命運を分ける致命的な戦術的空白が生じていた。
ウィリアム・F・ハルゼー大将は、小沢機動部隊を
「日本の全航空戦力」と断定し、その殲滅という一世一代の獲物に心奪われていた。
彼は、栗田艦隊の一時撤退を「全面敗走」と誤認し
第38任務部隊の全戦力を率いて北進を開始。
その際、サンベルナルジノ海峡を監視するべく準備されていた
高速戦艦部隊(第34任務部隊)も、空母への砲雷撃のために全て引き抜いてしまった。
ハルゼーの判断は、楽観的であった。
「レイテ湾にはキンケイド提督の第7艦隊が残っている。
栗田が引き返してきても、彼らが対応できる」と過信したのだ。
そのため、彼は北進の詳細をキンケイド提督に伝達することを怠った。
相互不信と詳細な説明の欠如が、米軍の巨大な指揮系統に致命的な亀裂を生じさせた。
一方、レイテ湾のトーマス・K・キンケイド提督は
ハルゼーからのTF34編成通達を、海軍の慣例(準備命令は未発動)を無視し
「TF34は既に編成され、サンベルナルジノ海峡を防衛している」と誤解していた。
彼は、高速戦艦を主力とする強力な砲撃部隊が
北方の備えに当たっていると思い込み
ハルゼーに確認を取るという初歩的な行動も起こさなかった。
栗田艦隊が静かに引き返すことを可能にする「空虚」は
小沢機動部隊の血の犠牲ではなく、米軍指揮官たちの
傲慢と連絡の不徹底によって、サンベルナルジノ海峡に出現したのである。
同時刻、小沢機動部隊本隊は、ハルゼー艦隊の追撃を避けるべく、北へ転進していた。
旗艦「瑞鶴」を失ったため、「大鳳」に移乗していた小沢長官は
栗田艦隊の一時撤退を受けて、自らの艦隊が敵中に孤立することを恐れ
分離していた「伊勢」「日向」との合流を急いでいた。
しかし、前衛を構成していた駆逐艦のうち
「杉」と「桐」の二隻は、第一次攻撃で着水した
搭乗員の救助活動に時間を費やしたため、本隊との合流に大幅に遅れを生じていた。
夜闇の中、「杉」の艦長は、無線で本隊の位置を把握しようと試みたが
「大鳳」の通信装置が被弾により不調であったため、連絡は不確実であった。
彼らは、わずかな希望と方位磁針だけを頼りに、北上を続けていた。
その時、「杉」の見張り員が、闇夜の中に無数の光と巨大な艦影を発見した。
「艦長!右舷前方!大艦隊です!我が方の艦隊ではありません!敵…敵です!」
「杉」と「桐」は、ハルゼー大将率いる高速戦艦群
そしてそれを護衛する巡洋艦や駆逐艦が構成する
巨大な隊列の真ん中に、紛れ込んでしまっていたのだ。
闘
絶望的な状況であった。「杉」と「桐」は、本隊に合流しようとするあまり
米艦隊の真っただ中に突入してしまった。彼らが取るべき選択肢は
戦闘を避けて逃走するか、最後の任務を果たすために水雷戦闘を挑むか、その二択しかなかった。
「杉」の艦長は、静かに決断した。
「ハルゼーをこの場に釘付けにせよ。栗田長官への援護を、我々が果たす!」
二隻の駆逐艦は、エンジン音を極限まで絞り
低速で米艦隊の輪形陣へ潜入した。
夜闇は、彼らの小柄な艦体を隠す、唯一の盾であった。
21時過ぎ、「杉」「桐」は、輪形陣の中央に位置する巨大な空母の艦影を発見。
彼らは、これをハルゼーが最優先で守るべき主力空母であると判断した。
「魚雷発射用意!目標、敵空母!」
「桐」の艦橋には、緊張を通り越した静寂が支配していた。
魚雷発射管室の乗員たちは、酸素魚雷を装填し、最終発射命令を待つ。
「発射!」「一番発射!」
圧縮空気が魚雷を射出筒から押し出す「パシュー」という低い音だけが響く。
魚雷は、白い航跡を曳きながら、静かに敵空母の喫水線へと向かっていった。
二隻の駆逐艦から、計八本の魚雷が放たれた。
数分後、闇夜の海面で、爆発の閃光が連続して走った。
「杉」の見張り員が、興奮した声で叫ぶ。
「艦長!命中!一本!二本!四本命中を確認!」
「杉」「桐」から放たれた魚雷は、夜闇と奇襲という利点を活かし
敵空母へ四本の命中弾を叩き込んだと観測された
(戦史によれば、この戦果は誤認である可能性が高いが
彼らは最後の瞬間まで「戦果を挙げた」と信じていた)。
「桐」の通信士は、その命懸けの戦果を
最後の電文として小沢機動部隊本隊へと送信した。
「我、敵空母一隻に魚雷四本命中を報ず。
これより離脱を試む。総員、皇国の弥栄を祈る!」
しかし、夜襲は成功したものの
彼らの潜入は魚雷の航跡と爆発の閃光によって露呈した。
米艦隊は、狂ったように反応した。
一瞬にして、巨大な戦艦や巡洋艦の探照灯が夜闇を切り裂き、二隻の駆逐艦を白日の下に晒した。
「杉」の艦長が回避行動を命じる間もなく
ボフォース、5インチ砲、8インチ砲の猛烈な斉射が、二隻の小さな艦体に集中した。
それは、戦艦の集中砲火であり、駆逐艦の装甲では耐えようがない圧倒的な暴力だった。
閃光が艦体を包み込み、轟音が無線を切り裂いた。
「杉」と「桐」は、通信途絶の直後、大量の命中弾を受け、船体は爆発炎上。
一瞬にして轟沈した。彼らが放った
魚雷の航跡だけが、夜光虫のように静かに海面に残された。
小沢長官は、「大鳳」の不完全な通信機が
奇跡的に受信した「杉」「桐」の最後の電文に、黙祷を捧げた。
「杉」「桐」という二隻の駆逐艦の命懸けの犠牲は
ハルゼー艦隊に対し、日本の空母がまだ近辺にいるという誤った印象を与え
北上の決意をさらに強固にさせた。
そして、2月14日(25日)の早朝。
小沢機動部隊本隊は、夜間の転進により
一時的に米艦隊から距離を取ることに成功していた。
しかし、夜明けとともに水平線を越えて、再び米軍の索敵機の接触を受けた。
夜が明けるとともに、戦場の舞台は整った。
ハルゼー艦隊の全戦力が、北方へと集結しつつある。
小沢機動部隊は、囮としての最後の役割を果たすべく
血で染まった甲板を晒しながら、米軍の第一次攻撃隊の来襲を
覚悟をもって待ち受けていた。
彼らは、この日の日中、航空主兵時代の終焉を見届けることになるのだ。
レイテ湾へと続くサンベルナルジノ海峡にも、深い闇を落としていた。
この夜、太平洋戦争の命運を分ける致命的な戦術的空白が生じていた。
ウィリアム・F・ハルゼー大将は、小沢機動部隊を
「日本の全航空戦力」と断定し、その殲滅という一世一代の獲物に心奪われていた。
彼は、栗田艦隊の一時撤退を「全面敗走」と誤認し
第38任務部隊の全戦力を率いて北進を開始。
その際、サンベルナルジノ海峡を監視するべく準備されていた
高速戦艦部隊(第34任務部隊)も、空母への砲雷撃のために全て引き抜いてしまった。
ハルゼーの判断は、楽観的であった。
「レイテ湾にはキンケイド提督の第7艦隊が残っている。
栗田が引き返してきても、彼らが対応できる」と過信したのだ。
そのため、彼は北進の詳細をキンケイド提督に伝達することを怠った。
相互不信と詳細な説明の欠如が、米軍の巨大な指揮系統に致命的な亀裂を生じさせた。
一方、レイテ湾のトーマス・K・キンケイド提督は
ハルゼーからのTF34編成通達を、海軍の慣例(準備命令は未発動)を無視し
「TF34は既に編成され、サンベルナルジノ海峡を防衛している」と誤解していた。
彼は、高速戦艦を主力とする強力な砲撃部隊が
北方の備えに当たっていると思い込み
ハルゼーに確認を取るという初歩的な行動も起こさなかった。
栗田艦隊が静かに引き返すことを可能にする「空虚」は
小沢機動部隊の血の犠牲ではなく、米軍指揮官たちの
傲慢と連絡の不徹底によって、サンベルナルジノ海峡に出現したのである。
同時刻、小沢機動部隊本隊は、ハルゼー艦隊の追撃を避けるべく、北へ転進していた。
旗艦「瑞鶴」を失ったため、「大鳳」に移乗していた小沢長官は
栗田艦隊の一時撤退を受けて、自らの艦隊が敵中に孤立することを恐れ
分離していた「伊勢」「日向」との合流を急いでいた。
しかし、前衛を構成していた駆逐艦のうち
「杉」と「桐」の二隻は、第一次攻撃で着水した
搭乗員の救助活動に時間を費やしたため、本隊との合流に大幅に遅れを生じていた。
夜闇の中、「杉」の艦長は、無線で本隊の位置を把握しようと試みたが
「大鳳」の通信装置が被弾により不調であったため、連絡は不確実であった。
彼らは、わずかな希望と方位磁針だけを頼りに、北上を続けていた。
その時、「杉」の見張り員が、闇夜の中に無数の光と巨大な艦影を発見した。
「艦長!右舷前方!大艦隊です!我が方の艦隊ではありません!敵…敵です!」
「杉」と「桐」は、ハルゼー大将率いる高速戦艦群
そしてそれを護衛する巡洋艦や駆逐艦が構成する
巨大な隊列の真ん中に、紛れ込んでしまっていたのだ。
闘
絶望的な状況であった。「杉」と「桐」は、本隊に合流しようとするあまり
米艦隊の真っただ中に突入してしまった。彼らが取るべき選択肢は
戦闘を避けて逃走するか、最後の任務を果たすために水雷戦闘を挑むか、その二択しかなかった。
「杉」の艦長は、静かに決断した。
「ハルゼーをこの場に釘付けにせよ。栗田長官への援護を、我々が果たす!」
二隻の駆逐艦は、エンジン音を極限まで絞り
低速で米艦隊の輪形陣へ潜入した。
夜闇は、彼らの小柄な艦体を隠す、唯一の盾であった。
21時過ぎ、「杉」「桐」は、輪形陣の中央に位置する巨大な空母の艦影を発見。
彼らは、これをハルゼーが最優先で守るべき主力空母であると判断した。
「魚雷発射用意!目標、敵空母!」
「桐」の艦橋には、緊張を通り越した静寂が支配していた。
魚雷発射管室の乗員たちは、酸素魚雷を装填し、最終発射命令を待つ。
「発射!」「一番発射!」
圧縮空気が魚雷を射出筒から押し出す「パシュー」という低い音だけが響く。
魚雷は、白い航跡を曳きながら、静かに敵空母の喫水線へと向かっていった。
二隻の駆逐艦から、計八本の魚雷が放たれた。
数分後、闇夜の海面で、爆発の閃光が連続して走った。
「杉」の見張り員が、興奮した声で叫ぶ。
「艦長!命中!一本!二本!四本命中を確認!」
「杉」「桐」から放たれた魚雷は、夜闇と奇襲という利点を活かし
敵空母へ四本の命中弾を叩き込んだと観測された
(戦史によれば、この戦果は誤認である可能性が高いが
彼らは最後の瞬間まで「戦果を挙げた」と信じていた)。
「桐」の通信士は、その命懸けの戦果を
最後の電文として小沢機動部隊本隊へと送信した。
「我、敵空母一隻に魚雷四本命中を報ず。
これより離脱を試む。総員、皇国の弥栄を祈る!」
しかし、夜襲は成功したものの
彼らの潜入は魚雷の航跡と爆発の閃光によって露呈した。
米艦隊は、狂ったように反応した。
一瞬にして、巨大な戦艦や巡洋艦の探照灯が夜闇を切り裂き、二隻の駆逐艦を白日の下に晒した。
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閃光が艦体を包み込み、轟音が無線を切り裂いた。
「杉」と「桐」は、通信途絶の直後、大量の命中弾を受け、船体は爆発炎上。
一瞬にして轟沈した。彼らが放った
魚雷の航跡だけが、夜光虫のように静かに海面に残された。
小沢長官は、「大鳳」の不完全な通信機が
奇跡的に受信した「杉」「桐」の最後の電文に、黙祷を捧げた。
「杉」「桐」という二隻の駆逐艦の命懸けの犠牲は
ハルゼー艦隊に対し、日本の空母がまだ近辺にいるという誤った印象を与え
北上の決意をさらに強固にさせた。
そして、2月14日(25日)の早朝。
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しかし、夜明けとともに水平線を越えて、再び米軍の索敵機の接触を受けた。
夜が明けるとともに、戦場の舞台は整った。
ハルゼー艦隊の全戦力が、北方へと集結しつつある。
小沢機動部隊は、囮としての最後の役割を果たすべく
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