If太平洋戦争        日本が懸命な判断をしていたら

みにみ

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邀撃 比島方面迎撃戦

届かぬ電報

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1945年2月14日早朝。エンガノ岬沖の海面は
昨夜の駆逐艦「杉」「桐」の戦闘の痕跡を静かに隠していた。
夜明けとともに、小沢機動部隊本隊は再び米索敵機の接触を受けた。
そして8時15分、ハルゼー大将が差し向けた米第一次攻撃隊180機が
日本の空母群を殲滅すべく、太陽の方向から殺到してきた。

「敵機、大編隊、方位〇九〇!数は…百八十機以上!」

**旗艦「大鳳」**の艦橋に、見張り員の悲鳴に似た声が響き渡る。

空母甲板からは、迎撃を担う戦闘機隊が、最後の力を振り絞って発艦していった。
烈風艦戦57機、旧式の零戦二二型甲14機、零戦五二型32機など
合計100機を超える日本の迎撃機が、三倍近い米軍のF6Fヘルキャットと
F4Uコルセアの大編隊に向かって、逆落としに突っ込んでいく。

空戦は、開戦直後から熾烈を極めた。

烈風の大馬力と格闘戦能力は健在だったが、数の差は歴然としていた。
米軍機は、編隊を組んで優位な高度から一撃離脱を仕掛け
日本の迎撃機を消耗させていく。

「烈風隊、離れるな!隊長機に続け!」

無線は、既にノイズと絶叫に埋もれていた。
日本のパイロットたちは、昨日の第一次攻撃で半数近くの僚機を失い、疲労困憊していた。
しかし、彼らは空母を守るという最後の任務を果たすべく
血反吐を吐くような機動を繰り返した。

一機、また一機と、日本の迎撃機が黒煙を噴き上げて海へ落ちていく。
彼らの決死の奮戦は、敵の戦闘機隊を足止めすることに成功したものの
攻撃隊の突破を防ぐには、数が少なすぎた。


8時42分。ついに敵攻撃機隊は、機動部隊の輪形陣へ突入を開始した。
雷撃機のアベンジャー、急降下爆撃機のヘルダイヴァーの大編隊が
雲間を縫って空母群へ向かって降下する。

これを迎え撃つ、小沢艦隊の対空砲火は
日本の最後の抵抗として、冬晴れの空を狂気の火線で彩った。

秋月型駆逐艦の長10センチ高角砲が、「パン、パン」という甲高い音と共に
高速で正確な弾幕を形成する。それは、米軍が恐れた日本の優秀な高角砲であった。
「信濃」を始めとする各艦の12.7センチ高角砲も、轟音を響かせ、空中で火花を散らす。

そして、艦隊全体に数百門が搭載された25ミリ機銃が
「ダダダダダ!」という連続音と共に、火線を描いて四方八方へ散りまくった。
弾薬の薬莢が甲板に滝のように降り注ぎ、硝煙が海面を覆い始める。

しかし、米軍機は180機。
その数は、対空弾幕の密度を遥かに上回っていた。


激しい弾幕戦の中、輪形陣の防衛の要を担っていた
防空駆逐艦「秋月」に、運命の瞬間が訪れた。

「秋月」は、その長10センチ高角砲をフル稼働させ、雷撃機の編隊に猛射を加えていた。
その勇敢な奮戦が、米軍機の集中攻撃を招いた。

8時50分。「秋月」の艦体中央部に、致命的な一発が直撃する。
爆弾は、弾薬庫か、あるいは魚雷発射管を誘爆させた。

「秋月」は、輪形陣の真っただ中で、凄まじい大爆発を起こした。

火柱は、数百メートル上空まで達し、船体は金属の悲鳴を上げて
瞬時に二つに割れた。その巨大な艦影が、たった数分で、波間に消えていく。

「秋月」の轟沈は、艦隊全体の士気に、冷酷な現実を突きつけた。
「秋月」の生存者は、辛うじて残った駆逐艦「槇」が救助に当たったが
輪形陣の防御力は、一瞬で大きく低下した。


「秋月」の犠牲は、他の艦への集中攻撃を加速させた。

特に、軽空母「飛鷹」への攻撃は、凄まじいものであった。
「飛鷹」は、爆弾の直撃弾を9発受け、さらに魚雷を3本も被雷した。

被雷により艦体に大穴が開き、直撃弾による火災が格納庫全体に広がる。
甲板からは、黒い煙が巨大なキノコ雲のように立ち昇り
「飛鷹」は航行不能に陥った。乗員たちの懸命な消火活動も虚しく
「飛鷹」は9時37分、ついに力尽きて沈没した。
生存者は、駆逐艦「霜月」と軽巡洋艦「五十鈴」が収容した。

他の空母も、無事では済まなかった。

軽空母「瑞鳳」**には、爆弾2発が命中。
飛行甲板に大きな損傷を負い、発着艦能力を喪失した。

旗艦「大鳳」にも、艦橋至近弾が襲いかかった。
これは致命傷にはならなかったものの、通信装置が激しく破損し
遠距離通信が一切不可能となる致命的な通信障害が発生した。
囮作戦の要である旗艦が、情報を発信できないという絶望的な事態に陥ったのだ。


この地獄のような攻撃の中で
一隻の巨大空母が、驚異的な粘りを見せていた。

大和型戦艦の船体を基に建造された正規空母「信濃」である。

「信濃」は、8時35分に爆弾1発、37分には魚雷2本の連続攻撃を受けた。
通常の空母であれば、この程度の被弾で戦闘続行が絶望的になる。
しかし、「信濃」は大和型船体の堅牢さを遺憾なく見せつけた。

注排水装置が即座に作動し、浸水を制御。艦の傾斜は0度に保たれ
機関も損傷を免れたため、速力26.8ノットを発揮可能であった。
これは、「信濃」が栗田艦隊との合流を急ぎ
ハルゼー艦隊から逃れようとする最後の望みを繋いだ。

しかし、艦隊全体が崩壊していく中で
軽巡洋艦「多摩」にも悲劇が襲う。

「多摩」は、艦首に魚雷を被雷し、大破した。航行は可能であったものの
戦闘続行は不可能と判断され、「多摩」は単独で戦場を離脱し、退却を余儀なくされた。
孤立した「多摩」の運命は、この後、さらに残酷な結末を迎えることになる。


8時15分、米軍の攻撃隊が来襲した直後、小沢機動部隊は
「第一機動艦隊 〇八一五電 敵艦上機約百八〇機来襲我之ト交戦中 地点「ヘンニ13」」
という、最も重要な交戦開始の電報を発信していた。

この電報は、小沢艦隊がハルゼー艦隊の全戦力を引きつけたという
「囮作戦成功」を裏付ける、栗田艦隊にとって最も必要な情報であった。

だが、この電報は、旗艦「大鳳」の通信障害が発生する直前に
「瑞鶴」から発信されたにもかかわらず、連合艦隊も
レイテ湾へ向かう栗田艦隊(第一遊撃部隊)も、受信できなかった。

(現場の戦艦「伊勢」・空母「瑞鳳」は受信記録あり)という事実が示す通り
電波状態、あるいは通信体制の不備により、天王山における
日米両軍の運命を左右する情報が、最も必要な指揮官の元へは届かなかったのだ。

「栗田艦隊」は、未だにハルゼー艦隊が北方へ全速力で
向かっていることを確信できないまま、サンベルナルジノ海峡の静寂に誘われ
運命の東進を開始しようとしていた。

小沢機動部隊は、自らの艦隊が壊滅的損害を受けながらも
囮としての役割を果たし終えた。しかし、その「成功」の果実は
通信の失敗という壁に阻まれ、味方へと届くことはなかった**のである。

9時23分、小沢長官は、旗艦「大鳳」の通信機の状態を問い合わせ
司令部は旗艦変更の準備を始める。しかし、その最中の10時過ぎ
米軍の第二次攻撃隊が飛来し、移乗作業は中断を余儀なくされる。
小沢艦隊の地獄は、まだ続こうとしていた。
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